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3. エンドライン学園

暗い世界でぽつんと座っている自分。

本来この暗闇というのは怖いはずなのに何故か今は心地よい。

じんわりとした温もりと自分を包み込む優しい腕。

何も見えないはずなのに感覚でわかるのは何故だろう。

目を開けないといけない。

そんな気がするのにずっとこのままでいたいと思ってしまう自分の気持ちのほうが勝っていて、ユーリはそのまましばらく身を委ねていた。


「魔王様、お目覚めですか?」


「あぁ、ユーリはまだ眠っているけどね。魔鏡で眠る姿をずっと見ていたはずなのに、自分の腕の中で眠っているのを見るのとは全然違う。なんて幸せなんだろう。」


「毎日のように人間界に行ってはユーリ様と一緒に眠っていた貴方様のお言葉とは思えませんが。」


「まぁ確かに行ってたけど、魔界と人間界では違うように感じるんだよ。この至福の瞬間と言ったら言葉に表せないくらいさ。」


「ふふ。あと数分で上級悪魔のクロウド公爵がお見えになりますがどうなさいますか?」


「急に現実に戻さないでよね。ま、会わないわけにもいかないしすぐに準備するよ。」


そう言って立ち上がると一瞬にしてパジャマ姿から黒の装束に黒いマントという出で立ちに変化し、眠っているユーリを毛布で包みながら抱き上げメリアルダに促されるまま寝室を出ていく。

向かった先は謁見の間と呼ばれる大きな部屋で、ユグニートが玉座に腰掛けるのと同時に目の前の扉がきしむ音を立てながらひとりでに開いていった。


「魔王様、クロウド公爵がお見えになりました。」


扉を守る悪魔がそういうと同時に入ってきたのは重くるしい魔力を纏った男で、綺麗に生えた角ときっちりと着こなしている装束が品位の高さの象徴のようだ。


「おはようございます、魔王様。」


「おはよう、クロウド。今日は何の用かな?え?もしかして僕の可愛い可愛いユーリを見に来たの?どうしようかなー、君に見せるとなんか減る気がするんだよね。」


「ま、魔王様…私はただご機嫌を伺いに来ただけでご子息にお会いしに来たわけでは…。」


クロウドが焦ったようにそう言うと彼の地雷を踏んでしまったようで目つきが鋭くなる。

膝の上で眠っているユーリを撫でる手を止めることはないがクロウドとは比べものにならない禍々しい魔力が室内全体を包み込み立っているのもやっとな程だ。


「何?僕のユーリには興味がないって言いたいの?お前何様?」


「そ、そんなことはありません!ご子息が目を覚まされているときに改めてお会いしたいと!」


「ふーん。で?さっきのご機嫌伺いなんて嘘は何?僕の魔力が急激に増幅されて焦っているんだろう?魔王の座を狙っているってのはいろんなところから聞いていたんだ。」


「な、何の話だか私には…。」


「魔鏡を壊したの、お前だよね。」


「そんな、私は何も!」


「ふーん。ならなんで僕の可愛いユーリにこんな虫がついてるんだろうね。」


「そ、それは…。」


「お前に関係ないものならこの場で消してしまおう。」


ユグニートの手の平で動けなくなっていた虫がいきなり燃え上がるとクロウドの身体まで同じように激しく燃え上がっていく。

苦し気にしながら何度も許しを請う彼だが、ユグニートの怒りが治まるはずもなくにんまりと笑みを浮かべたまま燃やし尽くそうとしている。

そんな状況だが、魔王城には魔王に絶対的な信頼を置き忠誠を誓う者しか居ないため皆冷たい瞳で見ているだけで止めるつもりなどさらさらないようだ。


「あがががが…たす、助けて…。」


「…ん。」


「ユーリ?」


「あれ…なんか焦げ臭い。」


「あぁ、害虫駆除をしていたんだよ。」


「む、虫!?」


「どうしたんだい?」


「いや、俺虫は…その手の上にあるの虫!?ちょ、離せ!俺に近付けるなって!!」


「ユーリ、暴れないで。大丈夫、虫はもう死んだよ。それに手に乗っているように見えたかもしれないけど、パパも虫は大嫌いだからね。ちゃんと浮かしていたんだ。はら、綺麗でしょ?。」


「あぁ…うん。」


「ユーリ、どこか痛いところとかない?」


「そんなことよりこんなとこに居る場合じゃない!今日の補習受けなかったら夏休みの殆どを学校で過ごすことになる。」


「補習?」


「魔鏡とかいうやつで見てたなら知ってるよね。今回の中間テストの点数がボロボロだったこと。」


「勉強が苦手でも何の問題もないよ。僕の可愛いユーリを勉強ごときで図ろうとする人間が…。」


「魔王様、お気を沈め下さい。」


「すまない、メリアルダ。でもユーリはもう人間界の学校に通う必要はないからね。大丈夫だよ。」


「それは嬉しい気もするけど、家に帰らないと。急に居なくなって父さんと母さんが心配してるだろうし。」


「ユーリの家はここだし、パパもいるよ…?」


「いや、正直いきなりパパとか言われても実感ないし。」


「実感はこれからだね。ほら、こっちへ来てごらん。」


そう言って歩き出した先には精巧な悪魔の彫刻が彫られた大きな扉があり、その中は広い作りの部屋で白と黒を基調とした調度品で揃えられている。

端にキングサイズのベッドがあり、その反対側には悪魔の彫刻が施された机と椅子。

そこにはユーリの部屋にあったはずの少し汚れたスクールバックとくしゃくしゃになりつつある教科書が綺麗に並べてあり、壁には制服が掛かっていた。


「これ…どういう。」


「ユーリの部屋にあったものを全部総移動させたんだよ。服はニンゲンの世界のものはそのままだけど魔界で着るものはオーダーメイドで準備してあるから後で見てね。」


「…俺、本当にここに住むんだ。」


「そうだよ。人間界での君の両親にはもともと話してあることだし問題ないよ。さてそろそろ編入する学園に行かないとね。」


ユグニートがパチンと指を鳴らすだけで一瞬にしてユーリはパジャマ姿から黒いブレザーの制服へと変わっていく。

漆黒の竜と漆黒の悪魔が背に描かれている。


「編入?」


「魔界と天界の狭間にある学園エンドライン。ここは両界の子供が通うところでね。とてもいいところだよ。」


「…人間の俺が歓迎されるわけないと思うけど。」


「そんなことないよ。ユーリは絶対に皆から好かれる存在になるから大丈夫。」


何処から出てくる自信なのかよくわからないが、拒否権など最初から与えられていないことは昨日の出来事から理解しているため大きなため息を零すのだった。

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