後編1
ノアと研究の期間と依頼料について話し合い、鉱山の町を出立したフレア達は首都への街道の途中で馬車を猛スピードで走らせていた。
「行きは何事もなかったのにぃぃぃ。ついてないわねえぇぇ!!」
「このままじゃ追いつかれちゃいますよ!!」
時は少し遡り、街道に沿って馬車を進めていたフレア達はそろそろどこかで暖を取ろうかという道中で魔獣であるフローシスクマにばったりと遭遇していた。
「冬眠し損ねたフローシスクマはかなりしつこいですよ!どうしますか!!馬車を放棄しますか!!」
「馬車の弁償代いくらかかると思ってるの。それにこの季節に荷物なしで夜を過ごすのはかなり無謀よ!それよりも私はクマを追い払う手段があるわ!もっと馬車を走らせなさい!」
馬車の手綱を握るノアは叫んだ。
「えぇ!?追い払う手段持ってたんですか?それなら早く追い払ってくださいよ!」
「あぁ、もう。私は攻撃魔術の制御がそんなに得意じゃないの!!それに私が使える魔術で魔獣を追い払うくらい強い魔術は炎系統の魔術しかないし、こんな狭い森に挟まれた道でそんな魔術を使ったら最悪森が燃え広がって大火災よ!つべこべ言わずもっと開けた場所まで馬車を進めなさい!」
「くっ。わかりました。もうすぐで森が一度途切れた岩場が有ります!そこで迎え撃ちましょう。」
馬たちが疲弊し始めそろそろ全速力の逃避行も限界だというところで森が開けた。
「よし!みんなよく頑張ったわね!いくわよ!」
フレアは馬車を飛び降りると追いかけてきたフローシスクマに向かって魔術を放った。
暗くなりかけた晩秋の星空を吹き飛ばすような真っ赤な炎がフローシスクマの鼻先を炙った。
「ギャォ。」
クマは追いつめていた相手の思わぬ反撃に驚き、慌ててその場から立ち去った。
「ふぅー。なんとか退いてくれたかしら。もうだいぶ暗いけど念のためもう少しだけ馬車を進めてから今夜の暖を取りましょう。」
「賛成です。この岩場じゃ付近に水がありませんし、万が一戻ってきたクマにまた追われるのはごめんです。」
そう話し合ったフレア達の乗る馬車はノロノロと進んでいくのだった。
二日後フレア達は首都にたどり着き、旅の疲れを中央区にあるフレアの自宅で癒していた。
「いやー途中で死ぬかと思ったけれど、何とか帰ってこれたわねー。」
「まったくです。あ、お風呂ありがとうございました。とても気持ちがよかったです。それにしても個人でお湯が使える浴室を備え付けてるなんてすごいですね。」
「これでも宮廷の錬金術師よ。結構お給金はいただいているわ。大貴族たちみたいに全身浸かれる浴槽に蒸し風呂もってわけにはいかないけれどね。小さいけど使い勝手のいい浴室だったでしょ。」
「僕たち平民にとっては自宅に浴室があるだけで十分贅沢ですよ。それじゃ僕は宿を探してくるので、研究は明日からにしましょう。今日はもう体を休めたいですしね。」
「え、なんで宿探し?ここに泊まればいいじゃない。空き部屋はあるし、あなたの口ぶりだと一ヶ月以上も中央区の宿に泊まり続けるなんて考えてないでしょ。中央区から外れた宿から王宮にある研究室までどれだけかかると思っているの。時間がもったいないわ。」
「えぇ!?あの、僕これでも成人していますし、その、男女が一つ屋根の下で暮らすといつのはあの、いかがなものかと思うのですが。」
ノアは頬をやや紅潮させて口をもごもごさせながら呟いた。
「ふん。気にしないわよ、ようは弟みたいなもんでしょ。それにあなたが情欲に駆られて襲ってきたとしても魔術はもちろんだけど腕力的にも負ける気はしないもの。」
「くっ。そこまでおっしゃるなら泊まらせていただきます!宿代だって節約できますしね!」
ノアは頬を膨らませて言った。
「よろしく~小さな研究者さん。ま、掃除と皿洗いくらいは宿代代わりにしてもらおうかしら。それじゃ王宮へは明日の朝、向かいましょう。」
そうして首都の夜は更けていくのだった。
翌朝フレア達は朝食をとった後、王城の門番たちに挨拶を告げた後、王宮の一角にあるフレアの研究室にたどり着いていた。
「フレアさんってひょっとして宮廷の中でもかなり上位の錬金術師なんですか?この場所ってかなり王族の方々のパーソナルスペースに近い感じがするんですが。」
「上位がどうかは別として、クリスタル王女は私が通っていた学園での後輩にあたるの。その時に相談に乗ったりして、かなり親しくしてもらったから気に入られているってのは確かかもね。」
フレアはそう言いながら研究室に備え付けられている戸棚を開けて水晶を取り出した。
「そして、これがそのクリスタル王女の首飾りとしてあしらわれる予定の宝石が閉じ込められた水晶よ。どうかしら、何かわかりそうかしら。」
宝石が閉じ込めた水晶はフレアが旅へ出かける前と変わりなく淡く光りながら美しく輝いていた。
「うわぁぁ。とても綺麗な水晶ですね。確かに似た見た目の鉱石水晶はいくつか思い浮かびますが、
これと完全に特徴が合致している鉱石水晶は僕も知りません。これはどうやって作り出されたのか非常に興味深いですね。」
「やっぱり専門家とはいえ一目見ただけで問題解決!とはいかないか。残された研究に使える期間は一か月半ってところかしら。それで?まずはどんなことから水晶を解析するのかしら?」
「そうですね。まずはこの水晶の結晶の構造がどうなっているのかを見てみましょうか。」
そういうとノアは自分が自宅から持ってきた鞄のなかから古びたモノクルのようなものを取り出した。」
フレアは気になって尋ねた。
「なに?あなたって目が悪かったの?そんな風には見えなかったけれど。」
「違いますよ。結晶の構造を見るって言いましたよね。これは見た目はモノクルですけど実は魔道具なんです。普通のモノクルは文字を大きく見やすくする程度ですけど、これは違います。ここの縁についているネジを回せば回すほど見ているものを拡大して見ることができるんです。これのおかげで普通の人間の目では見られないような水晶の小さな粒を見ることができるんですよ。」
そう言ってノアはレンズを縁取っている金属に付いた小さなネジを回しながら水晶を観察し始めた。
「へぇ、そんな機能がある魔道具が存在するのね。知らなかったわ。」
フレアが観察を続けるノアを眺めながら言うと突然ノアが興奮したように喋りだした。
「フレアさん!これは凄いですよ!水晶自体が光っているのであんまり長時間見ていられないんですが、水晶の構造を見ていたら複数の結晶構造パターンが見えたんです!普通の鉱石の結晶は一つのパターンで水晶が構成されているはずなので、このあたりの秘密がこの水晶から宝石を取り出すヒントになるかもしれません!」
フレアはニヤリと笑うと言った。
「あなたを雇って正解だったわね。研究が一歩前進したわ、私は何をしたらいいのかしら?」
「とりあえず今までにフレアが調べたという鉱石の資料を見せてください。そこからどの資料を見てどんな方法で水晶を溶かそうとしたのか詳しく教えてください。もしかしたらまだ試していない溶解液や方法で水晶を溶かせるかもしれません!」
それからフレアとノアは部屋に散らばった資料を見ながらあーでもない、こーでもないと言い合いながら研究を進めるのだった。
最初に、ここまで読み進めてくださった読者の皆様にお詫びを申し上げなければいけません。
作者がノリと勢いでこの物語を書いているせいで前回の後書きで述べていた通りに後編で完結!というわけにはいきませんでした(泣)。物語の結末が見たかったという読者の皆様すみませんでした。
物語の構成を考える力が当たり前ですが足りていませんね。なんせこれが作者の一作目なので、ヘヘヘ、許してください。
今度こそ!次話の後編2では完結予定です。本当です。
毎回後書きで書いてしまっていますが感想・レビュー等ありましたら是非ともお願いします。続きが気になる方はブックマークもおすすめです。
それでは後編2でお会いできるのを楽しみにしています。