4話 合同演習
明海三十七年 12月某日 太平洋 空母銘龍 飛行甲板
この演習は1週間程度で演習項目の再確認と調整、準備を行い、更にその後の1週間で演習を行う。
勿論その前、アラカイへ向かう艦隊での演習と、アラカイで行う演習の確認などを行う。
この艦隊はあと数日でアラカイに到着できる。
つまり現在は、この艦隊のみで演習と演習の確認を行っている。
「ふぅ……疲れた」
因みに、今は休憩時間だ。
あと、今乗っている航空母艦、銘龍は清龍型中型航空母艦のその二番艦というらしい。
前の戦争で失った1隻のため、栄龍型を補完する中型空母。
栄龍型が大型空母であり、その撃沈が痛手となったことを踏まえ、危険性の分散のため、1隻の役割を2隻に追加することで一応解消したということになっている。
本当にそうかは分からない。
俺たち未熟者が乗っているのは型落ちで、清龍型の後継であり最新空母である卷龍型は本土で合同演習に選ばれなかった方の精鋭が搭乗し、本土を守っているらしい。
今回練習群の中で、この合同演習に選ばれたのは俺の機体と他3機だけらしい。
つまり、戦闘機やら偵察機やらの練習群の連中はこの合同演習に来ていないとのことだ。
これはいいことだ。
俺が奴らよりも優れているということを見せつけることができる、良い機会になるだろう。
俺の他に選ばれた3機も、成績で言えば俺より下の奴らだけ。
逃げ切るというのも一つの重圧だが、それでもこの演習は彼らにとっては旅行に等しいもので、演習はついでの意識だ。
俺は奴らとは違い、この演習で俺が戦闘機乗りにどれほど相応しいかを見せつけるために、真剣に臨んでいる。
ついでに説明と紹介をしておくと、俺含む上位4位の機体の乗組員のみが招集され、この空母に乗っている。
2位の機体は柊 伊織が操縦士を務める機体だ。
前に俺よりも投下時の瞬間が良かったと褒められていた機体のことだ。
3位の機体は芙蓉 卓が操る機体だ。
この機は速度を高速で維持するのが上手い機体だ。
速度を高速で維持するのは機関を整備する整備士が主に関わっていることは事実だが、機体の挙動について、操縦士の技量も実は関わってくる。
機関の出力を維持するために、一定以上の回転数を超えないようにするだとか、旋回方法を工夫するだとかだ。
そして最後に、4位の機体は唐見 洋司郎が操縦する機体。
はっきり言って、この機体はほぼ埋め合わせと言っていいだろう。
四機に合わせるために来たと、その機体より下の成績の者もそう見ている。
それぞれに二人ずつ投下・後方銃座手、航法・副操縦士がいるが、流石にそこまで覚えていなかった。
すれ違って攻撃機の練習群に属しているかどうかは分かるくらいではあるが、名前までは憶えている余裕はなかった。
閑話休題。
そんな感じで他の3組と共に、この合同演習に向け、更なる訓練を行うのだった。
数日後
「相坂機、目標に対し、魚雷攻撃体勢に移る」
合同演習は問題なく行い、進行していった。
「魚雷投下位置指定。魚雷の投下を行った」
合同演習ではもしものことがあるのと、模擬魚雷でもかなり高額であり、回収が困難であるということから、基本的に言葉だけで演習が行われる。
『魚雷進行位置予測。魚雷命中。機体そのまま、高度を維持し、安全範囲まで規定の高度より高くなるな』
「了解」
応え、旋回し、命中させたアラカイ王国の駆逐艦を見る。
その艦は白い大波を上げて、回避行動を取っていた。
練習群の中にいた奴らの殆どは、あの艦に命中させることは出来なかったんじゃないだろうか。
それこそ、成績4位の唐見のような奴らが率いて操る機体と投下手では。
『柊機、命中。芙蓉機、命中せず。唐見機、命中』
「まあ、ああは言っても4位なだけはあったか」
「……なんか言ったか?」
「いんや、何でも」
「そうか。……演習には集中しろよ」
「はいはい」
独りごちると、重野に窘められてしまった。
そんなこんなで、大したこと自体は起こらず、合同演習は最終日まで恙なく行われた。
合同演習最終日 アラカイ王国 某軍港 空母銘龍 飛行甲板
「相坂慎宕、前へ」
合同演習最終日、演習が終わり、この空母の飛行甲板の上で、とある式典が行われていた。
「貴君が操縦する機体は当合同演習にて、非常に優秀な成績を修めた。この成績を生み出した貴君らの代表として、貴君にこの表彰を行う」
「はっ。ありがたく頂戴いたします」
その表彰状を受け取った。
この表彰状を受け取ったのは、練習群の中でも俺たちだけだ。
恐らく、この表彰は俺たち練習群の連中向けに作られたのだろう。
と、この表彰を受けると聞いた時は思っていたのだが。
「……」
「チッ……」
受ける目線が痛い。
そして、後ろにいる練習群組ではないところから舌打ちが聞こえた。
どうやら、練習群組からの嫉妬の目線ではないらしい。
この表彰、多少は練習群組としてある程度緩めに見られてはいたのかも知れないが、一般的に行われる枠でこの表彰が行われているのだろう。
結局、表彰されたこと自体は嬉しくもあったが、かなり窮屈な帰り道になってしまった。
これがもし正規に軍の新米としてこの演習に参加して表彰されていたら、今、痛い目線を浴びせている奴や、舌打ちした奴にシゴキを受けていたかもしれない。
練習群なら管理する管轄が異なるため、手を出したならかなり大きな問題になってしまうため、舌打ち程度しかできないのだろう。
俺が今、練習群の所属でよかったとつくづく認識させられながら、本土へ戻るのであった。