アルザス伯国から来られた二人の女性
『コクッコクッコクッ』
『美味しいお水ね、マリー♪』
『はい。御嬢様』
母熊と二匹の小熊で構成されている熊の家族から離れた水辺にて、国際河川である父なる川の支流の水を優雅な所作で飲み喉の渇きを潤していられる、侍女らしき褐色の女性を伴われていられる令嬢が居られました。
『もうロレーヌ公国の国内に入ったかしら?』
令嬢に問われた、マリーという名前らしい褐色の侍女は、背嚢から地図を取り出し周囲の地形の確認しましてから。
『はい。御嬢様。この支流は国際河川でもある大河から流れ込んで来ておりますが、地図によればこの地はロレーヌ公国の最北端を御治めになられていられます、子爵閣下の御領地となるはずです』
ふむ。ロートリンゲン公国…、ロレーヌ公国の北にある。エルザス伯国…、アルザス伯国から来られた女性二人でしょうか?。
『ガサッガサッガサッ』『シャキンッ』
森の方から草を掻き分ける音が聞こえますと、マリーという褐色の侍女は無駄の無い流れるような動作で短剣を抜きまして、令嬢を庇う姿勢を取りました。
『おっと、水汲みに来たら上玉発見だぜ♪』
『近隣の農奴の村娘とはかなり毛色の異なる淑女と、侍女の組合せといった感じだな♪』
森の方から草を掻き分けて現れたのは、いかにも無法者という風体の髭面の男性達でした。
『ご機嫌よう』
短剣を抜刀した侍女に庇われている令嬢ですが、一切動じた様子を見せずに優雅にお辞儀を行われますと。
『わたくし達はこの地を訪れるのは初めてなのですけれど、ロレーヌ公国の子爵閣下が御治めになられていられる御領地で間違いはないかしら?』
住んでいる世界が完全に異なる令嬢の態度に、髭面の無法者達はお互いの顔を見合わせましてから。
『あっ、ああ。この地を支配してやがるのは、子爵だな』
『かなり歳がいってるらしいから、もうくたばっている可能性はあるけどな。お嬢ちゃん』
成る程。令嬢に余裕がある理由が解りました。彼女の周囲に急速に魔力が集まりつつあります。
『確認ですけれど、貴方達は子爵閣下の御領地の領民かしら?』
令嬢の問いに対して髭面の無法者達は、嘲笑うかのような表情を揃って見せまして。
『いいや、お嬢ちゃん。俺達は領主の支配を受けていない自由人さ♪』
『森の奥に俺達が暮らしている場所があるから、連れ帰って可愛がりながら話してやるぜ♪』
盗賊団の一員ですね。
『麻痺魔法』『バタッバタッバタッ』
シュルンッ『貴女方に対して敵意はありません。令嬢』
根元魔法の麻痺魔法で髭面の無法者達を無力化しましてから、姿隠之魔法を解除して姿を見せながら両手を上げて、敵意は無いと令嬢と侍女の女性二人の主従に示しました。