前編
「あぁー、どうやったらこの水晶?は溶けるんだぁぁ。」
資料が散乱し、埃の匂いが微かにかおる研究室のような場所で燃えるような赤い髪の毛の少女フレア・インダストリアルは呟いた。
フレアは王宮に勤める宮廷錬金術師だった。
小さいながらも領地を預かる小貴族の家に生まれ、幼い頃から魔力を使う才能を認められ18歳の今に至るまで研鑽を積んできた。
努力の甲斐あってかフレアの才能はすくすくと成長し、成人の証である15歳という年齢に到達すると同時に宮廷入りという異例の出世をとげた。
「全くもって分からーーーん。これを作り出した人はどういう脳ミソのつくりをしていたのかしら?」
しかし、フレアは現在目の前の課題に悪戦苦闘していた。というのも
「フレアよ、おぬしには是非ともこの水晶を溶かし、中に入っておる宝石を取り出してもらいたい。」
そう言ってフレアの主である国王は真紅に煌めく宝石が閉じ込められた淡く光る水晶を手渡してきた。
「この水晶は我が国の未開地調査隊が成果として持ち帰って献上してきた物なのだ。半年後にわが娘であるクリスタルの成人の儀が控えているのは知っておるな?それを祝してその閉じ込められておる宝石を使った首飾りを贈りたいのだ。」
フレアは国王がなにがしたいのかを理解した。
と同時にフレアは嫌な予感がしながら尋ねた。
「では、研究に使える期間はどれ程いただけるのでしょう?」
「そうだな、取り出した宝石を首飾りに仕立て上げる期間も必要になる。研究に使えるのは三ヶ月程だ。」
国王はさらりとそう答えた。
「う、承りました。何とか三ヶ月で宝石を取り出せるよう尽力したいと思います。クリスタル王女殿下の成人の儀が今から楽しみでありますね。ホホホ。」
乾いた笑みと笑い声を張り付けながらフレアは心の中で悪態をついていた。
((期間が短すぎるっ!!未知の方法で作られた物質を解析するのに少なくとも年単位の期間は必要でしょうが!!))
フレアは自身にあてがわれた研究室に帰り大きなため息を一つつくと、気持ちを新たにした。
「とは言え、あの子の成人の儀は私もちゃんと祝いたいわね。」
フレアとフローシス国の王女であるクリスタル・マリア・フローシスは面識があった。
フレアの住むフローシス国の貴族籍の子供たちは6歳から14歳まで国の首都にある学園で貴族としての一般教養や領地経営の知識などを学ぶ。魔力を扱う才能がある者もこの学園で学ぶのだ。
フレアとクリスタルは学園で知り合い、クリスタルはフレアの錬金術師としての才能を褒めそやした。フレアもかわいい後輩に慕われて褒められることに悪い気はしなかった。
それからフレアは一ヶ月ほど自身の研究室で過去の鉱物に関する資料を漁ったり、水晶を金槌でたたいてみたり、得意とする熱魔術で水晶をあぶってみたりした。
しかし、魔力を宿した水晶は一向に変化の兆しをみせなかった。
「やっぱり三ヶ月じゃ厳しいわ。誰かの助けがいるわね。でも宮廷内の錬金術師たちじゃなぁ・・・」
フレアは苦虫を嚙み潰したような顔で呟いた。
王女と仲が良く、若き才能であるフレアは宮廷内の先輩錬金術師たちにとって目の上のたんこぶなのだ。フレアの研究に素直に協力してくれるとは思えなかった。
「仕方ない、外部から人を探すか。」
フレアは伸びをして凝り固まった体をポキポキと鳴らしながら、コートを取り雪がちらつく町中に繰り出した。
「やっほー、マスター。店もう開いてるー?」
フレアは自分の行きつけであるバーの扉を開けながらカウンターでグラスを磨いていた壮年の男に尋ねた。
「フレア様ようこそいらっしゃいました。もう夕刻ですか。少々早いですが店を開けましょう。お好きな席にどうぞ。」
壮年の男は微笑みながらフレアに促した。
「ありがとー。いやー秋とはいえもうすっかり寒いね。何か温まる料理とお酒を一品おねがいしようかな。それと今回は人の紹介もお願いしたいんだけど。」
フレアの住むフローシス王国は大陸の北部に位置しており、冬は長く夏は短かった。
王国の食糧事情は厳しく、夏にとれるわずかな作物と過去の遺跡を調査する調査隊が持ち帰る成果物、そこから作り出される魔道具の生産によって国の運営を行っていた。
フレアは冬になり、人の出入りが完全に滞る前に何とか協力してくれる人を見つけ出そうとしていた。
「人の紹介ですか。どのような人物をお探しですか?」
バーは様々な職種の人が集まる場のためマスターは人材の紹介も行っていた。
町でそれなりに名が知られてるが、あまり人と関わろうとしないフレアが人探しを頼むのは珍しいなと思いながらマスターは答えた。
「魔力を扱う事ができて鉱物に関して研究をしている者、できれば水晶に関して造詣の深い人がいいんだけど。どう?居る?」
フレアは期待薄だろうなと考えながらマスターに尋ねた。
この世界で魔力を少しでも扱える人物は人口の3割ほどだ、そんな中でさらに石の研究をしている者が自分の付近に都合よくいるとは思えなかった。
「鉱物に関しての知識を持っている魔力持ちですか・・・残念ながら心当たりはありませんね。ですが魔力を扱うことはできませんが、鉱山を拠点にして鉱石の研究をしている者が客におります。その方なら紹介できるかもしれません。住所をしたためてお教えすることはできますがいかがしましょうか?」
「さすがマスター!人脈の広さが違うわね!この際魔力が扱えなくてもいいや、私が今研究している水晶について何か知っているかもしれないし、紹介してもらえる?」
「かしこまりました。それでは紹介の仲介料についてなのですが・・・」
そう言ってフレアはマスターに住所を教えてもらい、料理とお酒をたっぷりと楽しんでから大満足でそのバーを後にした。
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あとがき
なろう世界の皆様初めましてこんにちは!
数ある作品の中からこのような新米ペーペーの作品を読んでくださり誠にありがとうございます。
私はふだん自分が気に入ったなろう小説をちょこちょこと読んでいるスタイルなのですが、何故か突然創作意欲が湧いてきてノリと勢いで初投稿に至ってしまいました(汗)
さて、自分がいざ書き始めて思ったのですが、自分の想像を形にするのってすごく大変です。
普段何気なく読んでいる小説だったり映像だったりってとんでもない労力がかかっているんだなと感じます。
そんな凄い小説達のなかに稚拙な小説ではありますが、自分が書いた小説があるかと思うとなんだか誇らしく思えてきますね!
今回の「赤毛の錬金術師は溶かしたい」は前編、中編、後編の三部作の短編の様な作品になる予定です。
今回の話が前編ですね!
「短ぇよ!じゃあ短編で上げろや」って思った方。分かります。短いですよね(汗)ですが早く投稿ボタンをポチッと押してみたかったのです。ごめんなさい。
では、改めてこの作品を読んでくださった全ての方に感謝です!!
「続きはよ書けや」って方はブックマーク、高評価お願い致します。作者の励みになります。誤字脱字等も気をつけてはいますが、ありましたら報告お願い致します。
それでは中編でまたお会いしましょう。