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7. 幼児化の弊害

あれから幼児用の服を買いに行くと宣言したユグニートに連れられ、たどり着いた先は休日になると両親に連れられていたモールで流石に驚いた。


「ここって…。」


「人間界だよ。魔界のより人間界の服のほうが圧倒的に可愛いし、ユーリは魔王の血があるとはいえ一般的な魔族より大分身体が人間寄りだからね。あっちのサイズじゃぶかぶかになってしまう。」


「え。魔族の新生児ってもっとでかいの?」


「そうだね。パパはユーリのサイズに合わせて小さくなってるってのもあるけど、16歳くらいなら人間の小学生くらいのサイズかな。」


「それ新生児っていう?…てかえ?サイズ小さくなってんの?」


「うん。あんまり大きいと威圧感ありすぎるし、ユーリと距離が遠くなるのはパパの本意ではないからね。」


「今でも十分でかいと思ってたけどな。」


周りの男性から頭2つほど出ている彼を見ながらため息を零す。

外国人らしい見た目と整った顔立ち。

そして190超えの長身を見慣れている日本人など中々いないこともあり皆の視線を集めてしまっている。

これで溶け込んでいると思っているのだから流石だ。

片腕に俺を持ち、満面の笑みを浮かべているだけで絵になるらしい。

今まで感じたことのない女性からの視線に幼児化した身体とは言え、元は一般的な高校生だけあって居た堪れないと顔を服へと埋めた。


「どうしたの?」


「…。」


「?」


「視線が気になる…。」


「視線?誰か視線向けてる?」


「アンタが目立つからだろ。」


「パパじゃないよ。ユーリが目立ってるの。」


「いや、明らかに!」


そう思って服から顔を出してみたが、確かにこっちに視線が集まっている気がしてならない。

日本人ばかりのいるこのモールでブロンドの髪に青い瞳の赤ちゃんは視線を集めるかもしれないがそんな穴が開くほど見なくてもいいだろう。


「…ぅぅ。」


「ほらね?パパよりユーリに視線がいってるよ。あ、これ可愛いね。」


そんなことを言いながら恐竜ロンパースを片手に合わせてくる。

ユグニートがこの調子では何をしても無駄だと早速諦め、心地の良い揺れに眠気を感じ始めた。

抱っことはこんなにも気持ち良いものだとは知らなかったと閉じようとする瞼を何度も擦ってみる。


「眠いの?」


「…眠くない。」


「ほら、擦るから瞼が赤くなってるよ。白い肌だとよくわかるね。」


「…ん。」


「そのまま目を閉じてごらん。」


彼に促されるまま頭を預けると暖かさでそのまま寝入ってしまった。

どれくらい経ったのだろう。

まだガヤガヤと煩いところを見るとモール内のようだが揺れを感じないため動いてはいないようだ。

重い瞼を開き周りを確認すると、目の前にソフトクリームが見える。


「あ、起きた?」


「…?」


「ある程度買い物も終わったからちょっと休憩。お腹空いた?」


その言葉に頷くと鞄をゴソゴソとし始めた。

新しく買ってきてくれるつもりなのだろうか。

そんなことを思いながら待っていると取り出してきたのはミルクの入った哺乳瓶でキャップを開けて口元へ持ってきたことに一瞬反応が遅れる。

確かに自分は今、幼児化しているが元は高校生だ。

哺乳瓶でミルクを飲む等ありえない。

ふざけるなという視線でユグニートを睨みつけてみるが、全く気にした素振りのないまま開きかけた口に乳首を入れられる。

こんなもの美味しいわけない!

そう思っては見たものの、少しずつ入ってくるミルクは今まで大好物だと感じていたオムライスや唐揚げよりも良い味に驚きを隠せなかった。

哺乳瓶というのが正直受け入れがたいところだが、それよりも美味しさに負けて飲むことに集中する。


「ふふ。そんなにお腹空いていたんだね。」


背中を腕に預けながら哺乳瓶を支えようと伸ばしている小さな手だが、その重さをまだ支えられないこと理解しているユグニートは残りのソフトクリームを口の中に放り込むとさりげなく支えた。

あまりわかりやすく支えると、ユーリの自尊心を傷つけてしまうことを理解しているため配慮しているのだ。


「もういいの?」


しばらく夢中で飲んでいたが、疲れたのか乳首から口を離しふぅと小さく息を吐いている。

コクンと頷いたのを確認してから哺乳瓶の蓋を閉めて鞄にしまうと、逆流しないようにゲップをさせるべく縦抱きにして背中をポンポンと軽くたたけばケプという声が聞こえてきた。


「後はおもちゃを見たら終わりだね。」


「…おもちゃ?」


「どんなのがいいかな。やっぱりモビールとかメリーとかかな。」


「何それ。」


「ほら、ベッドで寝ているときに下から見上げられるおもちゃだよ。」


「…そんなの要らないけど。俺、元高校生だし。」


「じゃあ念のため買っておこう。」


「何が念のためだよ…。」


「他に欲しいものは?」


「ゲームとか?」


「ユーリがよくやっていたRPGとかかな?」


「そうそう。」


「じゃあそれも一緒に買おうか。」


そう言っておもちゃ屋に入っていき、悩むことなく次々とカゴへと入れていく。

レジに行く頃にはカゴいっぱいになっていたがお金は大丈夫だろうか…?

ソフトクリームを購入したりしているのだから当然持ってはいるのだろうが、ゲームは意外と高い。

そんな心配を他所に財布から取り出した黒いカード。

両親ですら唯一1枚だけゴールドカードを持っていた記憶はあるが確か黒いカードはその上を行くと父が言っていた記憶がある。

魔王というだけあって金持ちということなのだろうか。


「どうしたの?これ気になる?」


「…魔王ってやっぱ金持ちなの?」


「どうかな。でもまあ人間でいう財宝とかは有り余るほど持っているかな。」


「…それを金持ちというんだけど。」


「人間とは生きている年数が違うからね。さ、城に戻ろうか。」


袋に詰められた荷物を受け取ると指を鳴らしただけで視界が変わっていく。

見慣れつつあるベッドに下された。


「魔王様、お呼びですか。」


「メリアルダか。ヴェルフォルムは居ない?おもちゃの除菌をしたいんだけど、ノンアルコールの除菌スプレーとかどこに置いたかなと思って。」


「遅くなり申し訳ございません。こちらにご準備を。」


いきなり現れたのは白髪に綺麗に整えられた白い髭が印象的な初老の男性で手に持っているかごの中には除菌スプレーや除菌シート等あらゆるものが揃っている。

お礼を述べておもちゃを拭き始めたユグニートと同じようにメリアルダとヴェルフォルムも拭き始めた。


「魔王様!俺も何か手伝いますよ。」


「ロベルト?もう戻ってきたんだね。」


「ユーリ様が魔界に戻ってきたってリノンに聞いたので急いで終わらせてきました!どこにいるんすか!?抱っこしてもいいですかね?」


金髪と黒髪のツートンカラーという目立つ髪色の男性はキョロキョロと視線を彷徨わせている。

ベッドの隙間から顔を出していたユーリだったが見つかると面倒だと枕の間に身体を埋めて息を潜めた。


「居ないじゃないっすか…。楽しみにしてたのに。魔王様、どこへやったんですか?」


「あれ?ベッドに居るはずだけどな。」


「どこにいるんすか…。」


パっと見たベッドには誰も居る気配はない。

しかし、ユグニートはどこにいるかわかっているようで笑みを浮かべて歩き出した。

ピンポイントで枕をどかせば大きな瞳をさらに大きくしたユーリの顔が見える。


「…なんで、わかったの?」


「パパはユーリのことならなんでもわかるよ。ほら、ロベルト。ユーリはここにいるよ。」


両手をわきの下に入れて抱き上げその姿を見せれば、彼の顔がボンと音を立てるように真っ赤に染まっていく。


「え、え、え、えええええええ!何すか、その人形みたいな容姿…。本当に魔鏡で見てたユーリ様ですか!?」


「あれは僕が人間界で浮かないように作った仮初の姿だからね。こっちが本当の姿だよ。」


「マジっすか…。ちょっと可愛すぎません?抱っこしても良いですか。てか貰ってっても良いですか。」


「抱っこも正直させたくないけど、あげるのは絶対無理。諦めな。」


がっくりと肩を落としたロベルトはすでに小さくなって部屋の隅でいじけてしまっている。

新顔の2人はなかなか濃い性格のようだ。


「ユーリ?あ、そっか。この2人に会うのは初めてだよね。」


「そうですね。私は魔王様の専属執事のヴェルフォルムと申します。これからはユーリ様にもお仕えさせていただきますので、ヴェルとお呼びいただければすぐ参上しますよ。」


「ヴェルさん?」


「敬称も敬語も必要ありませんよ。」


「わかった。」


「ロベルト、いつまでいじけてるの。ユーリに挨拶しなかったらいつまでも覚えてもらえないよ。」


「え、それは嫌っす!ユーリ様、俺はロベルト。魔王軍第7部隊隊長やってます。」


「魔王軍の隊長?」


「こう見えてロベルトは強いんだよ。」


「こう見えては酷いっすよ。俺これでも6000歳超えてるんすから。」


「6000歳!?」


「意外とおじさんっていうね。」


「魔王様には言われたくないっす。」


「俺は別にいいんだよ。不死だからここから年を重ねないし。」


そんなやり取りをしている彼らが仲の良い間柄であることは理解できる。

魔王という存在はもっと恐れられていると思っていただけに意外だが、学園で話していた彼らもユグニートに様を付けながらも気軽に話していたことを考えると彼が優しいと言っていたメリアルダの言葉にも頷るのだった。

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