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ステータス

 異世界転移して来てまだ間もないと言うのに、こんな早々に呪われるなんて思いも寄らなかった。


 スタート直後に出鼻を挫かれた俺は、落胆したままギルドへと戻って来た。


 すると、ギルドの受付のお姉さんが、俺の姿を見るや否や呼び立てた。


「あっ! ケースケさん! 急に飛び出して行かれたので驚きましたよ」


 うん、俺も驚いた。異世界に飛ばされたかと思えば勇者だと言われたり勇者だと浮かれていたら呪われたりで……。


 お姉さんを見やると手招きしていたので、何だろうと思いつつカウンターへと足を運ぶ。


「先ほどお伝えし忘れたことがありまして」


 伝え忘れたこと? 一体何だろう。既に色々起こり過ぎて、今更もう何が来ても驚かない自信があるんだが。


「実は、固有スキルが顕現しておりまして……」


 ああ、固有スキルね。固有スキル固有スキル……。


「なぬ!? 固有スキル!?」


 勇者特有のスキルと言うことだろうか。そうだとすれば超絶とんでもスキルに違いない!


「それって一体どんな――」


「固有スキル『厄災(ディザスター)』」


 …………ディザスター? もうその嫌な響きで粗方の予想は付くけど……。


「ステータス補正スキルのようですね。運のステータスに補正が掛かってます。……マイナス補正ですけど」


 は? へ? マイ……ナス? え、マイナスとかあんの?


「類稀に見ぬ数値ですね! ……マイナスですけど」


「嬉しくないわっ!」


 てか、素の状態でマイナスからのスタートって何だよ。そんなのって有りか?


「他のステータスは、ええっと……。こっ、これは!?」


 ギルドカードに浮かび上がっている俺のステータスを、改めてまじまじと見たお姉さんは目を見開き、驚きの声を上げた。


「体力、魔力、腕力、耐久力、どれも――」


 今度こそはきたな。俺に秘められた超絶的なまでのステータスが。そうだろうとも、そうだろうとも。何と言っても俺、勇者に選ばれた男だから。運がちょっとアレな反面、他のステータスは群を抜いて――――。


「どれも平均以下、ですね……」


「…………は?」


 おっと。どうやら周りが騒がしくて聞き間違えたようだ。そんなことがある訳ないじゃないか。だって勇者だよ?


「えっと、何だって?」


 次こそ聞き逃しまいと耳元に手を当て聞き入る。


「全てにおいて平均値を下回ってますね」


「………………。いやいやいやいや! そんな馬鹿な!? 見間違いでしょ?」


 けれども、お姉さんは真顔で首を左右に振る。


「いえ、間違いありません」

「そうは言っても、幾つか高い能力が――」

「――ないですね」


 何の迷いもなく、食い気味に言ってくる。


「何か――」

「――ないです」


 …………。


「いや、よぉぉぉぉく見てぇ!? じっくり見てぇ!? 穴が開くほど見てえぇぇ!?」

「ない」


 即答し、遂にはタメ口になっていたお姉さんは、俺の目の前にギルドカードのステータス欄を差し出してきた。そこに視線を落とすと、基準は分からないが、どう考えても低いというのが明白なほどの数値しか書かれていない。


 ……マ、マジか。平均値を下回る勇者ってどういうこと? くっ、まさか今までの体たらくな生活が影響を及ぼしているとでもいうのか!?


「――あっ! ……何故か敏捷性だけは高いですね。先ほどは見落としていました。ずば抜けてます」

「いやどんな勇者だよ!? 敏捷性だけ高くって他は平均以下。しかも運はマイナスって! 逃げ足だけはダントツってか? ふっざけんなああぁぁぁぁ!」


「「「「「ぶっ……ぶわっはっはっはっはぁぁーーっ!」」」」」


 寸刻前まで勇者誕生で沸いていた周りの冒険者歓声は一変し、笑い声へと変わった。


「うおいっ! 笑うなあぁぁ!」


 一瞬にして俺は笑い者になってしまった。顔がほんのりと熱くなってきたので、鏡を見ずとも恥ずかしさで自分の顔が赤くなっているだろうと分かった。


 くそう……。穴があったらこいつら全員叩き落としてやりたい……!


 これも不運なステータスの影響なのだろうか。――はっ!? まさか呪いの剣に関しても、このマイナスの運のせいか!? 妖怪のせいじゃなかったのね。そうなのね……。この世界に来た時には効果が発揮されていたということか。


 意気消沈していると、ギルドのお姉さんは体を小刻みに震わせながら訪ねてきた。


「それであの、ぷっ……ゆ、勇者……様? このままクエストに向かわれますか?」


 おい、ぷっ、て。今、ぷっ、つったよな? 絶対笑ったよな? 堪えきれずに少し吹き出しちゃってるよね?


「そ、そうですね……。何かクエストあります?」


 顔を上げ辛い俺は、やや俯き気味に小声でそう訊ねた。


「ございますよ。あちらのクエストボードから依頼書をお持ち下さい。ゆ、ゆう……勇者……様……」


 もうやめてえぇぇ! 無理に勇者様なんて呼ばなくていいから! そんなに笑い堪えてまで呼ばなくていいからあぁぁ! 恥ずいから! 本当に恥ずかしいからああぁぁぁぁ!


「……あ、はい」


 直ぐさまカウンター脇の壁にあるクエストボードへと向かい、ざっと眺める。そこには十枚ほどの依頼書が貼り付けられており、たまたま目に入った依頼書には『ぷにょぷにょの討伐』と書かれていた。『ぷにょぷにょ』が一体何なのかよく分からないが、響きからしてスライム的な最弱モンスターではないだろうか。


 あまりの恥ずかしさで一分一秒でも早くこの場を立ち去りたい俺は、その依頼書を手に取り、小走りで再びギルドカウンターへと向かう。


「『ぷにょぷにょ』討伐ですね。かしこまりました。では、ギルドカードのご提出をお願いします。クエスト受注の際には依頼書とギルドカードの両方が必要で、クエスト終了後には、こちらのカウンターでギルドカードをご提出下さい」


 こくこくと素早く頷き、ギルドカードを差し出す。


「はい、ありがとうございます。…………これでぷにょぷにょ討伐のクエスト受注完了です。それと、こちらは城門の通行許可証になりますので、門兵の方にお見せ下さい。ゆ、ゆ、勇者……様」


 馬鹿にしてる! 絶っ対に馬鹿にしてるよ、これ!


「じゃ、じゃあ行ってきます。……あ、あの。それと、その勇者様ってのは止めて

もらえません?」


「ええっ……!? でしたら何とお呼びすれば……?」


 後半の声のトーンは、何とも詰まらなそうに下がっていた。今、明らかにがっくりしたよな? 面白がれなくなるからってがっかりしたよな?


「普通に名前でお願い……します」


「はあ…………。かしこまりましたぁ」


 おい、溜息吐いたな? こんのアマぁ……。なめ腐りやがってえ……。


 テンションの下がったお姉さんから、ひょいと投げ捨てるように通行許可証を渡される。


 あれ? 何か雑じゃね?


「場所は西門を出て直ぐの《ヘイ平原》になります。それではお気を付けて行ってらっしゃいませー」


 通行許可証を受け取った俺は、無表情のお姉さんから送り出され、馬鹿にしてきた奴らを睥睨しながらギルドを後にし、クエストの目的地に行くべく西門へと向かった。

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