明日をも知れぬ
王宮から出ると、未だ照りつける太陽に目を細めた。まるで半日過ごしたような疲労感がする。らしくなく、気疲れでもしているらしい。
「はぁ……。帰るか」
中将からは、今日の見張りは代役が既に立っているからと、帰っていいと言われたのだ。こんな真昼間に暇を持て余すことは……まぁ、割と多かったが。帰っていいと言われたのは初めてだ。
軍というのは効率を重んじる。仕事のない者には新たな仕事を与え、休息を与え、そして成果を求める。が、行政は形式というものに異常なまでに拘る。効率が悪かろうと、前例やマニュアルに則った処理方法しかしようとしない。それは権威を保つためであり、同時に権威の暴走を防ぐためでもある。らしい。軍学校の教官が雑談として聞かせてくれたことだ。実際はどうか知らん。
街中をぷらぷら歩く軍服姿の男に人目が集まるが、目を合わせないよう中空に視線を投げているので誰も声をかけてはこない。祭りだからといって、誰彼構わず話しかけるほどこの国の国民はフレンドリーではないようだ。ヨーロッパとかだと赤の他人にトマト投げつけられたりとかパイぶつけられたりするぐらいなのに。あれ?南アメリカだっけ。オセアニア?やばい忘れた。
「まぁ、どうでもいいか」
どうせ使わない知識だ。忘れたところで何一つ困らん。
今はそんなことより、今後の身の振り方を考えねばなるまい、か。
「といってもねぇ……」
今はまだ参考人という扱いでしかない。これから辞令が下って、どっかに飛ばされるかどうかする可能性も無いではないが。……結局のところ、私が何を考えたところで無駄ということだ。人事に干渉なんて軍曹如きじゃ出来ん。人脈を利用するという手もあるが、しかしその人脈は私にはあって無いようなものだ。向こうにドゥイがついてるとはいえ、あいつは私に特別便宜を図るほどお人好しじゃあない。
「流れる水にただ翻弄されるだけさ。まぁ、これでも面白みはないわけじゃないけど」
屋台のいい匂いが空腹を刺激してくる中、家路をゆっくりと歩く。ポケットの中の万年筆を指先で弄りながら、明日をも知れぬ我が身に、薄っすらと笑みを浮かべた。




