3話 訓練の日々
明海三十七年 10月某日 高須賀海軍基地
「本日は、水平爆撃訓練を行う」
「「「応!」」」
今日も今日とて、訓練、訓練、訓練だ。
そして俺たちは愛機に乗り、飛び立った。
上空
『最初は爆撃訓練の前に、機動の確認を行え』
「了解」
愛機を操る。
右旋回、左旋回、水平左移動、水平右移動、上昇、下降。
機動の確認をする。
この機体は今、帝國海軍で稼働している攻撃機の中で、最も扱いやすい機体だと言われている。
その名も、「六星甲型」。
扱いやすさを重視した攻撃機、「六星」の練習機型として、更に扱いやすくした機体らしい。
それでも、一応実戦には堪えられる機体ではあるらしい。
また、海軍機であるため、航空母艦にも着艦が可能だ。
今日の訓練では行わないが、航空母艦を用いた発着訓練も行われている。
因みに今の帝國海軍の攻撃機に於いて、最新鋭機体は「七星」と言われる機体だ。
「六星」、「七星」の両方に乗ったことのある攻撃機乗りの話によると、「六星」の方が扱い易いらしい。
俺が実戦の攻撃機乗りとなった時に扱いにくい機体だったら嫌だな……。
……って、俺は戦闘機乗りになるんだった。
何、攻撃機乗りになるつもりになってんだ。
攻撃機乗りは攻撃機乗りでも、戦闘機乗り向きの攻撃機乗りとしての優秀さを見せつけて、戦闘機乗りになって、俺を攻撃機乗りにしたあの上官に目にモノ見せてやる。
そう気張って、目の前の訓練に集中した。
……。
『もうすぐ爆弾投下地点だ。模擬爆弾を用意せよ』
「了解。模擬爆弾用意」
「模擬爆弾用意!」
「投下用意……3、2、投下、今!」
「投下!」
所沢が模擬爆弾を投下した。
「弾着位置確認」
『弾着位置確認、効力ありと判定』
「了解」
模擬爆弾の弾頭には爆薬が入っていないため、目標からどれだけ離れていたかを鑑みて、命中したか、命中せずとも爆薬入りの爆弾では爆風の効果があるくらいの距離だったのか、それとも効果がないほど離れていたのかを、模擬爆弾の弾着位置から計算して訓練管制士から伝えられる。
「次は命中を目指すぞ」
「合点承知!」
「……所沢って、そんな話し方だっけ?」
「てやんでい!」
「……」
「相坂、お前が聞いたんだ。何とかして纏めろ」
「あんなのは無視していいやつだ」
「本当に酷いなお前ら」
こうして、軽口を叩き合いながら訓練を続けた。
夕方 高須賀海軍基地
「これにて、本日の訓練は終了する。明日の訓練についてだが、明日からは発着訓練を開始する。改めて、気を引き締めるように」
「「「応!」」」
「これは余談……のようなものだが、貴君らの訓練の出来によって、次の合同演習に出すことになるかもしれない。まあ、無い可能性の方が高いが、それに参加できるように励むように。では、解散!」
「「「応!」」」
合同演習。
これは、帝國の友好国であり、太平洋の中心部にある島国、アラカイ王国との合同演習訓練のことである。
帝國にとっては遠い外洋まで行くのも含めて演習になるということ。
アラカイ王国にとっては列強の末席という、比較的大国との演習を自国近くの領域で出来るという得があるということ。
これらの利益の一致があり、演習が行われるということらしい。
遠い外洋にまで出るため、割と大変である。
が、このアラカイとの合同演習、実は人気とのこと。
自国の文化とは遠くの異文化との交流があり、また外国との合同演習ということで、その手当の給与と勲章が手に入れられるため、というのが主な理由だ。
他の国との合同演習もあるにはあるが、基本的にアラカイ程異文化交流という面ではやや希薄な面があるということや、雄州まで行くとなると、移動でアラカイ以上に疲れるのは明白であるということも挙げられる。
比較的近いイギンダ連邦と大成帝国マルシアのうち、イギンダ連邦はそこまで国家として仲がいいわけではなく、緊張感があり、マルシアはその中で白人至上主義が蔓延っているため、異文化交流など呑気なことは言っていられる雰囲気ではないらしい。
そういう訳で、アラカイ王国軍との合同演習が人気だという。
そして上官が言った、さっきの「貴君らの訓練の出来によって、次の合同演習に出すことになるかもしれない」という言葉。
これで士気を上げようという意図が透けて見える。
だが、こんなのでも気づかずその気になるヤツ、気づいた上でやる気を出しているヤツもいる。
俺こそ、そんなことにはどうでもいいと感じているが、ある一つの懸念はあった。
それは、俺の成績を越えられることだ。
俺は戦闘機乗りになるために、今ここで攻撃機の扱いの腕を磨いている。
そこで他のヤツが俺より優れた腕を持っていたとなると、俺は攻撃機乗りよりも腕の劣る戦闘機乗り志望という滑稽な存在になり果てるのだろう。
その為、俺はここで踏ん張って、現在の成績1位という順位を守り通さなければならない。
「チッ……面倒なことを……」
こうして、成績1位という座を守るというため、改めて気合を入れ直すこととなってしまったのであった。
11月某日 高須賀海軍基地
「丁度先月くらいだったか……。来月にあるアラカイ王国との合同演習だが、この中から4組……つまり4機、参加することになった」
息を呑む。
目指すのは成績1位だが、合同演習に参加出来る出来ないで、転属願いが叶うかどうかも左右されるだろう。
もし成績が1位でなくても、これに参加出来るのなら、比較的優秀な方として判断してもらえる。
「先ずは成績1位。相坂機だ」
俺の杞憂はいとも容易く、そんな簡単な言葉で無用に終わったのであった。