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暁の水平線  作者: NBCG
本編
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46話 後の政

明海三十八年 9月20日 大浜綴帝国 首都万京 官邸 執務室


「ここ数日、中長距離輸送船の沈没事故件数と行方不明件数は高砂事変前と変わらない……、いや、それよりも僅かに減少している。と、いうことは、”彼ら”は高砂事変前から我が国の民間商船に対して攻撃を行っていたということになるな」


「どさくさに紛れ、彼らも強かですね」


「恐らく、元はゆっくりと撃破数を増やしていこうとしていたのだろうが、高砂事変で我々が全く見向きしていないからと、欲張ってその数を大幅に増やしていったのだろうな。いかに我々が雄銀諸国に舐められているかが分かる」


「団州は元々白豪主義が強く、黄色人種への当たりも当然強いです。また、黄禍論も時間と共により強いものとなっていますが、変なところで見くびっているのもある意味、興味深いものですね」


秘書は苦笑いをしながら言い、それに対する男は苦虫を噛み潰したような顔をしたのち、「まったくだ」と応えた。


「我が国はそもそもとして、雄銀諸国とは物理的に遠い位置にあるとともに、交易も多くはなく、政治的な駆け引きというのを感じ見て得られる者も少ない。」


「ハハハ……」


秘書は苦笑いを続けた。


「航空機研究という優位性はあるが、雄銀の産業革命には乗り遅れ、産業体制そのものは雄銀に一日の長がある。航空機研究の優位性が失われるのも時間の問題。これからどう我が国が雄銀らの大国と張り合えるかというのを求めないと、すぐに他の大国の波に埋もれてしまう。いや、それだけならまだいい。最悪、早々食われることになるだろうな」


「それは……笑えませんね」


苦笑いをしていた秘書も今回は笑うことなく受け止めていた。


「土地面積から来る生産量の限界は基本、変えることは出来ない。ならば変えるべきなのはどうにかして技術力を高めることが求められる。それは基礎研究も応用研究も限らず、だ」


「はい、それはその通りかと」


官邸の執務室の椅子に腰を据える男は、国の未来を憂いて頭を悩ませるのであった。


同日 セイアン帝国自治領マルシア連邦 クイーンズランド州 州首相官邸


「終わった……か……」


「首相……」


「我が国の潜水艦隊はもはやボロボロ、そしてそれを補完するために割かれる海軍の資金に対して怒る海軍士官ら。そしてそれだけでは足りないために他のところからも資金を集めている。陸軍はもとより、他の省庁からも苦情が来ている。地域の話をすると、他の州や連邦議会からもクイーンズランドに対して説明の追求と海軍及びクイーンズランドが要求した金額の減額要求。問題は山積みだよ。ヒンテイ、イギンダ、そして我が国。最終的に損しているのは我が国である気がするよ」


「民間商船などを損失しながらも賠償金を得たヒンテイ。ほぼ無償で戦力を提供したが我が国に対して潜水艦など武器・兵器を売りつけ、尚且つ近代航空戦の経験を兵士に積ませることが出来たイギンダ。我が国は……潜水艦乗りの技術を向上できたのでは?」


「基本、丸腰の民間商船を魚雷で撃っていただけだ。長距離ならば兎も角、そう遠くない位置から撃っていたのであれば、訓練とそう変わりやしないだろう。そして作戦に投入した潜水艦の内、1/3沈められてしまった。その上、残った潜水艦の半数は作戦に投入していないらしい。果たして、技術の向上した潜水艦乗りとやらは、一体何人いるんだろうね」


「……それは」


「兎に角、我が国が行うべきことはここでグチグチ言っていても変わらん。信頼を失った各省庁や軍に対して謝罪と根回しを行わなければならない。はぁ……。考えただけでも疲れてしまったよ。少しだけ寝る。来た者への対応を頼むよ」


「承知いたしました。それでは失礼致します。お休みください」


「ああ」


目の下にクマのできた州首相はそのまま欠伸をし、仮眠を取るのであった。


25日 イギンダ連邦 首都ワトキンスD.C. ホワイトハウス 大統領執務室


「大統領、IVGの件の報告書が上がってきました」


「そうか……どれどれ……ふむ……」


大統領と呼ばれた男は報告書を手に取り、真剣に眺める。


「ふぅ……。IVGそのものの作戦に於いて、ほぼ全て失敗、か……」


大統領は目を伏せ、考える。


「我が国の極東地域……いや、太平洋全域に於ける統合的な戦略の見直しが必要となるな、これは」


「大統領……?」


「我が国の極東地域及び太平洋域の戦略は、保護下にある東南イシアから東イシアに向けた政治・軍事の積極的なアプローチを掛けるというものの下にあった。しかしIVGを用いた前進戦略が失敗したということ、アラカイの件にも増してヒンテイとの緊張がより張り詰めさせてしまったというところを見て、戦略の書き換えが必要と判断した。そういうことだ」


「そう……ですか……。まあ確かに、ヒンテイが未だ航空軍事に於いて進んでいるということ。セイアン仕込みの海軍力は伊達ではないこと。そして何よりマルシアが、我々が考えていたよりも“使えない”ということが分かりましたね。これまでの現実に比べやや“楽観的な”考えを持って戦略を進めていたことは、事実と言えるでしょう。戦略を書き直すのは妥当な判断かと」


「そうだな。これまではヒンテイ含む東イシアを東南イシアの国々と同様、単純に支配する方向での戦略だったが、ただそれだけではない、同盟や緩衝など、別の国家として“使いようのある国”として接していく方向も考えなければならなくなってしまった。ククク……ヒンテイめ……よくもやってくれた……」


大統領は良い恥さらしだと言わんばかりに、これまでの東イシア・太平洋地域の戦略が書かれた書類を仕舞い、その棚の鍵を閉めるのであった。

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