その①
「曰く付き物件の探索請け負います…?」
スマホに映し出された文字を、羽生田絵里奈は声に出して読み上げた。
「そうなんですよ。例の件、ここに頼んでみましょうよ」
岡村ほむらはニコニコしながら、どう見たって怪しい謳い文句の書かれた携帯端末の画面を自慢げに見せつけている。
「さすがにこれは。いくらなんでも、怪しすぎるだろう」
ページをスクロールしながら、改めてとんでもない怪しさを感じる。ここまで怪しいと、もはや芸術。怪しさのバーゲンセール状態、いや、どうせすぐに消え去るだろうし閉店セールでもいい。
「わからないですよ?このご時世、案外こういうあからさまなのが本物だったりするんですよ」
信頼度0%の根拠を提示され、羽生田は呆れながらタバコに火をつけた。何故こんなめんどくさい案件を背負うことになってしまったんだろうか。私は前世でどんな悪行を行ってしまったんだろうか、と心の中でひとりごちた。
地方の弱小ゼネコンに就職してはや5年。営業と酒飲み接待で、コツコツと積み上げた信頼によって掴んだ大型案件。うちの会社始まって以来の偉業を達成し、このまま勢いをつけて会社の知名度、並びに利益向上からの給料アップだ!などと浮かれていたのはつい先週のことだった。ただでさえ田舎と言われている本県の、さらに県庁所在地から車で片道2時間というキングオブクソ田舎であるこの街に、大型の運動場と体育館を建設するという計画が動き出した。ここ数年、全国的に何かしらのスポーツが必ず盛り上がるという流れに便乗し、主要なスポーツの大会のほとんどを行える競技場を作り、学生やプロスポーツ選手、さらにはそのファンをも呼び込もうという算段だ。その計画の走りとして、まずは定番の体育館を建設することになった。そんな大きな計画を、実績乏しい羽生田の会社に任せてくれるという。
「そんなに簡単に上手く行けば、日本に過疎地なんぞ存在するものか」
などと個人的な感想は心の隅にしまいこんだ。ここで問題無く完遂すれば、その他の案件もうちに任せてくれる可能性は非常に高い。この魚、逃すわけには行かないのだ。
「でも、自分たちだけでどうにかなる話でも無いと思いますよ。かと言って本職の人たちに頼むと、すごい高いって聞きますし。そのための予算なんて絶対出ないっすよ」
「まあ、そうなんだけどさ。しかしなあ」
ランチタイムにサラリーマン仲間がひしめき合う中、気を利かせた店員の女性が鯖の味噌煮定食が乗っていた器を持っていった。最近はどこも禁煙禁煙で、昼食後にゆっくり一服できる店は本当に少なくなったと感じる。こんな田舎ですら、全面禁煙の張り紙が目立つようになった。