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魔物との対峙②

 刹那ーー魔物は動いた。


 老いぼれを自称するわりには、その巨躯を素早く動かし、文字通り瞬く間ーー否、瞬く隙も与えず魔物はアザゼルの懐に忍びこんできた。


 相手が老いぼれだから油断していたーーわけではない。アザゼルは魔物の強烈な一撃を見切り、横に身を逸らすことでやり過ごした。


 「ホウ」と魔物はニヤリと口角を上げる。


 それもそのはず。もしもアザゼルが魔物の攻撃を後方に下がって避けようとした場合、魔物の長い腕、そして爪によって生み出された圧倒的なリーチが、アザゼルのその身を引き裂いていたからだ。


 ビンビン。

 「あぶねえ……」


 アザゼルの頬を冷たい汗が流れる。


 アザゼルは、自身のワイルドセンスによって身の危険を察知することはできるが、それをいなすのは彼の運動神経に依存する。すなわち、戦闘慣れしているであろう魔物の一撃を回避したアザゼルは、ワイルドセンスという特性スキルに頼りっきりのガキではないということを表す。


 刹那の攻防ーーそれにより、両者は互いの力量をおおよそ把握した。


 「クチダケイセイノイイガキジャネエヨウダナ」


 「おまえこそ、老いぼれのくせに結構いいバネ持ってんじゃねえか」


 魔物とアザゼルは、向かい合いながら図らずも笑みを浮かべていた。互いに、この極限の状況を楽しんでいるのだ。


 「さあ来いよ。何度やっても同じだぜ」


 「ヤスイチョウハツニノッテヤルヨ」


 魔物は再び間合いを詰める。しかしアザゼルはこれを紙一重で回避ーーこのような攻防を数回繰り返したとき、魔物が動きを止め後方に下がる。


 「ミョウダナ……」


 魔物は頭に疑問符を浮かべた。


 「オレハコノコウボウノナカ、コブシヲクリダスソクドヲジョジョニアゲテイタ。ニモカカワラズ、ヤツハオレノソノソクドニテキオウスルカノゴトク、ヤツジシンモソクドヲアゲテイタ」


 そこで魔物は気づく。アザゼルの股間が、先ほどよりも肥大化していることに。


 ビンビン。

 「くっ……!」


 「ナルホド……ソウイウコトカ……!」


 魔物は得心がいった。アザゼルのスピード上昇のメカニズムを見抜いたのだ。


 「くっ……長くはもたねえぞ」


 アザゼルは苦悶の表情で、隆起する股間を押さえた。


 アザゼルが、魔物の文字通り超人的な速度にも対応できた理由ーーそれは、アザゼルの感度にある。


 そもそも、男のソレがそそり立つのは、性的欲求が上昇することのみによって起こるものではなく、命の危機を感じたときーーつまり種の保存を本能的に感じ取ったときである。


 極限の命のやり取りの中で、アザゼルの本能は種の保存を強く意識し、結果、彼のワイルドセンスは常時よりも研ぎ澄まされることになるのである。


 しかしこれにはリスクもある。アザゼルのワイルドセンスの感度が上がるということは、つまりーー


 「くっ……!少し動いただけで……」


 そう、アザゼルにとっては、ほんの少しの刺激でさえも危険な状況ーーつまりこの攻防を続けてもアザゼルにとってジリ貧でしかなく、いつかは果ててーー否、力果ててしまう。


 「時間はかけられねえ。次の一撃で、決めるしかねえ!」


 アザゼルの焦燥を察知したように、魔物はニタリと笑って言った。


 「ニゲテルバカリジャ、オレニカテネエゾ」


 「言ってろ、デカブツーー」


 アザゼルがそう言い終わる前に、魔物は超速度で間合いを詰めた。


 傍観しているリリには、捉えることすらできない刹那の一撃。


 だからリリにはわからないーーなぜ、魔物がそこに倒れているのかが。


 ビンビン!

 アザゼルのそれは、かつて見たこともないほど盛り上がっていた。


 倒れる魔物に向かってアザゼルは言った。


 「ま、俺のほうがデカブツなんですけどね」


 そして、アザゼルも倒れ果てたーーもとい倒れて、果てた。

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