4. 2-β
指の音と共に視界が変わり、目の前には巨大な門と建物が現れた。
狭間というだけあって半分は光が差し込み綺麗に輝いているがもう半分は闇に包まれている。
門に書かれたエンドライン学園の文字は日本語でないのは明らかで、魔王の息子という事実を認めることになるがゆえにあまり考えたくない。
そんなことを思いながらユグニートに続いて室内へと入ると内装はこちらとあまり大差ないようだが、やはり通っているものたちは皆人間とは違う容姿をしている。
好奇な視線を向けられていることに内心嫌気がさしながら職員室であろう場所へと連れていかれ、聞いたことのない言葉で天使の輪を付けた男性とユグニートが話し始めた。
やはり魔王の息子というのは嘘なのかもしれない。
そう考えていると先程まで話していたユグニートが彼へと視線を向けた。
「授業後に迎えに来るからね。」
「…。」
「そんな不安そうな顔されたら連れて帰りたくなっちゃうよ。あーなんて愛おしい存在なんだろうね。」
「魔王様。」
「悪い悪い。ユーリ、また後でね。」
「うん。」
「ユーリ様、私と一緒に教室まで参りましょう。」
優しい声色の彼はユーリの背に手を当てながら誘導していく。
ユグニートは少し気に入らなそうな表情をしていたが仕方ないと諦めたようにスッと消えていった。
「これから担任になるシェライラと申します。よろしくお願いしますね。」
「…どうも。」
「ふふ、緊張されてますか?まぁ無理もないでしょう。天界人は人間と大して見た目は変わらないのですが、魔族は見た目も中身も少し気難しい方が多いですからね。魔王様のお話では今まで地上界お育ちになったとか。それであれば尚更違和感があって当然です。ゆっくり慣れていけば良いのですよ。ゆっくりゆっくり。」
笑顔でそういうと2-βと書かれている教室の扉を開ければ、生徒たちが一斉に視線を向ける。
通っていた高校と違って教室内には5人しか居らず、その少なさに驚いた。
「皆さん、今日からこのクラスの仲間になった魔王様のご子息でユーリ様です。仲良くしてあげてくださいね。ユーリ様の席はララさんの隣へ。」
「こちらですよ。」
天使の輪を頭上に浮かべた金色の髪の少女が笑顔で手招きしている。
軽く頭を下げて彼女のとなりに座れば軽いHRを済ませたシェライラはゆっくりと出ていった。
「やっと先生行ったな!俺、ユーリ様と早く話したかったんだよ。」
「ディランだけずるい。私も話したかったの。」
「おいおい、ユーリ様が引いてるぞ。まずは自己紹介だろ?俺はエリス。よろしく。」
「俺はディラン。」
「私はララです。」
「クロフォード。」
「アーシャよ。」
次々と話す彼らに焦りながら名前と顔を一致させていく。
最初に名乗ったエリスが尖った耳と特徴的な犬歯のある黒髪の男で、赤髪に赤眼の男がディランか。
ララはさっき担任から呼ばれていたから記憶にある。
あとは紺色の髪にがっつり主張している大きな角と大きな牙の持ち主クロフォード。
背も高いし威圧感もすごい。
怒らせると一番やばそうなやつだと認識した。
最後は赤髪のナイスバディの女子アーシャで尖った耳と天使の輪という組み合わせの持ち主である。
自分も名乗るべきかとも考えたが、担任から紹介されている手前もう一度いうのも変だろうと黙り込んでいるとララが笑顔を向けてきた。
「ユーリ様は地上界でお過ごしになられたというのは本当ですか?」
「…。」
「私なにかご気分を悪くされるようなこといいました?」
「…。」
「ユーリ様、なんだか不機嫌そうね。」
「…くい。」
「え?」
「その様付け。同級生なのに距離感じて話しにくい。」
「それで黙ってたのか?可愛いやつだな。ならこれからはユーリって呼ぶから俺らのことも気軽に呼んでくれよな。」
にかりと笑いながら気さくに言うディランに驚いた。
人を見た目で判断してはならないとはこういうことだろう。
好かれているかどうかは別としてもユグニートが言っていた通り、嫌われているということはなさそうで安心した。
それにより緊張していた顔が緩み、小さく笑みを浮かべるといきなりララに抱きつかれる。
「可愛いすぎますーーーーー!!」
「え、なに…?」
「それ反則だろ。」
何がなんだかよくわからないが、いきなり叫びだしたララに皆が同意するところを見ると魔族や天使にとって人間はマスコットのような感覚なのだろうか。
確かに皆と比べると俺の身長がだいぶ小さい。
といっても日本で高校生をやる分には175cmは普通のはずなのだが、女子もそれを優に越しているから驚きだ。
同じ学年なのに小学生が混じっている、そんな立場に大きくため息をこぼすのだった。