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人生最大のピンチ


どうしてこうなった


「なんだあ今の音は!?うるせえぞラルゥ!」



バタンと扉を蹴り開けて奥から女性が出てきた。頭に幅広のヘアバンドのようなものを巻いた長身の女性だ。



「ヒィ、ぼ、僕じゃないですよ!あそこの人たちです!」



そう言って僕らの方を指差すレジにいた気弱そうな少年。ここの店員なのだろう。



「アアン?一体何があるって・・・・・・なんで天井と床から人が生えてやがんだ?」



こちらの方を振り向いた女性は不思議そうな顔をしていた。



うん、そりゃ不思議だよな。こちらから事情を説明した方がいいなこれは。・・・弁償とかになっちゃうかなあ。そんな心配をしながらレジの方へと歩み寄る。



「ええとまずは、はじめまして。冒険者のショウタと申します。」



「・・・おう、オレはレーナ。鍛治師だ。この店の店主もやってる。それでお前らはあの惨状に何か関わってるのか?」



「はい、関わっているというかあの惨状をつくりあげた張本人というか・・・。」



「どうやったらあんなふうに人が突き刺さるんだよ。ハンマーで殴ったってああはいかねえぞ。」



「ちょっと力を入れて蹴ったらああなりまして。本当にすいません。」



ぺこり。



「・・・うそをついているって感じでもねえな。簡単に信じられもしねえが。おい、ラル。どうだったんだ?」



「は、早すぎて何が起こってるか分かりませんでした。」



「・・・ラル、お前今日の飯抜きだ。」



「ええ、そんなあ!ひどいですよ師匠!」



「うるせえ!役に立たねえ弟子に食わせる飯はねえ!」



なんか、店員さんがかわいそうなことになってきた。もうしわけない。でもこの男の子なんとなく幸薄そうっていうか、不幸なのがしっくりくるんだよな。



「あのーそこの男の子は何も悪くないので勘弁してあげてください。」




「まあそうだな。今はラルをどやすよりも話を進めた方がいいか。で、とりあえずお前があいつらを突き刺したってのが事実だとしたら、なんでそんなことをしたんだ?」



僕はいきさつを説明した。僕らが商品を眺めていたら急にあいつらに絡まれたこと。あしらっていたら逆上して剣で切りかかってきたのでやむなく撃退したこと。



「まあこんなところですかね。」



「あいつらが悪いってのは分かった。けどよ、Cランク2人を武器もなしに軽々とのしちまうとはお前何者だ?職業柄この街の高ランク冒険者には詳しいがお前のことは見たことねえぜ。ランクは?」



「Sランクです。ギルドには昨日登録しました。」



「・・・おい、そっちの姉ちゃんはたしかギルドの職員だったよな?マジで言ってんのかこいつ?」



「は、はい。信じられない気持ちは分かりますけど、本当にランクSですう。実際私はヒュドラーを倒したところも見ましたし、間違いありませんよう。」



「おい!!今なんて言った?」



なんだろう。急にレーアさんの剣幕がすごいことになったぞ。



「へ、で、ですからランクSだって」



「違う!その後だ!」



「ヒュドラーですか?」



「それだ!素材は残ってんのか!?」



「しょ、ショウタさんが首を9本昨日持ってきたので今はギルドで査定中ですう。」



シアンさんがびくびくしながら答えている。かわいい。間違えた。かわいそうだ。



「おい、ショウタ!ヒュドラーの首1本譲ってくんねえか?金ならきちんと払う!Sランクの素材なんてめったに手に入らねえんだ、頼む!」



うわ、矛先がこっちを向いてしまった。



「え、ええまあ迷惑かけちゃいましたし別に構いませんけど。」



「ほ、本当だな!?あとでダメって言っても聞かねえからな?」



「言いませんよ。あとお金はいりませんから代わりに1つお願いがあるんですけど。」



「な、なんだ?もしかして私の体か?いやさすがにそれは・・・ああ、でもSランクの素材が・・・」



「いやいやなんでですか!?そんなこと言うわけないでしょう!?」



いや、まあ大変魅力的ではありますけどね。僕にそんな度胸はありませんよ。・・・自分で言ってて悲しい。



「ん、じゃあ何なんだ?」



金か女かしかこの人の頭にはないのか。まあ男なんてそんなもんかもしれないけどさ。あ、あとは酒もか。



「ヒュドラーの素材で装備を作ってほしいんです。」



「ん、装備?店で売ってるやつじゃだめなのか?」



「せっかくならいい素材で作ってほしいんです。」



というか普通の素材だと僕の力ではすぐ壊れてしまって使い物にならない気がする。ヒュドラーも思いっきり殴ったら弾けてしまうから怪しいけど他の素材よりはましだろう。・・・たぶん。



「まあSランクってんならそれなりのもんつけとかねえとかっこつかねえもんな。分かった、いいぜ。なんの装備が欲しいんだ?」



「うーん、僕武器も防具も使ったことないんですよね。」



「・・・やっぱお前色々おかしいぞ。そんなSランク聞いたこともねえぞ。」



「何かオススメってありますか?」



「そうだな、戦闘スタイルはどんなんだ?」



戦闘スタイル?戦い方のことか?



「えーと、びゅっと避けてバーっと行ってドーンって感じです。」



「・・・頭はEランクみてえだな。」



ひどいや。せめて心の中で言ってくれ。



「うーん、とりあえずあんまり動きにくいのは嫌です。」



「重装備は嫌ってことか。じゃあ鎧はフルプレートはやめて胸当てとか各部分だけ作ってやるよ。」



「武器は・・・近距離は自力でなんとかなると思うので、何か遠くを攻撃できるようなものがあれば。」



「・・・ふむ。遠距離となるとだいぶ武器が限られるな。まあいい、分かった。」



そのあとも装備づくりのために体のサイズなどを測ってもらったり、いくつか質問に答えたりなどしていた。素材については明日ギルドで査定が終わるはずだと伝えた。そしたらお店の方でギルドに取りに行くからギルドに伝言だけしておいてくれと伝えられた。その方が手間がかからないので僕としても助かる。



一通り必要なことが終わると「Sランク素材を扱うとなると準備が忙しいから」と言ってすぐ奥に引っ込んでしまった。仕事に対して責任が強いのか単に仕事が好きなのか。ヒュドラーを欲しがる様子を見ていると後者な気もする。ミーシャちゃんの話をする時の宿屋のおやっさんと同じような目をしていたしな。



ていうか突き刺さった冒険者たちのこと忘れてないかこれ。ここに残っているとめんどくさそうなので「じゃ、あとはよろしくラル君」と言ってとっとと店を出た。中から「そんなぁ〜!」と聞こえてきた気もするがきっと気のせいである。



レーアさんの店を出てからは雑貨や衣類などをシアンさんに案内されながら購入していった。やることはとりあえずやったのでシアンさんに今日のお礼を告げてから解散した。



それでも夕飯まではまだ時間があったため、せっかくだからさっきの話を踏まえて査定の進捗をギルドに聞きに行くことにした。



受付に行くとちょうどサーシャさんが暇そうに座っていたので声をかける。



「こんにちは〜、サーシャさん。」



「あら、ショウタさん。明日来る予定じゃありませんでしたっけ?まだヒュドラーの査定は終わってませんよ?」



「ええ、ちょっと1本ヒュドラーの首が必要になったので査定を8本に変更してほしくて来たんです。」



「ええ、そのくらい構いませんけど、何に使うんですか?」



「武器を作ってもらおうかと思って。まだ丸腰ですから僕。」



「あ〜そういえばそうですね。引き渡しはどうしますか?昼頃に4本までは解体が終わっていたはずなのでもう持ち帰れますよ。」



「明日武器屋の人が取りに来ると思うのでそちらにお願いします。」



「分かりました、どちらのお店でしょうか?」



「あーそういえば名前聞いてなかったな。大通りで1番大きな武器屋です。」



「となると・・・ああ、レーアさんのところですかね。」



「あ、そうです。そのお店です。」



「レーアさんのところは街で1番腕がいいと評判なんですよ。」



へーそれは知らなかった。ついてるなあ僕。



そのあと街の見学をして過ごしたことなど他愛もない雑談を少ししたあと帰ることにした。あまりお仕事の邪魔をしてもあれだもんな。見た感じ暇そうとはいえ。



「それじゃ今日はこのへんで。また明日来ますね。」



「はい。あ、そういえばヒュドラーの肉はどうします?」



ん、肉?なんのことだ。



「肉ですか?」



「ええ、高ランクのモンスターは魔力が豊富なので美味しいですからね。武器には肉は使いませんよね?」



ふーん、魔力が多いモンスターはおいしいのか。知らなかったな。もしかしてオークとかも意外に高ランクなのかな。



「あー、そうですね。じゃあ大きめの袋一塊ぶんくらいお願いします。残りは武器屋の人にどうするか任せます。いらないようだったらギルドの皆さんで分けちゃってください。」



「あ、ありがたいですけどいいんですか?高級品ですよ?」



「まあ1人で持ってても食べきれないですしね。」



実際は沼も飲み込めるから食べようと思えば食べれるけど、無理してまで食べたくはない。



そんなやり取りをしてから今度こそ宿に戻ってきた。受付ではミーシャちゃんがお行儀よく座っていた。



「おかえりなさいだにゃ〜。」



あいさつしてくれる人がいると帰る場所って実感が湧くなあ。



「ただいま、ミーシャちゃん。あ、そうそうこれお土産。ヒュドラーのお肉だからお父さんに渡しておいてくれるかな。よかったら今日の夕飯でみんなに振る舞ってあげてほしいんだ。僕は夕飯まで部屋で休んでるからまたね。」



そう言って宿の受付の上に肉の入った袋を置いて自室へと戻る。



「・・・・・・え?ヒュドラーのお肉?ちょ、ちょっと待つにゃ〜!て、ああもう部屋に戻ってるにゃ!お、お父さん、大変だにゃ〜、すごいものもらっちゃったにゃ!」








部屋に戻ったあと軽く仮眠を取ると夕飯にちょうどいい時間になっていた。



「んー、お腹も空いたしそろそろ下に降りるか。おやっさん何作ってくれたかな〜。」



階段を降りて食堂に入った。・・・すると意味の分からない光景が広がっていた。




目の前には男泣きしながら立っているおやっさん。そしてもじもじと恥ずかしそうにしているミーシャちゃん。



なんだこれは。まだ寝ぼけてるのか?



「ショウタああああああ!まさか、そこまでお前の気持ちが強いものだったとは・・・」



え、何の話?泣きながら話されると怖いんですけどおやっさん。



僕のそんな気持ちなどつゆ知らず、おやっさんは言葉を続ける。



「本当にヒュドラーを狩ってくるとは思わなかったぞ!だがしかし、男に二言はない!約束通りミーシャを嫁にしろおおおお!!!」



「お、お父さんから事情を聞いた時は正直びっくりしたんだにゃ・・・。でも、ミーシャのためにヒュドラーと戦ってくるなんて、その、うれしかったにゃ。ふつつかものですが、よろしくお願いしますにゃ!」



あるうえええええ。どういうこと?・・・一旦落ち着け。こういう時は素数を唱えるんだ。



素数素数素数素数素数素数素数素数素数素数素数素数素数素数素数。



あかん、テンパってる。本当に素数って唱えてどうする。



現実に目を向けろ。なぜこうなった?突然ミーシャちゃんと結婚するようなことになる状況に心当たり、な、ん・・・て。






あるわああああ!あったわあああああああ!



昨日冗談でそんなこと言ってた気がする!ヒュドラーを倒したらミーシャちゃんを嫁にしてやるっておやっさん言ってたわ、うん!



そこに翌日ヒュドラーの肉を持ってくる僕。冗談では手に入れられない超高ランクモンスターの肉を。



あ、これ求婚してるわ僕。




やっちまったああああああああああ!



すぐにでも誤解を解かなければ!



「お、おやっさん!ミーシャちゃんのことなんですけど・・・」



「いいんだ!何も言うな!お前の覚悟はもう見せてもらった。ただ、父として1つだけ頼みがある。・・・ミーシャを幸せにしてやってくれ。」



「お、お父さん・・・!」




断われるかあああああああああ!周りの客たちまで立ち上がって拍手し出したぞちくしょう!言えねえよ、無理だよこの流れは!言ったら殺されるわ!



「野郎ども、今夜は全部俺のおごりだ!ショウタの持ってきたヒュドラーも全部出すぞ!娘とショウタを祝ってやってくれ!」



「ひゅー、さすがおやっさんだぜ!」



「よっしゃ、今日は朝まで宴会だー!ほらほら、ショウタだっけか?景気づけにお前から1杯いっとけ!」



は、ははは。もうどうしょうもない。



僕はグラスを受け取り、一気に飲み干す。



今夜は、やけ酒だ。



どうにでもな〜れ!








ギャグ漫画あるある


⑲超展開

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