6. 再誕生
あれから意識が遠のいていくのを感じるまま目を閉じたのを最後にどれくらいの時間が流れたのか把握できないが、ぷかぷかと水に浮いているような感覚に身を任せていた。
くぐもった声がどこからか聞こえるが自由に動くことができないこの状況では確認しようがない。
とりあえず目を開けてはみたが、薄暗いどこかに閉じ込められているようで状況把握をすることは無理そうだ。
しばらくキョロキョロと動く視線で何かないかと探してみたが時間の無駄だと気付き諦めた。
この状況はいつまで続くのだろうか。
そんなことを考えているとパキパキと何かが割れていく音が聞こえ、同時に眩しすぎる光に目を閉じた。
「生まれた!」
「ええ、魔王様。元気な男の子ですよ。」
「あぁ、16年前のあの日と同じだ。やっぱりユーリは可愛いな~。食べてしまいたい…。」
「食べる…?」
「ユーリ、起きていたのかい?」
「俺…どうなって。」
片手で抱き上げられているこの状況はまさかと意識を失う前に言っていたユグニートの言葉を思い出す。
" もう一度卵から生まれてきてね "
そんなわけないと否定をしてみるが自分の目に映ったありえないくらい小さな手と割れた卵は肯定することしかできない。
何故こんなことになってしまったのだと色々思うところはあるが、目の前で憎たらしい程満面の笑みを浮かべた魔王ユグニートという存在に勝てるはずもない。
「気分はどうかな?」
「これで気分いいわけないよね。」
「本当のパパと幼少期を過ごせるんだよ?幸せだろう?」
「いや、元に戻りたい。こんな身体じゃ動きにくいし。」
「パパがいるから大丈夫だよ。それより記憶を…。」
「こんな身体にした挙げ句記憶まで消すつもりなの。」
「え?ほら、人間界であった辛かった記憶は消したほうが!」
「…そしたらきっと今の俺は居なくなるね。まぁそれもいいのか。」
「ダメ!パパは今のユーリが好きだよ!記憶は消さない。」
「なら身体も。」
「それは無理かな〜。」
「ッチ。」
「人間界で使っていた身体はもう消滅させちゃったからね。」
「は?」
「あれは人間界で浮いたりしないようにパパの魔力で作った外見なんだよ。魔王と人間とじゃ成長スピードが違うからね。この身体で高校生の人間は居ないだろう?」
「魔族って16でこれ!?」
「うん。1600年で人間の16歳に成長するね。」
「え、じゃあ学園の皆って…。」
「もちろんみんな1000歳は超えてるよ。」
「でも俺は人間と魔族のハーフなんだよね?なら時間の進み方が違っても!」
「ユーリ、魔族じゃなく魔王だよ。魔王の血は強力でね。ティナから生まれているけど、人間の血は全く流れてないよ。」
「どういうこと…?」
「んー言い方に語弊があったかな。人間の血は魔王の血に吸収されて魔王の血として一つになってるってニュアンスの方がしっくりくるかも。でも蒼い瞳とブロンドの髪は彼女に瓜二つだ。」
「蒼い瞳?ブロンド?」
「ほら、見てごらん。」
目の前に現れた大きな姿見。
そこに映るのは乳児特有のふっくらとした身体と見慣れない白銀に近いブロンドの髪と蒼い瞳。
白い肌と大きな瞳は外国人らしい顔立ちで今まで見てきた姿とのギャップに驚いた。
これが俺の本当の姿なのだろうか。
ネイティブな英語を話せそうな見た目だが、話せるわけもなく、ただただ違和感しかない。
そんなことを思いながらじーっと見ていると頭の両サイドに何か違和感を感じる。
短い腕を出来る限り伸ばして触れてみると小さな硬い何か触れた。
髪を掻き分け鏡へと移してみると黒い角のようなものでなんだろこれと引っ張ってみる。
「ふふ。引っ張っても抜けないよ?パパとお揃いの魔王の角。」
「角…俺本当に魔王の子供なんだ…。」
「まだ疑ってたの?」
「そりゃまぁちょっとは。夢ならいいなとか思ってたけど…。」
「夢じゃないよ。これが現実でユーリの居るべき本来の場所だ。これからパパとの幸せな日々が始まるんだ。楽しみだなー。」
そういった彼は嬉しそうに綺麗な笑みを浮かべるのだった。