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暁の水平線  作者: NBCG
本編
6/97

6話 奔走と掛け合い

明海三十八年 1月某日 高須賀海軍基地 航空基地格納庫


「……どうした相坂?」


「いえ、たまにはこういうところも見ておかないとな、と思いまして」


「『たまには』って……、お前、最近かなりここに来てんじゃねえのか?」


この人は俺の六星甲型の整備を主に担当してもらっている、藤堂礼嗣という人だ。


「アハハハハハ……まあ、そうですね」


「それこそ『たまに』見るくらいなら兎も角、そんなに見るところもないだろ」


「そんなことも……ないですよ?」


「なんだよそれ……」


「アハハハハハ……」


特に隠す必要もない気がするが、無い時の意見も聞きたかったので、隠している。


勿論、整備士を見ている理由もほかならない、葵のためだ。


現場の整備士にとって何が必要なのか、女性の整備士はどういった場で求められているのか、現場に女性がいるとどう思われるのか。


一応そのことについて聞いてみたものの。


『あまり興味ない』


『教えにくいし教わりにくい』


『男だろうと女だろうと自分の仕事を取るヤツは関係なくうっとおしい』


大体このような意見が目立った。


凡その男優位の職種と比べ、ややマシといったところか。


整備士はその機械を使う人以外では、基本的に機械を相手にする仕事だ。


だからこそ、あまり他人に興味がなかったり薄かったりするという人が多いのだろう。


それ以外に関わるのが整備の仕方を教わる・教えるという関係であるため、教えるかどうかについての意見も出たのだろう。


まあ兎も角、良くも悪くも大きく影響を与えることのできる情報は得られなかった。


他にも、非番の日を使って自動車の整備工場などを見学しに行ったりしたが、それも特に有意義な情報は無かった。


と、いう訳で、次は人事関係にどのような整備士が欲しいのかということを訊いてみた。


『ちゃんと仕事を納期までに仕上げられる人』


基本コレだった。


人によって人柄だったりの話もあったりしたが、そのことについても基本的に「仕事が出来る人」に繋がるだけの細かな差だけだった。


うーん……。


これは葵の方の技能がどれくらいなのかも見ないとなんとも言えないかもしれない。


1月某日 倉田家 車庫


月一ほどで来る、親父の書類渡しで来た。


そしてついでに、葵の整備士としての技能もどれくらいか見たり聞いたりしてみる。


葵の整備士としての仕事ぶりを見ても、あまり分からないとは思うが。


「よっ、葵姉」


「あ、慎君……」


「どう?調子は」


「どうって……そういわれても……」


「就職活動の調子というか、進捗というか、さ」


「……少しは、良くなった……かも?」


葵は首を傾げ、考えるように言った。


「……別に前の助言が全く役に立たなかったとしても、素直にそう言ってくれてもいいんだけど?」


「いや、本当に少しだけだけど、良くはなった気がするのは本当だから……」


「何かあったの?」


「慎君の言う通りにしてみたら、初めて二次面接まで行けた……。それどころか、その後に行ったところは最終面接にまで行けたから……。落ちちゃったけど……」


これは面接慣れしてきたのも理由として大きいとは思うが……。


ともあれ、葵がある程度自信が持てたのならそれで……良かったのだろうか?


うーん……、分からん。


あまり考えても現状が変わるわけではないため、「良かった」とかいうあやふやなことをこれ以上考えるのはやめておこう。


今、葵に必要なこととはなんだろうか。


既に職に就いた経験があるとなると、職に就きやすくなると聞く。


でも自分では彼女にどこかに斡旋できるような伝手はない。


一体、どうすればいいのだろうか……。


「助言、ありがと。私も、もっと頑張ってみる」


「いやいや、助言をしたのは俺だけど、それで面接が上手くいくようにしたのは葵姉自身だから」


もう少し考えてみようか……。


2月某日 高須賀海軍基地 航空基地格納庫


そう考えている間に月を跨いだ。


そして今日も今日とて、格納庫で整備士たちの作業を眺めているときだった。


「相坂か」


今日は珍しく、藤堂さんの方から話しかけてきた。


「どうしました?」


「お前、お前の知り合いの整備士の職場探しをしてるんだってな」


「……そんなこと、言いましたっけ?」


軍内ではまだそのことは言ってなかったと思うが。


「はっは、お前の動きを見てたら言われなくてもよく分かる」


「……そうですか」


「そう警戒すんな。別に追い返そうってんじゃない」


「はぁ……」


「最近、地上整備の人手は足りてるが、空中整備の人手が少ないって話だ」


「空中整備?」


「おいおい、まさか知らないってんだろうな」


「あんまり覚えてなくて……今のところだと関わり合いが無いですし、詳しく何をしているのかっていうのは知らなくて……」


「空中整備ってのは言葉通り、前線の航空機の中で飛行機を整備することだ。なんで人手が足りないってのかを言うと、整備士っていうのはそもそも人と関わるのがあんまり好きではない連中が多い。だから空中整備への異動を断る連中も多いってことだ」


「藤堂さんは行かないんですか?見てても人と関わるのが苦手って感じではないですし」


「俺は高い場所がそもそも嫌なんだよ」


「なんで飛行機の整備士になったんですか……」


「機械弄りが好きだったし、もっと複雑な機械を弄りたいと思ったらここに居たんだよ」


閑話休題。


「兎に角、そういうことだ。軍に来るのが嫌だってんじゃないんなら、ここに来てみたらいいんじゃないか?俺も最近腰の調子が悪いから、助手として誰か来て欲しいとは思っていたんだが、ここの連中は助手として来させるのは割に合わないくらい技能を持ってて、他との掛け持ちが多いしから、そういう意味ではここに来るのは賛成だな」


藤堂さんは別にここの人が増えてもいいらしかった。


「なんなら、俺も」


「それは、一度本人に聞いてからでもいいですか?」


「そうだな。分かった、忘れんうちに聞いてこいよ」


「わかりました」


「そう固くならなくてもいいって。じゃ、ソイツによろしく」


「ありがとうございます」


さて、葵の反応が気になるところだ。

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