今回のオチとかけまして、アザゼルのストライクゾーンとときます。その心は、どちらも「股にかける」でしょう。
悪夢にうなされて目覚めたアザゼルの衣服は、いやな汗で湿っていた。
「くそ……パンツの中までぐっしょりだぜ」
しかし、パンツの中の湿りに関してだけは汗ではなかった。張り付くようないやな感触を手で確かめて、アザゼルは思い出す。
「魔物、そういやあんた、なに仲間みたいな顔して俺の顔覗き込んでんだよ」
そう、アザゼルは意識を失う直前、魔物と戦っていた。命がけの攻防において、限界まで研ぎ澄まされたアザゼルのワイルドセンスは、文字通り限界を迎え、アザゼルは例によって例の如く果てたのである。
そしてーー今に至る。
「イヤダッテ、ゼンゼンオキテコナカッタカラ……ネェ?」
「ねぇ?」
と、魔物とリリがさながら阿吽の呼吸で相槌を打つ。
「なんでおまえら打ち解けてんだよ……」
そう力なく突っ込みを入れたアザゼルであったが、彼は文字通り力が抜けていた。警備から逃げるために一度果て、魔物に勝つためにまた一度果てーーワイルドセンスを酷使したアザゼルは、ひどくげっそりしていた。
シナシナ。
アザゼルのアザゼルも、すっかり萎びてしまっている。
「老いぼれさんよ、あんたなにが目的なんだよ。ぶっ倒れて隙だらけの俺を見逃すなんてよ」
そう、アザゼルは勝負にこそ勝ったが、勝利したアザゼルよりも早く目覚め、さらに疲れの見えない今の魔物の様子から、魔物の只者ではない「強さ」がうかがえた。その魔物が、意識のないアザゼルにとどめをさすことは赤子の手をひねるよりも簡単だったはずーーだが、魔物はそれをしなかった。
「ナンデッテ、ヤクソクシタロウ。オマエガカッタラ、コノカザンノサイシンブマデアンナイスルト」
「あ、ああ。そうだったな……」
アザゼルは、納得したように返事をしたが、しかし驚きを隠せていなかった。いかにも凶暴な人外ーーといった風貌のこの魔物が、律儀に俺との約束を守り、彼が目覚めるのを待ってくれていたことに。
しかし、そのときアザゼルにいやな予感が走る。
「リリ!」
「?」と首を傾げるリリの手を引き、アザゼルは魔物から少し離れてリリに耳打ちをする。
「俺が寝てる間に、おまえあの老いぼれに何かされなかったろうな」
アザゼルは、リリが魔物に襲われたのではないかと勘繰ったのである。アザゼルは依然として、目の前にいる爬虫類のような見た目をした人外を信用することができていなかった。しかしーー
「なにかって、ずっと楽しくガールズトークしてただけだよ」
リリから飛んできた返事は拍子抜けする内容で、やはり緊張感のないやつだとアザゼルはため息をつきながら、一方で胸を撫で下ろした。
「……ん?」
リリが無事であることに意識を取られたアザゼルであったが、リリのセリフに数秒遅れてようやく違和感を覚えた。
「ガールズトーク……?」
固まるアザゼルに向かって、リリは声を張り上げた。
「アザゼル!あたし思ってたんだけどね。ずっと老いぼれ老いぼれって言って、レディーに失礼だよ!ね、魔物さん!」
振り返ると、顔を赤くして「ソンナ……」と岩みたいに大きな手をぱたぱたさせている魔物がいた。
「一人称オレのタイプの女の子かよ……」
しかもよく見ると、魔物は内股でもあった。
次々と降りかかる衝撃の事実に、アザゼルはたまらずよろめいた。そのときーー
「オット。マダサッキノタタカイノダメージガノコッテイルンダ。ジットシテイナイト」
魔物によって、アザゼルは抱き抱えられた。
そのとき、アザゼルの身体に稲妻が走る。
「この柔らかい感触ーーまさか!」
そう、魔物によって抱き留められたアザゼルの腕にあたる感触ーーそれこそは、魔物の胸(?)の柔らかさ。人の形を成していない魔物でありながら、その身体の女性性たるや……至極!!老いぼれを自称しているが、彼女のそれは適度に熟していると評するに値するーーさながら収穫を控えた幻惑の果実!!
「くっ……!」
ビンビン。
すっかり生気をーーもとい精気を失っていたアザゼルのアザゼルは、再び盛りを取り戻し、大いに隆起した。その硬さたるや……宝石!!ダイヤモンドを想起させるような彼のブツは、トレジャーハンターを称するアザゼルに似合った硬度を誇り、並の冒険家ではハントできないような代物に成長を遂げていた。
このあと、間もなくアザゼルがどうなったのかは想像に難くない。よってここではそれは割愛するが、ひとつ述べておきたいことがある。
アザゼルのストライクゾーンは、種族をも股にかける。股間だけに。