第1部
俺には幼馴染がいる。
異性だ。確かに異性のはずなのだが。
男なんじゃないかと思うくらい男気がある妙なヤツであり、年下のくせに俺の事を名前で呼び捨てにする駄目なヤツでもある。
「よぅ、おはよ!」
家真隣だし、学校一緒だしで、待ち合わせなんかしてないけど大体毎朝一緒になる。
コイツはいつも朝からテンションが高い。
「……」
「なんだよ朝から元気ねーな! どうかしたの?」
「……お前が朝から元気良すぎんだよ」
「そうかな? 翔、朝弱いもんなぁ」
「知ってんだったら、朝からそんなハイテンションで話し掛けんな。後、翔さん、だ」
「あはは! 今更さん付けとか無理だっていつも言ってんじゃん!」
そう言って肩をバシバシと叩いてくる。
「てかハイテンションって言うけどさー、私から元気取ったら何が残る?」
「……何も残らない」
「酷っ! なんかこう、もうちょっとあるでしょ!」
「お前自分で分かっててきいたんじゃねーのかよ」
こんな感じで、コイツのテンションに巻き込まれながら学校に行く。
これが、毎朝の俺達の登校風景、である。
――キーンコーンカーンコーン
チャイムと同時に授業が終わった。
「おい翔。帰ろうぜ」
「あれ、圭介今日部活ないのか」
「今日休み、テスト近いからな」
「ああ、なるほど」
ガヤガヤと、帰り際の賑わいを見せるのを他所に、俺は友人達と教室を出た。
俺は特に部活も入ってないし、早く家帰りたいし。
「じゃあなー」
友人達とは途中途中でバラバラと別れ、いつもの十字路で圭介と別れて、家に向かう。
ふと、此方に向かって走ってくる様な足音が、後ろから聞こえてきた。
「そんな急いで何処行くんだよ」
沙弥だ。
「お、翔。ハァちょっと見たい、テレビが、ハァあってハァ」
「やっと学校終わったのに、忙しいんだなお前」
「そうそう、私程の人間になると、学校以外も忙しいんだよ。じゃね!」
そう言って、沙弥は再び走って行った。
「……?」
沙弥のポケットから何か落ちた。手紙のようだ。
「おい沙弥! なんか落ちたぞ、おい!」
呼び声には気付いたようだが、沙弥は満面の笑みで手を振って去って行ってしまった。
「……どうすんだよこれ」
俺は手紙を拾い上げ、まじまじと観察をしてみた。
「ったく、仕方ねぇ幼馴染だな本当に」
しっかし妙だな。沙弥の手紙にしては。ハートのシールとか。ついてやがる。この手紙。