全部あいつのせいだ
近衛兵に伴われ、退室していったその背中を見送った彼ーーバステトは、大きく溜息を吐いた。
「疲れてるようだな」
今までずっと黙っていた国王が、ようやくというように口を開く。今まで口出ししたくて仕方なかったのを、必死に我慢していたのだ。
「すみません、陛下。お見苦しいところを」
「気にしなさんな。疲れさせてるのはこちらだ。少しはそういう顔も見せてくれんと、どこまで酷使してやればいいかわからんでな」
一国の王とは思えない、ざっくばらんな口調のフェルムンド七世。彼が国王としてでなく、一人の男としての顔を見せるのは限られた者のみ。息子たちでさえ、こんな父の顔は知らないのだ。
「で、中将よ。あの青年はどうだった?」
コロコロと態度の変わる彼に内心翻弄されながら、目を伏せて答える。
「……わかりません。ただ、噂通りの劣等生というわけではなさそうです」
「だろうのぉ」
ニヤニヤと、まるで悪戯を思いついたような子供のような顔で応える国王に、バステトはまたも溜息が漏れそうになった。それを止めてくれたのは、今までずっと縮こまっていた女性将校。
「あ、あの!」
「ん?」
国王の目が向く。彼女はその視線に萎縮しつつも、目線を上げて、ハッキリと言った。
「私は何故、未だにこの場にいることを許されているのでしょうか」
リアナは王宮付きとはいえ、軍学校を出てまだいくらも経ってない若輩者だ。この場にいること自体が場違いだと彼女は思っている。だがここで、彼女は声を上げた。それは若者ゆえの無謀でも、覚悟でもなく……。
(このまま忘れられたままだとマズイ!死ぬ!)
機密やら何やら、余計なことを聞いてしまえばこっちが困る!その一心だった。
「あー……すまんリアナ中尉。すっかり忘れてた」
「いやぁすまん。ナンも言わずに連れて来られたのは君も同じやったな」
案の定、存在を忘れられていた彼女は、彼らの言葉に安堵しつつも、表情を殺したまま言葉を待つ。なまじ美人なだけに威圧感があるその無表情。
二人はそんな彼女に、あ、なんか怒らせちゃった……?と密かにビビっていた。ここで説教でもすれば、もしかしたら彼女は国を牛耳ることも出来たかもしれない。が、実際の彼女はただ必死なだけなので、この場面を繰り返すことがあろうと気づくことはないだろうが。
「ゴホン……。じゃあ改めて、君を呼んだ理由を説明しよう」
中将は居住まいを正すと、目を瞑り、意識を切り替える。目を開いた彼は、中将としての威厳を取り戻していた。
「単刀直入に言おう。ーーリアナ中尉!貴官にはナナエ大佐の捜索を命じる!」
「ーーっ!……了解、しました」
リアナは息を呑み、言葉を一瞬忘れるものの、軍人としての性が身体を動かした。立ち上がり敬礼した彼女は、内心の疑問と驚愕を置き去りに、退室を促された。
「詳細は追って連絡する。それまで身支度を整えておきなさい」
「はっ!」
会議室を出たリアナは、廊下をしばらく歩いたのち、唐突に立ち止まった。
「っもう……何なんだ、今日は……」
裏切り者の捜索?しかも本当に裏切ったかどうかもわからない相手を?意味がわからん。しかも何故私が?諜報の経験も訓練も積んでいない。人を探すのなら、私のような人間は邪魔なだけだ。
こんなことになったもの全て……。
「あのバカのせいだ……」
今回は短いですが




