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夜になって、僕が一人でお風呂に入った後、お父さんが帰って来た。
「ねぇあなた、今日浩太が蚊に喰われたのよ。急いで蚊取り線香なんてものを買ってきちゃったわ」
「そりゃああるだろう」
「素っ気ない返事ね。心配じゃないの?」
「心配って……、良平だって赤ん坊の頃は蚊に刺されることだってあっただろ?」
「覚えてる限りじゃなかったわよ。あの時は蚊も来ないような高さの階だったし」
「…………」
「ねぇ、次の転勤はいつよ。今度はもっと高い階に住みましょう? あっ、良平、そろそろ寝る時間じゃない。もうお兄ちゃんなんだから、一人でベッドに行けるわよね?」
「うん」
「おまえ、なんでいちいちお兄ちゃんなんだから、って言うんだ? 良平だって、まだまだ甘えたい盛りじゃないか」
「そうかもしれないけれど、これは躾として大事なことよ。お兄ちゃんってことを繰り返し言うことで、自覚を促すの。私は浩太のお世話で手いっぱいだし、その方が助かるの」
「そうか……。おまえの教育方針に口は出さないけれど……、良平、甘えたかったり言いたいことがあったらちゃんと言うんだぞ?」
「うん」
「あなたはまた甘やかして……。じゃあ良平行きなさい。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
僕はお母さんとお父さんに挨拶して、部屋に行く。
お母さんは浩太が生まれてからたいへんそうにしている。
僕が迷惑をかけるわけにはいかないって思う。じゃないと、僕はヒーローじゃなくって、怪人になっちゃう。だけど、僕はヒーローにはなれない。だって、隠れて仮面ブシドーの録画を見たりはするけれど、良いことをして、黙っていることはできそうにはないから。
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