Second The Deads:クイーン・ハート
すぷらったあが書けない…。
血の海で少女は喘ぐ。偶々クイーンの座を持ち、傲慢であったが故に、彼女は死ぬのだ。やはりこの場所は狂っている。だからこそ、環境は人を狂わせる。
「助けて、誰か、たす、けて……。おね、がぃ」
誰も答えない。只々遠巻きにながめているだけだ。当たり前だ。今苦しんでいるのは彼女だけであり、近付けば自分も同じ運命を辿るかもしれない。此処で培われてきた生存本能が、人として当たり前の選択肢を選ばせない。もちろん、私だって御免だ。私は、生きて此処を出ると決めたのだ。わざわざ助けてやる義理もない。
「ぃや、だ。くる、しいよぉ。あぃ、たぃよ、マ、マぁ」
死への恐怖は、人を狂わせる。苦しみもまた、命の価値観を歪ませる。最後には、死を恐れるよりもずっとずっと。
パアン!
「ぁあ、やっ、と、これ、で」
―――――ママに、会える
死を、歓迎するようになる。
少女のこめかみから煙が漂い、涙と共に右目がぼとりと落ちた。誰も何も言えなかった。そして、少女の最期は、すぐにでも穢される。無機質な機械音が鳴り響く。
―――――管理番号No.25-QUEEN OF HEARTの死亡を確認。速やかに素体を回収、解析せよ。
壁がズレて、現れたアームが乱雑に頭を掴む。そのまま引きずり込まれた少女の体は、摩擦で削れ、壁が閉じるのに挟まった手はグチャリと音を立てて潰れた。まるで何かが彼女を捕食したような光景に、何人か、恐らくは最近入って来たばかりの者たちが、青褪めて口を押さえ、身を屈める。
「おえええ、えぇ、えぅ」
血の海に吐瀉物が彩りを加え、密室にはますます異臭が立ち込めている。一部の者は狂笑して涙を流し、一部の者は強かにも軽食を手に入れ、そして他の者は一様に押し黙り、時折視線を彷徨わせながらも棒立ちでいる。私にはまだ狂笑する者の方がまともに見える。狂うことができている。それだけで奴等にとっては十分な価値がある。私達は実験のために用意されたのだから、モルモットらしく阿鼻叫喚すれば良いのだ。
狂うことを止めた"人形"の方が、ずっと無価値で、ずっと狂って―――いや、壊れている。壊れた人形ほど価値を見出だせないものはない。
「もう、やだ」
パアン!
―――――管理番号No.33-SEVEN OF CLUBの死亡を確認。速やかに素体を回収、解析せよ。
パアン!
―――――管理番号No.11-JACK OF SPADEの死亡を確認。速やかに素体を回収、解析せよ。
パアン!
―――――管理番号No.48-NINE OF DIAMONDの死亡を確認。速やかに素体を回収、解析せよ。
パアン!
―――――管理番号No.31-FIVE OF CLABの死亡を確認。速やかに素体を回収、解析せよ。
「死なせてくれよ!なあ、死なせて、くれよぉ!」
カチカチと弾の切れた銃を何度もこめかみに突きつけて引き金を引く少年。カチカチ、カチカチと嘲笑うような音が響く。次第に銃を頭に打ち付け、やがて放り投げると壁に向かって駆け出す。死にたくて死にたくて堪らないのに、死ねない悪夢は、続いていく。