7話 世界情勢と配属
明海三十八年 3月某日 高須賀海軍基地
4月も間近になってきた頃、次の配属先についての張り紙が掲示板へと張り出された。
『以下の者を航空母艦応龍の配属とし、第一〇三航空群内に第三一五攻撃大隊を設立し、其の配属とする。尚、機体は全て新機体、星霜への搭乗とする。操縦手は先んじて操縦切り替え訓練を完了すること』
そこに書かれていたのは。
一番機
相坂 慎宕 重野 清兎
所沢 隆介 倉田 葵
であった。
今まで三人だった搭乗者に、見たことのある、しかし軍とは今まで関係の無かった人物の名が連なっていた。
時は少し遡り、2月末。
俺の機の主担当の整備士、藤堂さんの言っていた、空中整備士の人員の話を葵にしてみたのだ。
軍と言う職場の関係上、普通の整備工場よりも過酷な職場であるということもあり、最初は難色を示していた。
が、職歴があると、あとあと普通の整備工場などで働くときに考えてくれる要素があるといいだろう、ということを伝えると、葵も了承し、軍に面接を受けにきたらしい。
そしてすぐに軍の方も採用したらしい。
今までの軍の体制を考えると、かなり異質なことだった。
軍看護師を言えば、その殆どは女性であるし、事務仕事も少なくない数女性はいる。
しかしはっきり言って、軍が女性の整備士を採用することはかなり珍しいことであった。
以前、それも浜煤戦争時に女性操縦士を軍属として受け入れていたときに、臨時の整備士を軍属として受け入れたのが最初で、その後に受け入れたのが雄州大戦……、所謂世界大戦時に、いざというときのために受け入れたのが最後だった。
つまり、今まで軍は女性整備士を戦争時に臨時に受け入れるのみであったのだ。
それがこうして恒常で所属させるのでいうと初めてだ。
……というかこれ、ここまで空中整備士の人手が足りなくなるまで放っておいたのではないだろうか?
4月というのもあり、年度変わりである程度人の入れ替わりがあるとはいえ、軍はかなり女性を入れるのを渋っていたのだが、通例を無視して女性を入れるようになるとは。
勿論、軍が採用した他の空中整備士は全て男性だけだったが。
他の整備士は新たに入った整備士と、軍内で異動した者が混在しているとのこと。
葵の件もあり、もしかするとこれから軍は女性の整備士を一定数入れることになるかもしれないな。
それはさておき、機体の話をしよう。
俺がこれから乗る新型機についてだ。
攻撃機、星霜。
今まで攻撃機は全て天体に関わる星の付く機体だったが、この機体は「年月」の意味を持つ、星の付くだけの単語になった。
整備性と操縦のし易さを両立させるため、ある程度ねじなどが緩みやすく、壊れやすいものとなっているとのこと。
それでも全体的に扱い易くはなっている、らしい。
操縦切り替え訓練が始まって数日が経ったが、星霜は少なくとも六星甲型とそこまで変わっているようには変わらない。
乗りやすい六星を練習型としてさらに操縦しやすくした甲型とそこまで変わらないということは、実用機としては結構操縦しやすい方に入るのかもしれない。
攻撃機はこの二つしか乗っていないからイマイチ分からないが。
「ま、頑張ることに変わりはないか……さっさと慣れよ」
結局のところ、この新型機に乗れるのは練習群の中でもあの合同演習に参加した4組のみで、他の種類の航空機についても、各種4~8機ほどの機体しか新人には与えられなかったのだ。
そのことを誇りに思い、しかして戦闘機乗りになることも諦めず、頑張っていこうと思うのだった。
4月某日 高須賀海軍基地所属 航空母艦応龍 第一会議室
新しい攻撃中隊が正式に設立され、数日。
旧唐国の大陸外の最大の島にして現浜綴の領土でもある、高砂島という島がある。
最近、文華民国の航空機が領空侵犯を繰り返しているらしい。
ま、昔の戦争で文華民国の前身国家である唐国から戦後補償として譲り受けた島だ。
野心の強い文華民国の人間がここを欲してもおかしくはない。
昨年の合同演習くらいから徐々に高砂島に対する領空侵犯は増えていったらしいが、4月頭くらいから極端に増え、軍艦による周辺海域への威嚇と思われる航行も増えてきているとのことだ。
高須賀海軍基地所属の航空母艦応龍の所属であるため、そこまで緊張する必要もないだろう、と思っていた。
高砂島は本土からかなり南にある島であるからだ。
本島よりも小さいとはいえ、本土の西海島と同じか少し小さいくらいの面積はあるので、そこに駐留している軍の規模を考えても、そう簡単にここの艦隊が移動するということも無いと思ったこともある。
もし派遣されることになったとしても、先に海軍直轄の航行艦隊が先行して支援しに行くことになるという理由もあった。
つまり、訓練にさえ集中していればいいと思っていた。
そのため、上官が放った言葉には、かなり驚かされてしまったのだ。
「文華民国とは現在、戦争一歩手前の紛争状態にある。そのため、当該基地所属艦隊を一時的に航行艦隊所属とすることが決定した。これより、文華民国に対して牽制するため、既に高砂島周辺に展開している航行艦隊に合流する」
これが俺にとって初めての、軍事作戦となった。