野宿かヒュドラか、どっちを選ぶ?
「な、なんともないんですか?」
サーシャさんが怯えながらも心配してくれる。ああ、優しいなあ、サーシャさん。
先程まで目玉がポーンと飛び出していた僕だが、しばらくしたら元に戻った。何も異常なく目も見えている。まあ、飛び出している間もちゃんと見えてはいたんだけれど。
というか、おかげでちょっと分かってきた。ギャグ漫画体質ねえ。なるほど、確かにその通りだな。
ドラゴンの炎を浴びてもアフロで済むだけではなく、空の彼方まで拳一つでぶっ飛ばし、ステータスがバカみたいに高かったり、驚きで目玉が飛び出たり。ハハハ、改めて考えるとギャグじゃなきゃ説明出来ないようなことばかりだな。
オモシロイ。結果が予想しにくく使い方もあやふやではあるが、うまく制御できれば色々できそうだ。未来に希望が出てきて思わずにやにやしてしまう。
「返事もしてくれないし、なんか1人でにやにや笑ってるう!やっぱりダメだったんだあ!うわぁぁぁぁぁん!」
なんか嘆き声が聞こえる気もするがスキルの使いみちを考えるので頭がいっぱいだ。ギャグ漫画ならああいう使い方もできるかな?ああでも、ちょっと条件が厳しいかも?
「あ、痛てえっ!」
突然頭に衝撃を感じた。見るとギルマスの拳が俺の頭上にのっていた。
「いつまで呆けているんだ。いいかげんにしないとサーシャが泣き出すぞ。まったく、言葉を失うほど驚きたいのは俺もだというのに。」
む、いかん。考えごとに熱中しすぎた。ギルマスに殴られるのはアレだがサーシャさんを困らせるのはいただけない。今回だけはギルマスの行いを水に流そう。
「ふう、とりあえずは落ちつきました。すいません、サーシャさん。」
「よ、よかったですう。目がぽーんってして、全然しゃべらないからもう手遅れかと思いましたっ!」
「いやー、ちょっと驚きすぎただけなので気にしないでください、はは。」
「あ、あれでちょっと?普通の人なら一大事ですよ!一体何に驚いていたんですか?」
うーん、正直に言ってもいいものか。Sランクが最強ランクだったことにも驚いたがそれはまだいい。一応数が少なくてもいることにはいるらしいし。
でもなあ、ドラゴンはどうしよう。ギルマスの話ではあれを倒せるのは単体の冒険者ではいないそうだ。俺がドラゴンを倒したなんて言ったら国やら何やらが僕を利用しようと関わってくるかもしれない。それは嫌だなあ。いや、僕が倒したのはただの大きいトカゲだ。めんどくさいしそういうことにしておこう。
「ギルドマスター!!大変ですう!!」
1人でドラゴンに対して決着をつけていると、部屋の扉に誰かなだれ込んできた。お、こっちはうさ耳か。ネコ耳の方が見たかったがこの子もなかなかかわいい。うーん、異世界っていいね。
「どうした、騒々しい。こっちだって急に訳の分からんSランク冒険者が現れて大変なんだぞ。後にしろ。」
かわいくない方のケモ耳が答える。こら、訳の分からんとは誰のことだ。ちょっとステータスが異常で変な魔法適性とスキルを持ってるだけだぞ、失礼しちゃうな。
「ええ、Sランク!?すごいですう!はっ、いやいやそれも大変ですけどこっちはもっと大変なんですよう!ドラゴンが目撃されたんですう!」
ブフォ!隠すと決めた途端になんだってんだ。いや、僕が倒したやつとは別のやつかもしれない。まだ焦るのは早い。
「・・・それは本当か?」
「はいぃ!さっき白狼の牙の皆さんが依頼達成の報告と素材を売りに来てたんですう!素材の査定が終わって報酬を渡す時に『あ、そういえば気のせいだとは思うんだが、帰り道にドラゴンに襲われたから一応報告だけしておく。襲われたら俺たちが生きてるはずはないからきっと集団幻覚でも見たんだな。』って言って帰っちゃったんですよう!」
はい、ビンゴォ!
「・・・なんだそれは、マジメに言っているのか?」
「私だって変な話だなーとは思ったけど、3人ともまったく同じことを言ってるんですもん。万が一本当にドラゴンがいたら大変だと思って急いでここに来たんですよう!」
「1人なら見間違いで済む話かもしれんが、3人ともとなると考えないわけにはいかんな。他に目撃者は?」
「今のところギルドにそれ以外の目撃報告はあがってきてないですう!あ、でもアルムさんがショウタという少年もドラゴンを見たかもと言ってましたあ!今日ギルドに登録しに来たそうなのでまだその辺にいるかもしれません。探してきますう!」
「それには及ばん。ショウタとかいう新人ならそこにいる小僧だ。・・・さて、ショウタ。どういうことか説明してくれるよな?」
・・・フラグ回収早すぎません?
しかたなく僕は転移のことだけ伏せて、田舎から出てきたらたまたまドラゴンとアルムさんたちに出くわしたことを話した。
「いやー、本当びっくりしましたよー。まさかドラゴンに出くわすなんて!たまたまドラゴンが僕たちを見逃してどこかに飛んでいっちゃたんで助かりましたけどねー、ハッハッハ!」
3人の訝しげな視線が痛い。
「ショウタ。1つ、お前にいいことを教えてやろう。ドラゴンはその力ゆえに多くの人間に恐れられている。だがな、それ以上に人々がドラゴンを恐れる理由がある。・・・獰猛性だ。ドラゴンは一度敵を見つけたら自分か相手が死ぬまで戦うのを決してやめない。だからこそ恐怖の象徴になっているんだ。・・・ドラゴンがな、獲物を前にしてどこかに飛んでいっちまうってのはありえないんだよ。」
ダラダラと滝のように汗が出てくる。ぐう、やっぱり常識がないってのは痛い!
「いやー、じゃあ変わり者のドラゴンだったんですねえ!僕みたいに変なやつもいるしそんなドラゴンだっていますよきっと!アハハハハ!」
「ショウタ、もう一度血を出したいか?今度は直に飲んでみようか。」
「僕がやりましたあああああ!」
結局ドラゴンを倒したことまで吐かされた。
「まさかドラゴンを倒してしまうとはな・・・」
「し、信じられないですね・・・」
「す、すごいですう!竜殺しなんておとぎ話みたいですう!」
あーあ、話してしまった。これで僕は国王とかに呼び出されて戦争とかに使われるのだろうか。モンスターならいいけどさすがに人殺しはしたくないなあ、理由がない限り。
「それで、ドラゴンはどこに置いてきたんだ?素材を売ればすさまじい金を手に入れられるぞ。」
「え、お空の上じゃないですかね。」
「逃げられたとでも言うのか?先ほどドラゴンは逃げんと言っただろうが。安心しろ、別に盗んだりはせん。それとも騒ぎになるのが嫌か?まあ、竜殺しともなると王から軍に勧誘ぐらいはされるかもしれんが、強制まではしないだろうから安心しろ。昔は各国で冒険者の強制徴兵なんかもあったんだが、他国へ逃げる冒険者が増えちまって、逆に戦力が減って成り立たなくなる国が出ちまう始末でな。そういうことはしないって不文律ができたんだ。」
「いや、そういうことじゃなくて。殴ったらぶっ飛んでったんでもう何も残ってないんですよ。」
あ、でも後半の話はありがたいな。冒険者って自由なやつが多いイメージだもんな。縛りつけたら逃げるってのも理解できる。まあ、多少目立っても大丈夫ってことか。
「はあ?ぶっ飛んだ?では、ドラゴンを倒したって証明するものは?」
「ないですね。」
「こいつに期待した俺がアホだった。」
ギルマスがため息をつく。
ぐっ、しょうがないじゃないか!ドラゴンの強さなんて知らなかったんだから。
「えーと、じゃあ僕これからどうなるんですかね?」
「まあそれなら、単にSランク冒険者が1人誕生して終わりだな。」
「単にって、それでも十分異常なことですよう。」
うさ耳さんがつぶやく。まあ、異常でもなんでも登録できるならいい。こちとら今日寝るところも食べるものも金もない状態なのだ。依頼をしないと死んでしまう。
「あのー、だったらすぐに登録してもらって依頼を受けたいんですけど。僕お金まったく持ってないんですよ。」
「Sランクなのに一文無しってなんかすごいですね・・・。あ、ショウタさんSランクの依頼ですけど、近くでできるのが1件だけありましたよ!Aランクのも一応確認はしたんですけど、1日以上はかかりそうなものしか残ってなかったです。」
そういえばサーシャさんギルマスのところに行く前に依頼もあるか確認してくれるって言ってたっけ。1日野宿と飯なしは現代人にはいささかつらい。身体的には強化されているらしいが、心は現代人なのだ僕は。Sランクの依頼をさっさとやって、暖かいご飯と寝床を手に入れるとしよう。
「それじゃあ、そのSランクの依頼でお願いします。どんな依頼なんですか?」
「はい!底なし沼のヒュドラー討伐です!」
・・・僕、ヘビ無理なんですけど。
ギャグ漫画あるある
⑩フラグはすぐ回収
⑪困ったらとりあえず叫ぶ