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「ブシドーッ、キーック!」


 絶体絶命だった僕の前で、蚊が何者かに蹴っ飛ばされた。


 そんなの誰かわかってる。こんな時に助けてくれるのは、その必殺の掛け声だって……。


「仮面ブシドーッ!」


 僕は信じられないって面持ちで、僕のヒーローの名を呼んだ。


「助けを求める声あれば、行って助けるが武士の定め、武士道とは忍ぶことと見つけたりッ! 仮面ブシドー、参上ッ! 良平くん、もう大丈夫だ。拙者が君を、守るから」


 信じられなかった。だけど、仮面ブシドーは僕を助けに来てくれた……。


 嬉しさで泣き出しそうになれば、


「ぷぅーんぅうう!」


 怒ったような、蚊の羽音――いや、鳴き声が聞こえた。


 ハッとすれば、よろよろしながらも、蚊が布団の上に()()()()()


 そう、()()()()()()()


 虫の蚊が壁や人の肌に止まるようにじゃなくって、二本の足で、モコモコの布団の上に立っていた。


 気持ち悪かった。


 ちょうど僕らの手のような虫の足がだらりと垂れて、ツルリとした蚊の眼が、僕らを見ていた。注射器のような口を掲げて、


「ぷぅーんんん!」


 と鳴く。


「ひっ!」


「大丈夫だ。行くぞ、怪人ナイトモスキート! トウッ!」


 ブシドーは掛け声といっしょに、蚊の怪人、ナイトモスキートの前に立った。憧れのヒーローの背中は、大きかった。


 本物だ。


 本物の仮面ブシドーが、僕を助けに来てくれたんだ!

 これで、僕は助かるんだ!


「頑張れー、ブシドーッ!」


「ぷぅうううーんッ!」


「ひゃッ!」


 ナイトモスキートの怒った声に、僕は慌てて耳を塞いだ。だけど仮面ブシドーはさすがだ。ナイトモスキートの鳴き声にもひるまず、素手でナイトモスキートに向かって行った。


「ぷぅうううーんッ!」


 怒ったような声で、ナイトモスキートは仮面ブシドーを待ち受けた。飛んだ。飛んで、仮面ブシドーに体当たりをしようとした。仮面ブシドーが避ければ飛びあがって、またやって来ては飛びあがって。


 ヒット&アウェイ。


「くっ」


 仮面ブシドーがやりにくそうな声を上げた。空を飛べるってことは、とても有利だ。ナイトモスキートは得意気に鳴いて、蚊の表情なんて変わらないしわからないけれども、いやらしくニヤニヤと笑ったように思えた。


「頑張れー! 仮面ブシドーッ!」


 僕にできるのは応援くらいだから、必死で声を張り上げた。だけど、これが仮面ブシドーの力になるんだ。ぐ、って拳を振り上げて答えた仮面ブシドーの身体が、


 ――光り出した。


「ぷぅうううんッ⁉」ナイトモスキートが驚いた。


 そうだ。仮面ブシドーは、誰かのために頑張るって決めると、強くなるんだ。それは応援でも罵声でも、どちらでも構わない。応援の方が良いけれども、そこに守る誰かがいて、それが良くも悪くも声をかけて自分と繋がったのなら、みんなのために頑張る力が湧く。


 仮面ブシドーはそう言っていた。


「はぁあああああッ!」


 仮面ブシドーは飛んでいるって思えるような凄まじいジャンプで、ナイトモスキートに迫った。空中を蹴って、追いかけた。


 すごい。


 テレビで見ている白熱した戦いが、僕の目の前で本当に起こっていた。あまりの感動に、僕は蚊怪人の恐ろしさも忘れて、手に汗を握ってしまった。


 それになんてったって、ヒーローは怪人に勝つんだ。


 だからヒーローなんだ。


「うぉおおおおおッ! ブシドーッ、キーック!」


「ぷぉおおおおお~~~~ンッ!」


 ブシドーキックが見事炸裂して、ナイトモスキートは吹っ飛び、爆発した。


 すごいや、さすがは仮面ブシドーだ。


「武士の本懐ここに遂げたり!」


 キメ台詞を生で聞けて、僕は感無量だった。


「大丈夫だったかい?」


「うん、ありがとう仮面ブシドー。かっこ良かった」


「ふ、ふふははは、拙者、かたじけない」


 褒められると照れてしまうのが可愛いって、クラスの女の子は言っていた。


 僕は感激のままに見つめていた。


「そのような熱い瞳を向けるものではない。拙者、忍ぶ者ゆえ」


 いつもなら、ここで「トウッ!」って、ブシドーは去って行く。


 だけど今回は違った。


 彼は、僕に――。

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