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後編2

フレアとノアが共同で研究を始めてから二週間がたっていた。

床は綺麗に掃き清められ、机の上には整頓された資料が並んでいる。


「とりあえず、フレアさんが調べてきた資料には目を通しました。既存の鉱物を溶かす方法について試したのも、やり方も間違っていないと思います。部屋もすっきりしましたし、これから新しい実験が始められますね。」


ノアは箒を持ちながら満足気に言った。


「うぅ。私は別に今までの研究室で問題なかったのに。あなたの家だって石がそこらじゅうに置かれていたじゃない。」


フレアはノアとは対称的に不満気に呟いた。


「あれはあれでキチンと分類ごとに整理して置いているんです。フレアさんの床に散らばっていていた資料とは違います。この前だって鉱物とは関係なさそうな埃のかぶった資料を図書棟の文官に持って行ったときに『やっと返ってきた!』って泣きながら資料をひったくられましたよ。どれだけ長い期間借りてたんですか。」


ノアの目は冷ややかだった。


「ま、まぁ、ずっと読まれずに本棚で眠り続けるよりいいじゃない。それより、新しい実験は何を始めるのかしら?」


フレアは目をそらしながら、切り替えるようにノアに尋ねた。

ノアはため息を一つ吐きながら答えた。


「フレアさんは鍛冶屋が用いる技術のひとつに”合金”というものがあるのはご存知ですか。」


「溶かした金属と金属を混ぜ合わせて新たな金属を創り出すってやつのことかしら。たしか王宮内にそれを専門にして『この技術を極めていけば、黄金を創り出せるはずじゃー』って言って研究をしている爺さんが先輩錬金術師の中にいるわよ。無理だと思うけど。」


ノアは苦笑しながら答えた。


「同感です。黄金は単一の金属から成るので、似たような金属を創り出すことはできても、純粋な黄金は無理だと思います。それはまぁ、置いといて僕が言いたかったことは合金によって創り出された金属はもとになった金属とは別の性質に変化するということなんです。

例えば兵士たちや冒険者が広く武器や防具として使っている鋼ですが、主な材料は鉄です。そこに少量の炭や硫黄などを加えて混ぜ合わせることで鋼になります。鋼は鉄に比べて柔らかく、しなやかなため加工がしやすく、鉄だと破損してしまうような衝撃でも破損しなくなります。」


「ふむふむ。」


「なので、僕はこの水晶も作り出だした人物が合金と同じように複数の水晶を掛け合わせて作り出したと考えています。魔力を宿しているのは普通は結合しないはずの結晶を無理矢理まとめ上げるためでしょう。それならこの水晶が複数の結晶構造を持つ意味も分かりますしね。問題なのはこの水晶の特性です。衝撃に強く、既存の溶解液では溶けない耐腐食性、更には熱にも強い。こんな水晶は初めて見ます。」


「どうするのよ。」


「まずはこの水晶の材料になった水晶を特定する必要があります。ひとつひとつの結晶構造のパターンと合致する水晶探しましょう。」


「わかったわ。それじゃ早速取り掛かりましょう。」


こうして、フレアとノアは地道な原材料の特定作業に取り組み、更に半月の時間が経過した。


「ふうー。残りの猶予期間は半月ってところかしら。さすがに焦ってくるわね。」


「えぇ。ですが、この半月の作業の甲斐あって水晶を構成している原材料はわかりました。まさか三種類の水晶を合成するなんて・・・これを創り出した人物は紛れもなく天才ですね。」


「まったくだわ。なんでこの技術は失われてしまっているのかしら。」


「需要が薄かったんでしょう。水晶は装飾品としては価値がありますが、いつの時代も合成されたものよりも天然に生み出された宝石のほうが価値が高いですからね。それに頑丈な水晶だからといって防具や武器になるわけじゃありません。」


「ふーん。そんなものなのかしら。私はこの閉じ込められている宝石よりもよっぽどこの叡智の結晶のほうが好きだけれどね。」


ノアはそんな風に言うフレアを見て、微笑みながら言った。


「さぁ、原材料の水晶たちを溶かす溶解液を混ぜ合わせて溶けるかどうか、調べてみましょう。」


そう言ってノアはガラス瓶から幾つかの溶解液を取り出し、混合液を作り出した。


「それじゃ、かけてみるわよ。」


フレアが混合液をそっと水晶にかけると水晶は一瞬だけ強く輝いたが変わらぬ姿を保っていた。


「おかしいわね、量が足りなかったのかしら。」


そう言ってフレアは今度はドボドボと混合液をかけ始めた。

しかし、それでも水晶は強く光るだけで姿は変わらない。


「いくら合成して様々な耐性を強めているとはいえ、元となる原材料の脆さはある程度引き継ぐはずです。混合液のバランスが悪いんでしょうか・・・いや、もしかしたら!」


ノアは一瞬訝しんだ表情を浮かべていたが、慌てて資料を漁り始める。


「やっぱりです。もとになった三種類の水晶たちはどれも耐低温脆性に問題があります。出土したこの国の気温的に劣化しないのはおかしいとは思っていたんですが、この魔力は三種類の水晶をまとめ上げるためのものではなく、外部の寒さから水晶を守るものためのものだったんです!つまり・・・」


「氷の魔術で氷結させれば脆くなるってことかしら?」


「その通りです!あ、でもフレアさんは・・・」


「ご想像通り青の魔力を使う氷系統の魔術は私が一番苦手な魔術よ。でも今回はぴったりの魔術師が居るわ。」


「ぴったりの魔術師ですか?」


ノアは訝しんでフレアを見た。


「そ、ぴったりの魔術師。自分の首飾りなんだから自分の力で宝石を手に入れないとね?」


そう言ってフレアはニヤリと笑った。


一週間後、フローシス国の第三王女であるクリスタル・マリア・フローシスは淡く透き通った青色の髪をたなびかせながら、フレアの研究室の前に立っていた。


「フレア先輩の研究室に入るのは随分と久しぶりが気がいたしますね。」


「そうかしら?まぁ、今回はあなたの魔術の力が必要なの。協力してくれるかしら。」


「もちろんですわ。フレア先輩の頼みですもの。」


そう言ってクリスタルはふわりと微笑んだ。


「あなたに氷の魔術をかけてほしいのはこの水晶よ。この中に閉じ込められている宝石を取り出したいの。私たちの見立てでは氷結させればこの水晶は脆くなるはずなのよ。」


「まぁ。綺麗な水晶なのに残念ですね。わかりました、それでは準備しますね。」


フレア達が研究室の中に入ったころにはすでに居た少年は誰なのだろうとクリスタルは思いながら、氷の魔術を放つ。

氷結されられた水晶は一際強く輝くと光を失い、ピシリと音を立てて細かなヒビが水晶全体に走った。


「やったわ!これであとは混合液をかけてっと。」


フレアが混合液を水晶にかけるとドロリと水晶は溶けだした。

フレア達が見守るなか真紅に煌めく大きな宝石が姿を現した。

誰もが息を吞み、感嘆のため息を吐いた瞬間、真紅の宝石が突然燃え上がり、輝いた。


「凄く、綺麗です。」


クリスタルはうっとりと宝石が燃え上げる様子を眺めていた。


「えっっっ!!!ウソでしょ?ウソウソウソ!」


フレア大慌てで何とかしようとしたが何もできず、ただわたわたとその場で慌てていた。

大慌てで騒ぐフレアと頬を高揚させながら眺めるクリスタルの後ろでノアは呟いた。


「燃え上がる宝石を閉じ込めるために耐低温脆性を犠牲にしてでも耐熱性を高めた水晶を合成したんだ。三種類じゃない、閉じ込められた宝石を含めた四種類の結晶で初めて完成する作品だったんだ・・・」


一週間後フレアは国王からの呼び出しを受けて王の間で跪いていた。


「フレアよ、表を上げよ。此度の招聘、なぜ呼ばれたかは分かっておるな?」


頭を上げたフレアの前には国王、クリスタル、そして宮廷錬金術師の重鎮達が揃っていた。


「は、燃え尽きてしまった宝石の件についてでございますね。」


フレアは自身に冷や汗が流れるのを感じながら答えた。


「その通りだ。おぬしはわが娘であるクリスタルに魔術の協力を申し込み、魔術をかけて水晶を溶かした。その際、露出した宝石は突然燃え上がり無くなったしまった。そのことに間違いはないか?」


「はい、その通りでございます。」


「よりにもよって、王より預かった品を紛失してしまうなど・・・」


「もしや、事前に偽物とすり替え、本物は隠し持っておるのではないか?」


ひそひそと宮廷錬金術師たちは喋りだす。

フレアははらわたが煮えくり返るような思いで言い放った。


「違う!私は宝石を隠したり、盗んだりなどしていない!」


「両者とも静かにしたまえ。クリスタルよ、おぬしは宝石が燃えるのを見ていたのだろう?フレアは嘘をついていると思うか?」


国王は傍に控えて座っていたクリスタルに尋ねた。


「いいえ、お父様。たしかに私は宝石が輝きながら燃え上がりなくなってしまったのを見ましたわ。水晶を溶かせ。という命令に従っただけのフレアに責は無いとクリスタルは考えております。」


重鎮たちがざわざわと騒ぎ出す。


「ばかな。クリスタル王女殿下、その処遇は甘すぎますぞ。」


「左様、左様、大体いくらクリスタル王女殿下と仲が良いとはいえ、此度の事件は重大な過失なのじゃ。お咎めなしなど、王家の沽券にかかわりますぞ。」


フレアは再び頭に血が昇るのを感じたが、国王が王錫で床を突き重鎮たちを黙らせた。


「静かにしろと言っておろうが。フレアよ、すまぬがおぬしが余が預けた品を失ってしまった事実はうごかせぬ。処罰などは行うつもりは無いが、宮廷錬金術師としての任を解く。此度の件はこれで終いとする。」


国王はそう宣言し、王の間を後にした。


「そんな!お父様、お待ちになってくださいませ!」


クリスタルも国王を追いかけて王の間を出て行ってしまった。

残されたフレアは重鎮たちの嘲笑うような声を聴きながら、俯いて王の間を後にした。


「お帰りなさい、フレアさん。結果はいかがでしたか?」


フレアの自宅でノアはフレアが帰ってきたのを見ると遠慮がちに尋ねた。


「宮廷錬金術師をくびになったわ。あーーーーせいせいするわ。いい加減あの爺どもと顔を合わせるのも嫌だったのよね。この住居は引っ越さないといけないし、クリスタルと別れちゃうのは少し寂しいけれど、二度と会えなくなるわけじゃないし、のんびり旅でもしながら新しい職場でも探そうかしら。」


吹っ切れたように振る舞うフレアを見ながら、ノアは薄い水色の水晶がはめ込まれたペンダントを差し出した。


「これは?」


フレアは眉をひそめながらノアに尋ねた。


「溶かした水晶の残りをかき集めて、固めなおした水晶のペンダントです。魔力は込めることができなかったので透明な樹脂でコーティングしています。差し上げます。そ、その、フレアさんには燃え尽きてしまう宝石よりも強く、揺るがない水晶が似合うと思うので!」


ノアは頬を染めて照れくさそうに言い切った。


「ぷっ、なにそれ。口説いているつもりなのかしら?でも、いいわね。受け取ってあげるわ。ありがとう。」


フレアは笑いながら、それを受け取ると首にかけた。


「どう?似合うかしら?」


「はい、とっても似合っています!」


ノアとフレアは笑いあい、家の引っ越し作業を始めるのだった_____。




























最後まで読んでくださった読者の皆様こんにちは。

今回は赤毛の錬金術師は溶かしたいを読んでいただきありがとうございます。

今回の後編2をもちまして物語は完結となります。4話しかない非常に短い物語でしたがいかがだったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。

ハッピーエンドを期待していた読者の皆様にとっては少し後味の悪い結末になってしまったかもしれません。申し訳ありません。一応非常に短くはなってしまいますが、エピローグを添えてこの物語を完全に終わりにしようかなと作者は考えています。

毎度のことですが感想・レビュー等ありましたら是非ともお願いします。続きが気になる方はブックマークもおすすめです。誤字脱字の方もよろしくお願いいたします。


さて、これから先は作者の短編を書くあたっての小話になります。興味のある方だけ読んでいただければと思います。

実は作者はアニメというものをほどんど見ません。最近だとめちゃめちゃ流行っていると聞いていたウマ娘を見たくらいでしょうか。そのくらい見ません。

なので所謂なろうの小説に出てくるようなアニメで登場するようなのキャラクターたちというものがどうにも想像がつかなかったのです。そこで作者は「錬金術師 キャラクター」でネット検索をしてあるイラストにたどり着きました。はい、ここまでの話で誰のイラストを参考にこの物語を書いたのか分かる人は分かると思います。イラストの元ネタについて軽く調べて、類似するような登場人物たちも登場させてしまいました。なので参考にさせていただいたイメージの立ち振る舞いとはかなりの齟齬を感じてしまった方も相当数いるかと思います。あくまでそのような感じの見た目の別人と考えてもらえればと思います。以上が今回の物語の製作小話になります。

長々と続く後書きを読んでくださり、ありがとうございました。


では、次回作話予定の短編「黄色の横断屋は運びたい」でお会いしましょう。

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