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中編

バーのマスターから住所を記した紙を受け取った翌日フレアは鉱山に居るという研究者を訪ねるために自宅で身支度をしていた。


「うーん。目的の町まで片道馬車で三日か。街道沿いにはそれほど危ない魔物も盗賊も出現しないだろうし、護衛はなしでもいいか。」


そう考えてフレアは自分の住んている首都を後にした。


予定通りに三日ほど馬車に揺られ、フレアは目的の町に到着した。

鉱山を中心に栄えている町らしく街のあちこちには煙突の立った鍛冶場がいくつもあり、金槌で金属を打つ音が響いていた。


フレアは足早に近くの工房と思わしき建物に入り、金属を打つ音に負けないように大きな声で尋ねた。


「すみませーーーん。この町に鉱石について研究している方がいると聞いて尋ねてきたのですが、ここに記してある住所がどのあたりなのか教えていただけませんかーーー?」


「なんだぁ、嬢ちゃん人探しか?どれ、見せてみろ。」


そう言ってガタイのいい男が住所の記された紙を見ると、


「あぁ、この住所だと町の西側だ。細かい番地については西区に店を構えてる奴にまた尋ねてみればいいぜ。」


「どうも、ありがとうございます。これ少ないですがどうぞ。」


フレアは親切に場所を教えてくれた男に心付けを渡しながら、町の西へ向かった。

町の西側は宿舎街のようになっており、非常に多くの建物が乱立していた。


「うひゃー、どの家かこれじゃさすがに一目では分からないな。」


フレアは昼食をとりながら情報を集めてみようと宿屋らしき建物に向かった。


「すみません。ここってご飯食べれます?あと部屋って空いてますか?」


フレアが声をかけながら建物に入ると店の奥から恰幅のいい女将がにゅっと現れた。


「はいはい、可愛らしいお嬢さん。部屋も空いているし、ご飯も食べれるから好きな席に座りなさんな。部屋は一泊400ゴールドだよ。大丈夫かい?」


「とってもお手頃価格ですね。ではとりあえず一泊と昼食をなにかお願いします。」


「かしこまりました。おーい、あんた昼食の注文だよ。」


女将が奥の厨房らしき部屋に声をかけると、男の声であいよ。とぶっきらぼうな返事が返ってきた。


「ところでお客さんはどこから来たんだい?えらく立派な恰好をしているじゃないか。」


「私は首都から来ました。錬金術をしているので恰好はそれなりにしていないと舐められてしまうんです。ここへは人を探しに来たんですが、女将さんこの住所ってどこにあるかわかりますか?」


そう言ってフレアは住所の記された紙を女将に見せた。


「へぇ錬金術師様だったのかい。そりゃお偉いさんだね。どれどれ・・・あぁこの番地はノア先生のところだね。お客さんはノア先生を探しにやってきたのかい?」


「私は鉱物に関して研究をしている人物が居ると聞いてこの町に来たんです。そのノア先生という方は鉱物に関して詳しい方なんでしょうか?」


「そりゃ詳しいよ。この前だって誰も病気がわからなくて困っていた服屋のところの次男坊の症状を「これは何々という鉱石に含まれる毒素が原因だから作業服の洗濯はほかのものがしたほうが良い」とおっしゃられてから病気が治っちまったって聞いたからね。鉱石についての知識ならこの町の誰よりも知っているはずさ。」


「へぇ、それはすごいですね。」


どうやらフレアの探している人物は町の相談役の様なこともしているようだ。

これは期待がもてるんじゃないとフレアは心の中で喜んだ。


その後女将からノアが住んでいるという家の詳しい位置を聞き、フレアは昼食を食べてから宿屋を後にした。


「さて、女将さんは家の前に山のように鉱石が積まれているからすぐにわかるはずだって言ってたけど・・・あったわね。あの家ね。」


フレアはまるで砂漠の国で蟻がつくる砂塚ってこんな感じなのかしらと考えながら、玄関先にうず高く積まれている鉱石たちを見ながら声を上げた。


「ごめんくださーい。ここに鉱物に関して詳しいノアという方がいらっしゃると聞いてきたんですけれどもノア先生はご在宅でしょうかー?」


フレアが玄関先で少し待っているとギィと音を立てて扉が開き、大きな丸眼鏡をかけた小さな男の子が出てきた。


「こんにちはぼく。ここにノア先生って方はいらっしゃるかな?」


フレアは笑顔で男の子に尋ねた。


「あ、あの、僕がノアです。」


男の子はオドオドしながらフレアを見て答えた。


フレアの笑顔は固まった。


((噓でしょ!わざわざ三日もかけてこの町まで訪ねてきたのにこんな小さな男の子が研究者ですって?

どう見ても11、2歳くらいにしか見えないけれど・・・マスター!どうなってるのよ!))


「へ、へぇ。あなたがノア先生なのね。私の名前はフレア・インダストリアルよ。首都で宮廷錬金術師をやっているわ。首都のバーのマスターに紹介してもらってここを訪ねてきたのだけど、あなたっていくつなのかしら?とっても若く見えるわね。」


フレアは内心がっかりしていることを悟られないように努めながら尋ねた。


ノアはフレアが錬金術師と名乗ると、瞳に僅かな警戒心を滲ませながら答えた。


「僕は今年で15になりました。身体が小さいのは生まれつきです。マスターさんの紹介でいらしたんですか。あそこへは砕くと調味料になる鉱石を度々納入しに行くんです。それで?宮廷お抱えの錬金術師様が私になんの御用でしょうか。」


ノアのやや棘のある態度にフレアは焦りを感じた。


((マズったわねー。見た目の話は地雷だったかしら。))


「あら、ごめんなさい。既に成人されていたのね。子供扱いしてしまった事は謝るわ。実はここへはあなたに魔力を宿した水晶を解析してもらいたくてやってきたの。」


ノアは水晶と聞くと少し瞳を輝かせてから口を開いた。


「魔力を宿した水晶ですか。実際に見て見なければ解析のしようがありませんね。水晶を見せてもらっても良いですか?」


「残念だけれども今の私の手持ちの荷物には無いわ。王宮からの持ち出しは禁止されているの。私のスケッチで良ければ見せれるわ。現物を見たければ私の研究室に行かないといけないわね。」


「そうなんですか。とりあえずスケッチを見せてもらいましょう。家へどうぞ。お茶くらいでしたら出せます。」


そう言ってノアは扉を開け放って家へと手招いた。


ノアの家は至る所に鉱石が並べて保管されており、木造の筈なのにまるで石の家といった様相だった。


フレアはノアに案内されたテーブルにつくと尋ねた。


「ところであなたはこの家にひとり暮らしなのかしら?」


「3年前まで義父と一緒に暮らしていました。僕は捨て子だったのを義父が拾って育ててくれたんです。義父は鉱物学者でした。探鉱内での調査の仕事をしている時に崩落に巻き込まれて帰らぬ人になってしまいましたが。」


そう言ってノアは寂しそうに笑った。


「それは...ごめんなさい。また失礼な事を聞いてしまったわね。」


「いえ、いいんです。お茶、いれてきますね。」


((育ての親と同じ道を歩むか...彼なり恩返しなのかしらね。))


フレアはそんな事を思いながらノアの背中を見ていた。


ノアが淹れてくれた紅茶を飲みながら、フレアはスケッチを手渡した。


「これはスケッチだから色は付けられていないけれど、実物は魔力光を淡く発しているわ。通常の鉱石は魔力を宿していることはあっても自ら発光することはないから、明らかに誰かが何らかの意図を持って作り出した水晶よ。中に真紅の宝石が閉じ込められていることも含めてね。過去の鉱石に関する資料を色々漁ってみたのだけれど、特徴が合致する水晶が見当たらないのよ。王宮に収められている文献を調べているからかなりの種類の鉱石については把握できていると思うんだけどね。どうかしら、何かわかるかしら?」


「なるほど。これは面白そうな依頼ですね。」


ノアは瞳を鋭く輝かせながら呟いた。


「魔力光を淡く発しているとおっしゃっていましたね?何色に光っていましたか?」


「淡い青色よ。あ、熱魔術で水晶が溶けないかくらいは既に試しているわ。中の宝石を傷つけるわけにはいかないから、破砕するような荒っぽい方法はできれば取りたくないの。でも、私の力で金槌を振り下ろすくらいじゃ傷一つつかないくらいには頑丈よ。」


「ふむふむ。熱に強く、衝撃に対しても強いんですね。ますます不思議な水晶ですね。あまり使用はされることはないんですが、鉱石の溶かすことのできる液体はご存知ですか?」


「もちろんよ。水溶液を取り寄せて軽く浸してみたけど変化無しだったわ。」


「むむむ・・・となると一通り試せることは試してらっしゃるのですね。と、なるとやっぱり現物を実際に調べてみないことにはこれ以上のことは分かりそうにないですね。そうだ、中に宝石が閉じ込められているとおっしゃっていましたね?そちらはどうなんですか。普通の宝石に見えますか?」


「それに関してなんだけれど水晶が光っているせいでかなり見えにくいのよね。真紅色で大きな宝石よ。拳大のね。でも私は閉じ込められている宝石も新種のものだと思っているわ。時々ね石の模様が変化しているような気がするのよね。こう、うまく言えないけれど、色の濃淡が少しずつ変わっているようにみえるの。気のせいかもしれないけどね。」


「・・・ますます興味がそそられますね。決めました。首都に行って僕もその水晶について調べさせてください。魔力については扱うことができませんが、なにか気づけることがあるかもしれません。」


「よしっ、そうと決まれば話は早いわね!今日はもう夕刻だし、出発は明日の朝にしましょう。馬車組合のところで合流して馬車に乗る。それでいいわね?」


フレアは意気揚々とノアに提案を持ち掛けた。


「待ってください。フレアさんはマスターの紹介で、こちらにいらしたんですよね?僕にも生活があります。依頼料はしっかりと払ってください。今から相談しましょう。」


ノアは目を細めて言った。


「ちっ。ばれたか。」


「誤魔化されませんよ。」


それからフレアとノアはしばらく依頼料について話し合い、翌朝首都に向けて鉱山の町を出発する算段を整えるのだった。







こんにちは、また会ってしまいましたね。チャレンジ精神溢れる読者の皆様。

この度は赤毛の錬金術師中編を読んでいただき、誠にありがとうございます。前編に引き続き読んでくれたこと、本当に感謝しています。今回も苦しんで文章をひねり出した甲斐がありました。

さて、前回私はあとがきを本文のほうに書きこんでしまったのですが、なんとびっくり後書きは後書きでしっかり記入できる欄があるではありませんか!

さすが新米投稿者、まだまだなろうの機能を使いこなすには時間がかかりそうですね!

前回の投稿を終えた後に気づきました。読者の皆様からの視点だとどう変わるのか、後で自分でもチェックしてみますね。

まだ二話分しか投稿していませんが、この物語は次回の後編で完結予定です。

短いお話ですが、些細なことでもいいですので、感想・レビュー等ありましたら是非ともお願いします。

それでは後編でまたお会いしましょう。

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