表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の水平線  作者: NBCG
本編
8/97

8話 衝突

明海三十八年 4月18日 高砂島北部海域 航行艦隊臨時即応編隊 副旗艦 空母応龍 第一会議室


「注目!」


上官の声が響く。


「これより、高砂島に圧力を掛けてくる文華民国の艦隊に対し、我が軍の艦隊による牽制を行い、圧力を加える。だが、これはあくまで牽制目的であって、戦闘が目的ではないということを忘れるな。なるべく文華民国海軍艦艇の進路を我が国の国境を越えさせないよう誘導させろ。ただし、文華民国の方からの攻撃が認められた場合は、ただちにそれらを鎮圧せよ。私から言うことは以上だ。各位、気を引き締めてことに当たれ。解散!」


そしてその後直ぐに、空へと上がることとなった。


高砂島北部海域 上空


「こちら第一〇三航空群、第三一五攻撃中隊、瑞守隊隊長、相坂。文華民国海軍艦隊を視認。およそ1分後にその上空を通過する」


『こちら咲銛、了解。そのまま進路を維持し、文華民国海軍艦隊上空を通過せよ。当該艦隊より攻撃が認められた場合、回避行動をとり、その後こちらの指示に従え』


「瑞守隊、了解」


報告を司令偵察機、鱗雲に搭乗する咲銛隊に行う。


俺が隊長を務めている、瑞守みずもり隊は投下爆弾と魚雷を抱えながら文華民国海軍の艦隊を威嚇するのが務めだ。


そしてまた、敵……いや、”まだ”敵ではなかったが……、相手の艦隊の状況を逐一報告するのも任務の一つでもある。


現状戦闘は行わない規定になっているため、威嚇飛行以外は偵察機と変わらないようなことしかできない。


「あーあー、向こうの船もこっちの艦隊に砲、向けてるよ」


「一触即発、ってやつだな」


操縦席から見える文華民国海軍の艦隊の多くの船が浜綴帝國海軍の艦隊に対して砲を向けていた。


「対空砲は……やっぱりこっちに向いているよなぁ……」


遠くであまり見えにくいが、搭載されている対空砲も、浜綴帝國軍の航空機に対して向けられている。


文華民国軍は国家成立からあまり経ってはいないが、航空戦力や対空砲に力を入れている。


空母こそないが、戦闘機や爆撃機など、本格的な航空戦力の設計、製造も行っている。


文華民国がまだ唐国と呼ばれていた時代、「白白一」という機体を製造していた。


これは煤羅射が帝國と戦争していた時、航空機「天風」を鹵獲、それを煤羅射が作りやすいように少し再設計された「Pp-1」という機体を製造したものの製造権を得て製造していた機体と言われている。


そしてそこで得た「白白一」と言われる機体を文華民国となってから改造、再設計した機体が「白虎」と呼ばれる機体になる。


更にその後継機として「虎威」という機体が開発され、現在文華民国に配備されているとのことだ。


この他にも、「白白一」や「白虎」を元に爆撃機などの開発を行っているらしい。


はっきり言って、文華民国にそこまで開発できるような国力は唐国から引き継いでいるものが多いとはいえ、そこまで無いはずだ。


航空関連戦力以外は中小国から見ても最新鋭兵器となりえるものは殆ど配備されていない。


この機体が通過した下の巡洋艦も、砲が中央配置にはなっているものの、その形状は古く、一昔前よりも更に前の船の印象を抱かせるほどだった。


ここまで文華民国が航空戦力一辺倒なのは、唐国時代、浜綴と戦って痛い目を見させられたからなのか。


『咲銛から瑞守へ。時間だ。帰投せよ』


「瑞守了解。瑞守隊他へ、聞いたな。帰投する。進路を取るから続け」


『『『了解』』』


ここは文華民国本土も近い。


向こうの航空機ともなると、攻撃機では分が悪い。


そこだけは気を付けて圧力を掛けていかなければならないな。


夕方 空母応龍 飛行甲板


「……お疲れ、慎君」


「あ……ああ、葵……一等兵曹」


「別に、いつもみたいに葵姉でもいいと思うけど……」


「一応軍の中だし」


「それなら『葵』って呼んだ時点で普通じゃない気もするけどね」


「そこは聞かなかったことにして」


「……じゃあ、そういうことにしとく」


どうにも、軍の中で葵と話していると、調子が狂ってしまう。


少なくとも空を飛んでいるときはそんなに交流がないので、どうということはないのではあるのだが。


「それで……どうしたの、急に」


「いや……慎君が特に疲れたような顔、してたから……」


「そりゃ操縦してたし、戦争ではないにしろ、実戦の場だったから、疲れもするよ」


「操縦は今までもしていたし、実戦の場は私も一緒にいたけど、そこまで緊張してなかったから、どうしてかなって思って」


「操縦してての実戦だったからね。それに操縦席にいると、相手の砲がこっちに向いているのが分かるし」


「そっか……それもそうだね……」


「そんな暗い顔しなくても」


葵はシュンと落ち込んだような顔を浮かべた。


「……もう一回機体、見てくるね」


その後、そう言い残して葵は艦内へとそそくさと歩いていった。


「あ、葵姉……!」


振り返って呼びかけるのも間に合わず、既にそこに葵の姿は無かった。


「……どうしたものか」


変に落ち込んでなければいいけど。


この国家間の緊張の中で、感情の中のそんな余裕を割り当てられるのは、おそらく今の内だろうし。


兎も角、隊全員があまり疲れを溜めないようにしないと。


自分含めて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ