放浪の果てに
この世界には大災害と呼ばれた出来事がある。
昔話ではこう語られている。
ある日空からとてつもなく大きな何かが落ちてきた。
その日から世界の気候は大きく様変わりし、人々は明日を生きる糧を得るのにも苦労するありさまだった。
一人の勇気ある若者がある日こう考えた。あの災いの起きた場所に行こう、そこに何かこの事態を解決する鍵があるかもしれない。
彼は友人や旅の道中で賛同した人々と共に大災害の中心に向かっていった。
その道中で突如として現れた異形のもの(モンスター)、彼らと戦い若者たちは傷つくも、ここには何かがあると確信する。
一旦戻り、見聞きした異常について語り広げた若者たちは、それを聞いて何かあると信じた人たちを加えてまた災いの地に赴くのだった。
異形のものは数を増していたものの、人々は決してくじけない!
そして災いの地にたどりつく、そこにあった魔王城と人型の異形のもの、魔王を倒す、最後の力を振り絞った魔王は巨大な火の玉を放つも、狙いが外れて空に飛び、世界は平和になるのだった、めでたしめでたし。
大災害も今は昔、かつてあったおとぎ話に過ぎず、人は今も争いつつも日々を生きている。
災いの地の近くの村に旅人がやってきた。
宿屋に泊まった旅人と主人は世間話をする。
「こんな辺鄙なところにお客さんとは珍しい、もしかして災いの地に行くのかい?」
淡々と旅人は答える。
「ああ、そのつもりだ。災いの地の魔王城っていうのは面白いものかい?
「ちょっと大きいけど古臭いだけでそう面白い廃墟ではないね、あれを城っていうなら昔行った町の富豪のお屋敷もお城になるねえ」
「行く予定は変えないがちょっと残念だな…気にしてたらすまないがここの人たちは王都の人たちと少しなりが変わってるな」
「はっはっは、その通りだね、これは災いの地の残り香、王都の学者さんたちは瘴気と呼んでるらしいけど、それが関係しているらしい。とはいっても姿かたちはともかく体が強くなるだけさ、あまり天気がよくないここでは恵みだね!あの王都のチャンピオンもこの村の出身さ!」
「それはいいことを聞いた、災いの地に行ってからやることもまだ決めていないし、ここにしばらく留まったら強くなれるのかもな」
夕食を食べた旅人は、ベッドの上で石板のようなものを手で操る。
「ナノマシンの有効範囲内のようだ、救難信号が示したかつての大災害の行方不明者はやはりここで死んだのか…?」
石板を鞄に直し、旅人はつぶやく。
「この文明レベルでそこまで特異なものとみなされない建造物か、やはりダミー…」
翌日旅人は村を出て、災いの地の中心、魔王城にたどり着く。
そこには宿屋の主人の行った通り、朽ちたそこそこに大きかったであろう廃墟があるだけだった。
旅人は魔王城に興味を持たず、石板を操る。
「やはり反応は地下か…潜行する」
突然旅人の下半身がドリルに変形し、静かに地中へと掘り進んでいく、あっという間に旅人の姿は見えなくなり、あたりは静寂に包まれた。
地下を掘り進んでいた旅人は突然空洞にたどり着き、身を投げ出されるかと思われるも身に着けている反重力装置で落下途中で姿勢を制御する。
超音波で空洞の内部に鎮座しているものは母星の宇宙船、それも母星がいまだかつてない規模の災いに包まれた時期に量産された避難用のものであることを確認し、旅人――災害特別救助隊の一員ゴードンは一息ついた。
気の遠くなるほどの長い時間この任務をやっているが、いまだに宇宙船が見つかるときは緊張する、なにかしら遭難者たちの消息を記録し、報告しなければ…
そう思いながらゴードンは宇宙船に向かって足を進めるのだった。