Forth-in the midnight:ジョーカー・ジョーカー
ホラーより脱出ゲームよりになってきた……
「簡単に言うと、奴等が注目しているのは、俺達ジョーカーだ。底辺に配置することで立場が上の者には従うという思考を植え付け、実験の中で精神に負荷を掛け、覚醒を促す」
「覚醒?」
「おっと、これは専門用語だったっけ。ジョーカーはある特定の精神的負荷によって覚醒するとされている。それは殺人かもしれないし、死ぬと直感することかもしれない。そして、覚醒することで強大な力を持った兵器になる。管理人は、覚醒に失敗したジョーカーの成れの果てさ。命令には忠実だからね」
「覚醒するとされている?」
「そう、されているんだ。誰も知る筈が無いよ、そうやって無理矢理覚醒させても欠陥品しかできないのにさ。本当に覚醒したジョーカーが、あの程度の訳がない」
「まるでどっちも見てきたみたいな口ね」
「あったり前じゃん。君の前の奴と、俺。さあ、完全なジョーカーはどっちだろうね?」
「あなた」
「あったり〜!まあ流石に分かるよねー、アハハ」
ジョーカーであるのに今までどこにも姿がなく、それを誰も気に留めない。そして、今のこの状況。どう考えても普通じゃない。
「俺の覚醒は異能型。相手に『こうである』というイメージを焼き付ける、いわば洗脳だね。管理人は『今この部屋には君が寝ている』と思っている。元々そうじゃなきゃおかしいという思考を持っているから実に騙しやすい」
「覚醒にも色々あるのね」
「うん、基本的には能力型と異能型。能力型は一部の、あるいは全ての能力が上昇する。パワーなり、スピードなりね。異能型は普通の人間には持ち得ない力を手に入れる。とはいえ量産型の欠陥品に負けはしないさ」
久しぶりの他人との会話。いや、自分を隠さずに話したのは初めてだろうか?思ったよりずっと、そう、何と言うか、この感情は……。
ああ、「楽しい」って言うんだった。感情に関する単語なんてもう記憶の隅に転がったまま埃を被っている。
―――きっとここから出て何にもおびえることなく暮らしていけるようになったら、「楽しい」であふれるんだろうな。
「で、君はこれからどうするの?アナ」
「アナは止めて」
「えー良いじゃん」
「その名前は……好きじゃない」
「なんで?両親も君の成長を願って……」
「ええ、願っていたでしょうね。機関に捧げる大切なお人形さんができることを」
「……」
アナ。その名前が私を機関という底無しの穴の中に封じ込める。私に自由はない。この名前と機関が在り続ける限り、私に自由は訪れない。
「結局、機関は兵器を生み出して何がしたいわけ?そこをまだ聞いてない」
「アイツは……。機関のボスは、この世界に住むジョーカー、覚醒者以外の全ての生命を滅ぼすつもりだ。そうすることで自分が支配者となる楽園が出来上がると心の底から信じてるのさ」
「やっぱり、狂ってるわね」
「ああ、そうだな……。狂ってるよ、何もかも」
この世界に自由はない。狂っているのなら、一つ残らず無くしてしまわなくてはならない。
「改めて聞くよ。君は、どうする?ここから出て何処かに静かに暮らしていたいなら、案内するよ」
そう言った彼の横顔が、どこか寂しく見えて。
「勿論、ここを潰す。覚醒して力が手に入るなら、願ったりかなったりよ。それで機関を壊滅させて私は平和な世界で生きる。それだけが望みだもの。あなたも手伝ってくれるんでしょう?」
「全く、まいったな……」
苦笑いして、頬を掻くキース。ややあって、口を開いた。
「分かったよ、えーっと、ルナ」
「……何、それ」
「君の名前。アナは嫌なんだろ?ルナ。月のことだよ」
「ふふっ、あなたってやっぱり変ね」
「おお、やっぱり笑うともっと可愛いじゃん」
おかしくて、不思議な少年。キースと私の、血塗られた脱出劇が始まった。