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真夜中、僕は憧れのヒーローに出会った。だけど僕は、まだヒーローにはなれない。

 お兄ちゃんだから我慢しなさい。


 僕はその言葉が大っ嫌いだ。


 仮面ブシドー。毎週楽しみにして、かかさず見ていた僕のヒーロー。だって言うのに最近は、うるさいから音を小さくしなさい。録画してあるんだから今度見なさい。やっと寝たんだから――。

 ――お兄ちゃんでしょう。浩太はまだ赤ちゃんなんだから。


 浩太は少し前に生まれた僕の弟だ。


 お母さんは浩太のお世話をしているうちに、どんどん意固地になって来た気がする。


 お母さんが言うことも、僕がお兄ちゃんだってことも、わかる。


 だけど、なんだか納得はできない。だって、僕はうるさくしているわけじゃない。音もちゃんと下げている。それに、お母さんは浩太が寝てる時に気にせずテレビを見るのに、起きやしないじゃないか。どうにも、僕を言いくるめるための、大人の方便にしか思えない。だけど、


 お兄ちゃんだから


 そう言われたら、黙るしかない。


 口答えをすれば、あんたは浩太のことが大事じゃないの? 浩太はまだみんなで守ってあげないといけない、赤ちゃんなのよ、と言われた。


 それって、なんか変だ。

 なにが変かまでは答えられないけれども、変ってことだけはわかる。


 それでも僕はお兄ちゃんだから、我慢する。お母さんは我慢しないけれど、僕は我慢する。


 でも仮面ブシドー、見たいなァ……。


 僕がなりたいものは、お兄ちゃんなんかじゃなくって、ヒーローなんだ。



「いやね、蚊だわ」


 と、お母さんは言った。


「あ、浩太がいるから……。悪影響があったらいけないわね」そう言ってスプレーを使うのを踏みとどまって、「良平、お母さん蚊取り線香買って来るから、しっかり浩太を見て、お留守番してるのよ。ちょっとそこの薬局に行って来るぐらいなら、大丈夫よね?」


 念を押すようにお母さんは行ってしまって、僕はさっそく仮面ブシドーをつけた。オープニングが始まって、コマーシャルを飛ばして、見入る。


 やっぱりカッコイイなぁ……。


 仮面ブシドーは、怪人をやっつけるヒーローだ。仮面をつけて、決して正体を明かさない。

 元は警察官だって言うお兄さんが仮面ブシドーに変身する。だけどどうして警察官を止めたんだろう? 警察官だって、悪い奴らをやっつけて、困った人を助けるはずだ。


 お父さんに聞けば、大人ってのには、いろいろあるんだよ。

 しっかしこの設定……、しかも時々、警察官時代では大人の事情で解決できなかった事件を解決している……。怪人狸おやじとか、ワルカンリョーとか……。――シュールだ。しかも武士道とは忍ぶことと見つけたり、って。それは武士じゃなくて忍者だろう。ツッコミどころや考察どころが多すぎる……。最近のヒーローものって、こんな感じなのか?


 お父さんの言ったこと、全部はわからなかったけれど、世の中には、顔を隠さないと解決できない事件ってのがあるらしい。だけど僕だったら、事件を解決したんだったら、あのヒーローは僕だった、って自慢してしまう。


 ああ、仮面ブシドー、今回もかっこよかった。


 お姉さんに付きまとう怪人シャドウストーカーをやっつけた。


 警察は、証拠がないから、とか、実際の姿を見たわけじゃないんですよね、手紙や嫌がらせ、とかもなくて、ただ誰かに見られてる気がする――僕らも張り込んではみたんですけれど、あなたが見たと言った時のベランダには誰もいませんでしたし――、被害届も、ちょっとこのまま受理するって言うのは……。

ってなって、でも本当なんです。しかもどんどん形がはっきりして行って――。


 死にそうなくらいに怯えたお姉さんの話を聞いた仮面ブシドーのお兄さんは、気をしっかり持ってください、とだけ言って、お姉さんからとっても怒られたけれど、お姉さんの部屋に張り込んで、ストーカーと間違えられて、お姉さんが、そいつがストーカー、って叫んだら、もう一人、真っ黒い仮面ブシドーが現れた。


 このシャドウストーカーって言うのは、はじめはなんとなくだけ気にしていたものが、気にするうちにだんだん形をはっきりさせて、本物の怪人シャドウストーカーになるって怪人だった。怖がれば怖がるほど本当に怖いものになる。とっても怖い。


 だけどそこに現れた仮面ブシドーこそを、お姉さんはストーカーだって思ったから、怪人は真っ黒い仮面ブシドーの姿で現れた。


 そいつをやっつけて仮面ブシドーは去って行く。だけど……お姉さんは咄嗟に警察に電話して、仮面ブシドーが実はストーカーだったって話になっちゃった。だけどその誤解を解くこともなく、仮面ブシドーは去って行く。


 どうしてお兄さんはそんなにも、頑張れるんだろう。僕にはよくわからない。だけど、仮面ブシドーはかっこイイ。

 と、


 ガチャリ、と玄関の鍵が回る音がした。


 ――お母さんが帰って来た。


 僕が隠すってのは、隠れて録画を見ていたことくらいだ。悪いことは隠すけれども、良いことを隠す必要なんてない。それに、これは本当に悪いことなのだろうか? 浩太も起きていない。


「ただいま」


「おかえり」


「おかしなことはなかった?」


「うん」


 ホッとしたようなお母さんだけど、浩太を見て目を吊り上げた。


「あっ、蚊に喰われてる。良平、ちゃんと見ててって言ったでしょ。お兄ちゃんなんだから、ちゃんと弟のことを見てないと駄目でしょう?」


「うん……、ごめんなさい」


「まったく」


 お母さんは、蚊取り線香をつけた。赤ちゃんがいるところで使っても、大丈夫なものらしい。

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