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暁の水平線  作者: NBCG
本編
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51話 帝国残党の極夜

西暦1934年 1月1日 メラシア帝国 マダガン 宮殿


「……」


皇帝アルノルド四世は思う。


およそ30年前に浜煤戦争に敗北した上、社会主義者たちに旧首都サンクトフョドルブルクを明け渡すこととなってしまったときのこと。


それから、なんとか状況を掻きまわし、この極東の僻地へ臨時の宮殿を建てたことなどを。


今いる宮殿こそ、ある程度の形状は建造物としてまともなものだが、ここに来た当時は酷いもので、寒ささえ凌げれば良いというだけの建物であった。


今も形状はそれらしいものとなったが、臨時という言葉は取り払われることはないもので、ここまで長きに渡って使うと思ってもみなかったが。


この年まで使ってしまうと、臨時という文字も取れてしまっている。


もはやすぐにはパーラメント連邦からユーシアに面している西部メラシアをとり戻せないというのが現状だ。


取り戻したところで、東ユーシア諸国、カルロ=フィン王国、文華民国がいる。


まさに内憂外患だ。


ただでさえ極東メラシアには集結戦力が少なかった上、浜綴に極東最大の都市、バストーシナヤ・ジミリアまで奪われた状態では、まともに軍を動かせやしない。


海軍などないに等しく、この30年で新たに就役できた船は何隻かの哨戒艇と比較的大型……他の国から見れば中型に分類される程度の規模の砕氷船が1隻のみであった。


陸軍は土地に根付いていた者たちがいたのである程度人員に関しては大丈夫だったのだが、問題は装備にあった。


世界大戦で戦車という装備が開発され、各国で運用されているが、我が国には見様見真似の装備があるだけで、専用の工廠などもない。


あるのは、航空機設計局であったコロドコ設計局に頼み、建物の一部を戦車開発用の研究棟となった建物が1棟。


現在の帝国軍の技術の6割から7割を支えているのがコロドコ設計局というありさまであり、なんなら海軍艦艇のエンジンもコロドコ設計局のものが存在する。


もとが航空機設計局ということであり、現在の軍は歩兵戦力や戦車戦力よりも航空機戦力がもっとも航空機が充実しすぎているという歪な状態であるというのは、言うまでもない。


遷都30年目となる年明け。


設計時期がそのときと近かったためか、新年の幕開けと共にロールアウトされることとなった。


遷都した後にコロドコ設計局から新たに作られた航空機ももう十数機目だ。


ある程度安定して生産できるように、そして残された国力にしては高性能な戦闘機を彼らは作り上げた。


遷都30周年ということで、この宮殿から見える空で記念飛行が行われていた。


「当初の復権の予定よりも時間が掛かり、そして延長された予定よりもおそらく長く掛かってしまうのだろうな。だが、これであの社会主義者どもから本土全てを取り戻す足掛かりが―――」


「陛下、失礼します。緊急事態につき、ご無礼をお許しください」


思いを口にしようとしたところ、衛兵が入ってきた。


衛兵は息を整えている。


しかし顔の水滴が、状況がどれほど急を要しているのかを示していた。


「どうした?」


「ヒンテイの艦隊が、ここマダガンに進行している可能性が。艦載型航空機も確認されており、空母艦隊である可能性が高いです。式典の途中ですが、直ちに軍の指揮を賜りたく」


「ああ」


皇帝は短く応え、旧型機と共に大きく旋回する新型機、Кд-17(Kd-17)を一瞥してから部屋を出たのであった。


同日 マダガン南東部 沿岸 上空


「こんな時にっ……!!!」


メラシア帝国陸軍航空軍の中でも屈指のトップパイロット、ウリヤナ・モロゾヴァは最新の機体を大旋回させながら食いしばる。


ウリヤナは帝国初の女性試験搭乗員となった、女性パイロットの中でも特に戦績の高いトップパイロットだった。


パーラメント連邦との国境付近の遭遇戦にて、何度か迎撃を行っている。


ポポフの機体よりも劣る機体でありながら、数度敵機を墜としてもいたため、彼女は軍の中でも評価されていた。


その評価が功を奏して遷都30周年に合わせた新型機のロールアウト式典の展示飛行を任せられたが、何とも最悪なタイミングだったか。


万が一のために入れていた機銃の弾が恨めしい。


弾が入っていなければ素直に着陸できたのだろうが、弾が入っており、燃料も十分。


ここで帰れば間違いなく処罰は免れないため、迎撃に向かう他なかった。


数分後。


冬至は過ぎて日照時間は増えたはずで、昼過ぎだというのに空が暗い。


航法の計算もやってはいるが、あまり前が見えない状態で陸地から離れるのは心理的には憚られた。


「はぁ……」


もう帰ろうと思った矢先のことだった。


「……不明機発見」


明らかにメラシアの航空機とは違う形状の航空機だった。


戦闘機ほどまとまってはいないが、近くの空域に4機1組のような陣形で飛んできている。


メラシアの1部隊は3機1編成。


見間違いなどではなく、メラシアの航空機ではないということだ。


「不明機を敵機と判断する。敵機は戦闘機では無い様だが、敵対空機銃には気を付けろ」


『『了解』』


無線からの返答。


コロドコ設計局も航空機ばかり作っていたわけではなく、世界で無線機が登場し、航空機にも搭載されることになって遅れること十数年、彼らは開発し、遂に2世代前の戦闘機くらいの年代から搭載が始まった。


返答が来たのに安心感があるのに加えて、不快感もあった。


彼らが伝令しなければ、あのまま展示飛行を続けられたのに、と。


そんな鬱屈した考えを振り切るため、彼女は操縦桿を握りしめた。

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