Fifth-Death March:ブラッディ・カーニバル
「ボスはいつもモニタールームにいて、即座に設備を動かせる状況にいる。裏を返せば、そこさえ潰せば何だってできる」
管理人の真横をすり抜けて、キースが言う。
「あなたがいるならすぐにでも殺れるんじゃない?だってバレないし」
「残念ながら、それは無理だ。この辺りは管理人が見回ってるエリアだが、奴がいるエリアは機械が監視していて、異能が通じない。侵入すればバレるから、直接対決は避けられないさ」
「相手はどれだけいるのよ?」
「ザコジョーカーが数十体と、管理人がいる筈だ。俺が全員引きつけるから、君はさっき渡したナイフでボスを討つ。これが一番早い」
そうこうしていると、重厚感溢れる扉が見えて来た。
「しばらくここで待機だ。しばらくしたら開くから、滑り込むよ」
「了解」
やがて扉が開き、中から鉄の臭いと原型を留めていない肉の塊が出てきた。すかさず滑り込む。
「うげ、気持ち悪い」
「ジョーカーの中でも能力型は、人間の血肉を喰らうことで力を増すからね」
よにもおぞましい姿と呻き声で闊歩する怪物。あれがジョーカーなのか?
「劣化版、特に能力型はどれもこんなものだ」
「もう人間じゃなくない……?」
そんな食事場を通り抜けて、真ん中の広い道を突き進む。なるほど管理人はいない、つまりもう見つかっているのか。
「決着を付けに来たぜ。扉を開けろ、エルド」
「ああ、もう来てしまったのか、キース。可愛い彼女の御同伴とは、見せつけてくれる」
どうやら二人は知り合いみたいだ。扉が開いて出てきたのは、キースと同い年くらいの赤髪の男。醜悪な笑みを浮かべている。
「驚いたな、利口な番犬が随分多いみたいだが?」
「まあ落ち着けよ。こいつらは犬じゃねえ。ただの肉の塊さ。……こうするからな」
言うなり、奴は手近な一体に齧り付いた。ぐちゃぐちゃと音をたてて血が滴る。そうして次から次へと貪り食う。最後の一体まで食べ尽くし、その場には骨と血とが残された。
「オイオイ、血迷ったかエルド?」
「俺様は至って正気だぜ?もうお前に勝ち目なんてねえ。俺様には今まさに!何百というジョーカーの力がっ!不老不死が!芽生え始めているんだからなあ!」
「……能力の吸収技術はまだ解明されていなかった筈だ。それに、お世辞にも不老不死には見えねえよ」
「じゃあ試してみろよ」
エルドの声が嗄れて、全身に赤黒い筋が走る。その胸元を容赦なくキースが渾身の一撃で刺す。しかし、刺した短剣がひとりでに抜け、すぐに傷口が塞がった。
「不老不死っていうから試してみれば、ただの超回復じゃねえか」
「なら殺してみろよ。いや、その前にお前がくたばるかな?」
「何を……」
その瞬間。キースの右手首に、赤い線が走って。
「……あっ」
「……え?」
ぼとり、と、音をたてて落ちた。
「ぐぅ、あっ!」
「おやおや、情けねえなあ。まだまだカーニバルはこれからだぜ?次は左手首、右足首、左耳、左腕に右目!無様だなあ、キース!」
切り刻まれていく彼の姿に、胸が締め付けられて。そして。
「さて、左目、といきたいところだが、つぎはもっかい右目だ!」
「っ!うぁ」
「ルナ!?」
右目に焼けるような痛み。何か液体が頬を流れる感覚。思わず手をあてると、べたりと何かが付いた。赤黒い、鉄の臭いのする血が。
「せっかくだし、お揃いにしてやるよ!俺様やっさしー!」
「止めろ……」
「止めねえよ、これはサービスだって、はい、左腕」
「あぅぐ」
「…止めろ、っつってんだ、ろ!!さっ、……さと、俺を殺せよ!」
「馬鹿じゃねえの?パーフェクトジョーカーを殺すわけねえだろ。いや、まだ喋れんのか、余裕だなあ?それとも、愛の力ってーの?ひゅー、熱いねー」
「チクショウ……。ルナ……、逃げ、ろ。このエリアを出て、右に……」
「右足首」
「あぁあ!う、ぐっ!」
「で?どうやって逃げるんだろうな。聞かせてくれよ」
ああ、そうか。場違いにも気付いてしまった、この感情は、「好き」っていうんだ。ぜえぜえ、と荒い呼吸を繰り返しながら、彼に言葉を。
「キース。貴方と一緒で、短い間だったけど楽しかった。……ごめんね」
「ルナ……?」
力の奔流。そう、これがきっと……覚醒したってことだ。