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その⑦

「今回の話、霊那はどう思う?」

つい今しがたまで咥えていたクレームブリュレ味のチュッパチャプスを指でクルクルと回しながら、カエデコはたずねた。車に詳しくない霊那は、シフトレバーをガチャガチャと動かすマ二ュアル車を難なく運転するカエデコをいつもかっこいいなあと思ってしまう。

「私も専門家では無いので、あくまでも予想、というか想像の範疇を越えませんけど…」

「それでもいいから。あなたの素直な意見を聞かせて欲しい」

まあそれなら、と一呼吸おいてから霊那は先程の依頼者の話を頭の中で反芻した。

「霊が一箇所に何体も留まることは、そんなに珍しいことじゃありません。元々悪意を持って霊になったモノは、意識的にしろ無意識的にしろ生きている人間を引きずり込もうとするんです。実際、自殺の名所みたいなところは対策を取って何人もそこを利用してしまいますし、事故が極端に多いスポットはどれだけ見通しが良くても不思議と事故が続いてしまいます。それらは大体、そこで亡くなった人間が地縛霊となってしまい、新たな死者を呼ぶんです。そうして呼び込まれてしまった死者の魂は、成仏せず地縛霊に捕まってしまいます。彼らは成仏出来ない苦しみと、地縛霊の悪意に呼応して新たな地縛霊となってしまうんです」

なるほど、と答えてカエデコは左手で自分の耳に髪をかきあげる。

「俗に言う富士の樹海みたいなところか。宮城県と山形県の境目にある笹山峠なんかも、カーブを曲がりきれず転落する事故が相次ぎ未だに幽霊が出るなんて噂も聞いたことがあるよ。海外でも、観光スポットで有名なカナダのナイアガラの滝や、パリのエッフェル塔なんかも昔は自殺の名所だったらしいね」

一呼吸置き、カエデコはさらに言葉を紡ぐ。

「地縛霊は、1970年代に起こったオカルトブームの火付け役の1人と言われる中岡俊哉が産んだ造語だと言われているね。彼自身に特別な能力があったのかは本当のところ分かっていないけど、自分の”死”を間近に感じた経験があったらしいよ。死の淵から生還した後に覚醒するのはバトル漫画の王道だしね」

くすりと笑うカエデコを見ながら、彼女の洽覧深識さに霊那は深く感心した。まだこの世界に関わって日が浅いはずの彼女の口からは、すらすらと自分の知らない知識を霊那の頭に流し込んでくれる。まるで昔から好きだった作品の話をしているかのようなその話しぶりからは、カエデコという人間を形づくっている根底の部分よく現れていた。これからの自分にどんな知識が必要なのか、今後どんな事を備えるべきなのかを真剣に考えそれをすぐに実行に移す行動力と、加えて労力を惜しまない努力家としての側面が非常に色濃く出ている。そんな彼女をよく知っているからこそ、霊那はあれやこれやと振り回されているにも関わらず、未だカエデコに対して強く拒否することも無く行動を共にしていた。

「しかし、廃病院に巣食う地縛霊か。そこだけ聞くとかなり強い怨霊な感じがするけどね。果たして、私たちがどうにか出来るような代物なのかどうか…」

意味深な言葉を残し、カエデコは再度運転に集中した。彼女たちは、霊の専門家などではない。霊が見え気配も感じることの出来るだけの霊那と、そもそも霊感など欠けらも無いカエデコ。心霊現象を相手取るにはあまりに無謀に思える二人だが、その実、今までにもいくつかの心霊スポットから霊たちを追い出した経験がある。およそ真っ当な方法とは言えないかもしれないが、悪戦苦闘しながらも彼女たちなりに真剣に取り組んだ結果であった。そして今回も、きっと大変な目に会うのだろうな。霊那は、これから自分に起こる災難が少しでも減りますようにと自分の御先祖様に心の中で強く願ったのであった。

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