森の奥にポツンと勃つ小屋、若い男女二人、何も起きないはずがなく……
今から前人未到の危険な地に足を踏み入れんとする状況でありながら、しかし呑気なリリを引き連れて、アザゼルはシャンティ・ハリ火山へ向かう。
警備の少ない明け方を狙っているとは言え、警戒をしない理由にはならない。アザゼルは周囲に人の気配がないかと気を張り詰めながら足を進めるが、一方でリリは危機感のかけらも持ち合わせていない。
木陰でガサッとなにかが動いたような音がすれば、いちいち「キャー」と大袈裟に声をあげるし、火山が近づいてきてあたりが少し暑くなってきたら、「あついー」とブーブー言い出す始末。
リリは進んで冒険についてきたがるような大胆さをもっていながら、一方で極端にビビりであったり、緊張感がなかったりと、ぶっちゃけなかなか面倒くさい。
しかもーー
「リリ!今から危険なシャンティ・ハリ火山に行くんだぞ!なのになんて格好してるんだよ!」
アザゼルはリリの軽装を指差しながらそう叫んだ。半袖のTシャツにホットパンツといったあまりにも素肌が露出した、いかにも身を守れなさそうな軽装で、もちろん防具などは一切持ち合わせてはいない。そんな自然の険しさをフルパワーで舐め切ったようなリリの格好は、男のハートを奪いに行くならまだしも、彼らが今から目指すまだ見ぬ秘宝にはまるで効果がない。
「えー、だってあついもん」とリリは頰を膨らませた。
「だからってそんな薄着……」と言いつつ、アザゼルはリリのその扇情的な姿に図らずも目を奪われていた。
何度も着られたのであろうことがうかがえるそのTシャツの襟は、ひどくくたびれており、そのせいでリリの豊満な胸元がそこからは見え隠れしている。
一方で、ぴちっとしたホットパンツからは、リリの挑発的なボディーラインがくっきりと見て取れて、綺麗な丸みを帯びた臀部からはすらりとした真っ白な足が伸びている。
うっかり視線を奪われていたーー否、すっかり舐め回すようにガン見していたアザゼルのアソコは、「ダメだ」という彼の意志に逆らうように、
彼の理性に対する反骨精神を象徴するように反り返っていた。
股間の盛り上がりこそ悟られなかったものの、自分に向けられるねっとりとした視線に気づいたリリは、「なにみてんのよ!」と怒声を飛ばした。
「う、うるせー!見てねーよ!」と頬を赤くしながら取り繕うアザゼルのその様子は、年相応であった。
ビンビン。
リリのナイスボディーによって反りたったアザゼルのアザゼルは、彼らに迫り来る存在を、その宿主に伝えることができないでいた。
つまり、シャンティ・ハリ火山の麓の森で、明け方から騒いでいるアザゼルたちを捕らえるために、警備の者が彼らに今まさに迫っているのだ。
アザゼルのワイルドセンスは、しっかりとその存在を探知していたーーしかし、単に生理現象として勃ってしまったものだから、アザゼルは気づけずにいたのだ。
だが、アザゼルは腐っても駆け出しのトレジャーハンターである。ワイルドセンスに当初気づけなかったものの、迫り来るわずかな敵意にあてられて、アザゼルはその存在を察知した。
アザゼルは、「しっ」と人差し指を口元に持ってきて言った。
「警備のやつらが来る。身を隠すぞ」
「隠れるって、どこに?」
リリの言う通り、彼らのまわりは木々が立ち並んでいるだけで、これといって隠れられるような場所はない。
いかにも絶体絶命といった状況だが、アザゼルにはそれを打開できる術があった。そう、ワイルドセンスである。
ビンビン。
彼のワイルドセンスが、告げている。彼らが今すぐにでも身を潜められるような場所。
「いいからこっち来い!」
アザゼルは、リリの手を引いて静かに走り始めた。彼自身にもその詳細はまだわかっていないが、走る先に彼らが隠れられる場所がある。そう信じて向かった先には、ひとつの小さな小屋がポツンと建っていた。
「まさかここか……?」
アザゼルは言葉を失った。こんな緑一面の森の中に建っている小屋など、かえって目立って見つかってしまうおそれがある。それならそのへんの草木に紛れたほうがマシだ。アザゼルは目の前の小屋にそう評価を下したが、しかし彼のアレは隆起したままである。
「ただ小屋の中に入れってことではない……?」
アザゼルは、とりあえず小屋の中に足を踏み入れることにした。中は無人で、すっかり人の手が施されていないのが見てわかるほど、ボロくなっていた。
「ねえアザゼル。ここで隠れるの?」
不安そうに問いかけるリリにはなにも答えず、アザゼルは小屋の中を見渡していた。
「なにか……なにかないか。身を隠せるところがっ……!」
ビンビン。
アザゼルの股間は依然としていきり勃っている。
ザザザ……!
小屋の外から、草木をかきわけてこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
「ねえアザゼル。見つかっちゃうよ」
警備の足音と、リリの言葉がアザゼルを急かしいらつかせた。
「くそっ!どこだ!どこだよ!」
アザゼルが乱暴に小屋の中を歩き回ったそのとき、彼の足元に違和感が生じた。
ビンビン。
「こいつぁまさかーー」
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「どこだ!いたか!?」
「いや、いねえ。この小屋に隠れてると思ったんだが……」
二人組の警備が、小屋の中でぶつぶつと言いながら歩き回っている。
事実、彼らの読みは正しかった。警備の者が小屋の中を探索しているそのときも、アザゼルとリリはその小屋の中に身を潜めていたのだ。
警備の者が歩き回るその床下に、アザゼルたちはいた。
この小屋には、床下収納があり、アザゼルのワイルドセンスはそこを隠れる場所として探知していたのだ。
しかしごくごく小さな小屋の床下収納であるからして、大人二人が余裕をもって入れるような空間にはなっていない。アザゼルとリリは、互いに身体をピタリと密着させて、リリを下にしてアザゼルが覆い被さるようにして、その小さな密室に身を潜めていた。
「声を出すなよ。息ひとつも荒げるんじゃねえ」
アザゼルは、アイコンタクトでリリに投げかけた。しかしそれは、自分に言い聞かせたものでもあった。
「あ、当たってる……リリのあのけしからん膨らみが、俺にぴったり密着してやがるっ!!」
ビンビン。
リリのあたたかさにゼロ距離で触れたアザゼルの小枝は、たちまち大木へと姿を変えた。
「リリの肌が、あたたかさが、吐息までもが!すべてが俺に触れている。まずい……この状況、これ以上はーー」
ビンビン。
アザゼルの「それ」は、早くも限界に近かった。しかしリリにそんな様子を気取られてはいけない。そう思ったアザゼルは少し身体の向きをずらそうとした。
そのときーー
「ぁん……」
リリの膨らみのその突端が、図らずもアザゼルが身体を動かしたことにより擦れてしまい、リリはたまらず甘い声を吐き出してしまった。
「アザゼル……ダメ」
ほのかに頬を火照らせたリリがそう漏らしたとき、アザゼルに限界は訪れた。
ーーバカ……ダメなのは俺のほうだよーー
アザゼルは、精魂尽き果てた。
いつの間にか、警備の姿は小屋にはなかった。