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第5部
沙弥は泣きそうになると下唇を噛む癖がある。
覗き見なんてする気はなかった。ただ、ちょっと。ちょっと気になったから。
沙弥の声が震えている。
だめだ、もう、抑えられない。
「オイ!」
俺の声に沙弥は驚いて、俯きかけていた顔を此方に向けた。
沙弥は確かに、泣いていた。
「お、翔。お前またこんなこと企んで……」
「沙弥がどれだけ真剣に話してると思ってるんだよ! なんだよその態度は!」
「……え?」
何言ってんだ俺。何怒ってんだ俺。
「告白で体育館の裏なんてベタな場所に呼び出して、手紙なんて書いて下駄箱にいれる様なヤツだぞ!」
「お、おい翔どうしたんだよ」
「お前は、コイツと釣り合わない」
「……」
俺は。随分と身勝手に。
沙弥の手を引いて体育館裏を後にした。