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知らなかったんだが

軍は拙速を尊ぶ。

王宮へ呼び出しを食らってその翌日。私は再びバステト中将と顔を合わせていた。今日は陛下の姿はない。変に緊張しなくて助かるが、まぁ中将というのも私の立場すれば天上人みたいなもんだ。私個人がどう思ってるかは別として。

「朝から不景気な顔をしてるな。君は」

「元からです」

私は欠伸を噛み殺しながら答えた。正直眠い。昨日は暇を持て余すままに惰眠を貪ったため、夜が明ける前に目が覚めてしまった。一度目が覚めてしまうと寝るに寝れず、だらだらと布団の中で般若心経なんかを唱えている間に出勤時間が訪れてしまった。

「これからこの国の機密にも関わる重要な話があるというのに、君というやつは呑気だな」

「いえいえ。昨日聞かされた話のお陰で寝不足でして」

「そうか。それは仕方無いかもしれんな」

いけしゃあしゃあと嘘で誤魔化した私に、咎めるでもなく笑いを零す中将。どことなく、雰囲気がドゥイに似ている。あいつほど貧乏くじは引かなそうだけど。

「中将の前で欠伸してるバカがいるかと思えば、お前か」

と、噂をすると影とでもいうのか、会議室のドアを開けながら、こちらをジトッとした目で見てくる。

「身体に嘘はつけないからなぁ。仕方ないだろう?」

「いけしゃあしゃあと……」

呆れたように言うものの、彼と私は慣れたもの。それ以上の言葉はなく、勧められた席に座った。筒に入った資料を整理しながら待つドゥイを眺めながら、あと一人を待つ。待ち人は三分と待たず現れた。

「遅れて申し訳ありません!」

慌てて会議室のドアを開け放ったその人物は、つい数時間ぶりの再会となる。

「時間には間に合っている。大丈夫だ、リアナ中尉」

「いえ。待たせたのは事実ですので」

恐縮しながらも、指し示された席に座るリアナ。私を見ても悪態を吐かないのは、バステトがいるからか。いや、再開してからはどことなく辛辣だが、元より彼女は堅物ではあっても、理由なく誰かを貶すような人ではない。

「さて。顔ぶれも揃ったことだし、早速本題に入ろう」

バステトの切り出しに応じて、ドゥイが資料を机上に広げる。方眼紙に描かれた起伏を示す等高線。主要都市の名前と、軍事拠点としての砦、そして国境。まぁ、一目見ればわかる。地図だ。

「私はあまり地理には聡くないんだが」

言外に、ナナエが何処にいるかなんて知らないぞと告げる。しかしバステトはそれに頷き、

「そのためのこれだろう?軍学校を出ているのなら、地図ぐらいは読めよう」

と返されてしまう。うーん。なんか嫌な予感がするんだが……。

「中将。その前に言うことがあるでしょう。往生際の悪い男もいることですし」

ドゥイがこちらをチラリと見ながら言う。おい、その往生際の悪い男ってもしかして私じゃないだろうな。これでも死にかけたことはあんまりないぞ?

「それもそうだなーーリアナ中尉!ドゥイ技官!ビル軍曹!貴官達には魔王討伐隊隊員、ナナエ大佐の捜索、捕縛を命ずる!」

………………。

「うせやん」

「嘘じゃない。これは正式な辞令だ。陛下もこの作戦にはハンコを押している」

ドゥイの口調に反していつもよりも硬い声に、彼は事前に知っていたことが伺えた。緊張もあるのだろう。だが彼は既に覚悟を決めていた。隣の彼女を見ると、彼女も狼狽えた様子はなく、睨むように強い目を地図に向けている。

「初耳は私だけか」

「たった数時間の違いだ。大した違いではあるまい」

おいバステトさん。それは時間に対する冒涜だ。冒涜なのか?いや時間ちゃんのことなんてどうでもいい。

「何故私が……」

「それがわからない君ではあるまい?さて。これ以上無駄話に興じていては終わる話も終わらない。始めよう」

バッサリ切り捨てられた私は若干拗ねながら、バステトの声に耳を傾けた。

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