その②
「ま、とりあえず見に行ってみようか」
立ち上がり、勘定を済ませて店から出る。社用車に乗り込むとカバンからファイルを取り出し、プロジェクトの概要が書かれたたくさんの書類をパラパラとめくった。建設予定地と書かれた書類で指を止め、スマホのナビに書かれた住所を入力した。『甲斐聖総合病院』と表示されたこの場所が、我々の頭を悩ませる元凶だった。件の体育館建設予定地に佇む、非常に大きな廃病院である。羽生田の記憶違いでなければ、少なくとも二十年前にはすでに廃病院となっていた。両親や知り合いからの話によれば、やれ恐ろしい人体実験をしていただの、医者の治療ミスで死んだ患者の霊がいるだの、院長が失踪しただのと、くだらない三流ゴシップ記事の見出しのような話ばかりが上がってきた。しかし実際のところは、建ててから相当老朽化しており、建て直すにしてもこんな田舎で同じような規模の病院を建てる意味があるのかと悩んだ当時の院長が、一念発起で人の多い別の街に新しく移転させただけだった。昔そこの院長家族と仲が良かったという個人病院の先生に頼んで、当時の院長の息子さんに直接聞いたのだから間違いない。そもそも、その先生が本当のことを話していればこんな噂は立たなかったはずなのだが、その先生様曰く独り歩きする噂が面白くてそのままにしていたらしい。なんと迷惑極まりないのだろうか。とは言うものの、そこまで調べた後に言うのもなんなのだが…この病院、確かに呪われてはいるのだ。それなりの大きさの駐車場がすでに整備されており、街の少しはずれとは言え交通の便もそこまで悪くないこの病院跡地を、取り壊す話は過去に何回も持ち上がっていた。一番直近ではおよそ五年ほど前になる。大型デパートを建てる計画で取り壊し作業を始めたところ、足場作りの段階で五名が謎の落下事故、重機の機械トラブルが多発、さらに原因不明の体調不良が続出し、果てにそのデパート側責任者が自殺するというとんでもエピソードがあった。全国放送でもニュースになり、一時は廃墟マニアや怖いもの見たさでやって来る観光客があったが、栄えるどころかゴミやらなんやらのポイ捨てが激増し、その後若いヤンチャ好き達が病院内で好き放題やり始めた。しかしそれも少しの間だけで、あっという間にほとんど誰も病院に近づかなくなり、気がついた時には完全な心霊スポットと成り代わっていたのだそうだ。しかしいくら聞き込みをしても、なぜか重要な部分がどうしても見つからない。
「結局のところ、何が出るんですか?」