ドラゴンさん、弱すぎません?
Bランクパーティー、白狼の牙。
リーングラード王国のはずれにある辺境都市ジークを拠点にする、実力と経験を兼ね備えた一流のパーティーだ。
特にリーダーの斧使いアルムは国内でも名の通ったAランク冒険者である。しかし、そんな彼らは今まさに命の危機に瀕していた。
「クソッ、なんだってこんなところにドラゴンがいやがるんだ!」
パーティーの双剣使いの男が忌々しげに叫ぶ。そう、彼らはドラゴンと対峙していた。最高ランクであるSランクに指定されるモンスターで、この世の最強の一角を占めるバケモノだ。
「イルド、叫ぶのは後にしろ!今はどうやって逃げのびるかだけ考えろ!」
アルムはイルドに告げる。自分たちが助かるにはそうするしかないのだと。AランクやBランクといった高ランク冒険者たちが集まっても撃退など選択肢に入らない。それほどの脅威が目の前に立ちはだかっているのだ。
ドラゴンはそんな人間たちを眺め、のんびりと口を開ける。しかし、冒険者たちはその様子を見て急激に肝を冷やす。
「まずい、ブレスが来るぞ!ウィーゼ、防御魔法を張れ!」
アルムはとっさにパーティーの女魔法使いに指示を出す。しかし、それは意味の無い言葉であった。
「む、無理です!食い止められません!!」
ウィーゼは若くしてBランクに上がった一流の魔法使いである。だからこそ、自分の魔法ではドラゴンのブレスには耐えられないことをきちんと認識できていた。
ドラゴンの口内が炎で満たされていく。その光景を見て三人は目を閉じた。もう、自分たちは助からないと悟ってしまったのである。
それゆえ、三人は見逃してしまう。
自分たちとドラゴンの間の空間に、突如光の塊が現れたことに。
ショウタは神様に転移させられながら、期待に胸を膨らませていた。
いやー、死んだと聞いた時はどうなるかと思ったけど、異世界で生活できるとは予想外だったなあ。転移先はどこなのかな?
やっぱ街中とかだとうれしいよな。すぐに観光とかできるし。あるいは王城に転移して、いきなりお姫様とかと知り合いになったりするのも悪くない。
んー、夢が広がるな。・・・おっ、光が収まってきた。さてさて、異世界に来て初の景色はどんなのかな〜?
答え『ドラゴンブレス三秒前』
ほわあああああああああ!?
え、何これ何これ!?ドラゴン?でかっ!いや違う、そんなことより口から炎吐きそうじゃん!やべえ、にげn・・・・・・。
ゴオオオオオオオオオ!
ショウタに思考できたのはそこまでだった。
ドラゴンの凄まじいブレスがショウタに襲いかかる。
数秒間に及んだ岩をも溶かすその攻撃は止んだ。
そこに残るのは、哀れな少年の灰だけd「あちぃぃぃぃぃぃぃぃんだよアホがああああ!」
僕はほとんど無意識にドラゴンに突っ込む。目の前にいるのが自分の何倍もの巨躯であることさえ忘れ、拳を振り抜く。
キラァーーーン!
僕が殴った何かは馬鹿みたいに吹っ飛び、お空に輝くお星様になった。
・・・あれ、僕何してるんだ?
アルムは疑問に思った。自らに死をもたらすはずのブレスがやってこないのだ。つい先程ドラゴンの口内に炎を確認したはずだというのに。
どういうことだ?アルムは見たくはないと思いながらも、おそるおそる目を開く。
そこには死の象徴ドラゴン・・・・・・ではなく、拳を突き出したアフロの少年が立っていた。
冒険者として数々の経験をしてきたアルムだが、この時だけは目の前の状況が全く理解できなかった。
俺は恐怖のあまり意味の分からない幻覚を見ているに違いない。そう思いさえするような始末だった。
うーむ、つい熱くてムカついたから考えなしに行動してしまった。反省しなければ。まあ、いきなりあんな光景に出くわせば誰だって焦るとは思うんだけどね。
ていうか神様もひどいな。何もあんなところに転移させなくてもいいのに。あ、でもドラゴンなんて見れてある意味ラッキーだったのかな?いかにも異世界って感じだしな、ドラゴン。
そんなことを考えながら周囲を見回してみる。すると後ろに目を見開いたまま固まる人が見受けられた。三人も。
・・・人だよな?あまりにも動かないので人形かもと不安になってくる。まあとにかく声をかけてみよう。人だったら記念すべき第一異世界人発見だ。なるべくいい出会いにしたいものだ。
「こんにちは!」
努めて明るく声をかける。しかし反応がない。やはり人形なのか?
「こんにちは!聞こえていますか?」
なんかつい最近もこんなやりとりをした気がするな。あっちは笑い転げてたから動いてはいたけど。
「あ、ああ、すまない。聞こえている。ちょっと状況が飲み込めず固まってしまっていた。」
お、よかった。斧を持った男の人が答えてくれた。周りの2人もこくこくとうなずいている。
「はじめまして!ショウタといいます。よろしくお願いします!」
「う、うむ。俺はアルムだ。そっちの剣を持っているのがイルド、杖を持ってる方がウィーゼだ。よろしく頼む。その、ところで聞きたいことがあるのだが・・・」
なんだろう。道でも聞きたいのだろうか?どちらかというとこちらがこの世界について色々と聞きたいんだけれども。
しかし、いきなり断っても悪いしな。聞くだけ聞いてみよう。
「ええ、僕に答えられることでよければ。」
「その、ここらでドラゴンを見かけなかったか?いや、何をバカなことを言ってるんだとは自分でも思うんだがな。見かけていたら生きているはずはないしな。」
「あっ、見ましたよ!」
どうやら僕にも答えられることだったようだ。よかったよかった。
「そうか、やはり見ていないk・・・うん?すまんな。まだ混乱しているみたいだ。もう一度言ってくれるか?」
「見ましたよドラゴン。炎を吐くやつですよね?飛んでいきましたよ。」
流れ星みたいに。
「飛んでいった?あの状況からなぜそんな真似を?」
なんかアルムさんがブツブツつぶやいている。大丈夫だろうか。
「あのー、アルムさん?」
「ああ、すまんな。いや、もういないというならそれでいいんだ。」
よく分からないが落ち着いたようだ。
「その、こちらからも質問していいですかね?」
「ああ、もちろんだ。何が聞きたいんだ?」
「実は僕、山奥の田舎で暮らしていたものでこの辺りの街とかに詳しくないんです。よかったら場所を教えてもらえるとありがたいです。」
定番の言い訳発動!
「そんなことか、俺たちもちょうど街へ戻るところだったんだ。ついでに案内しよう。」
効果はバツグンだ!
「ありがとうございます!それと街で仕事を探したいんですけど何かありませんかね?周りに家すらない山奥だったのでお金も持っていなくて。」
「す、すごいところに住んでいたのだな。仕事となると手っ取り早いのは冒険者だな。ギルドで登録すればすぐに仕事を受けられるぞ。」
ほうほう、冒険者!やっぱり異世界といえば冒険者だよな。街についたら登録しに行こう。
「なるほど、ありがとうございます。みなさんも武器を持っていますし冒険者なんですか?」
ずっとアルムの横で黙っていたイルドだったが急に自慢気に答えてきた。
「俺たちはBランクパーティーの白狼の牙ってんだ!ここらじゃかなり名の知れたパーティーなんだぜ?」
Bランクがどれほどすごいのか分からないが、有名なパーティーらしい。きっとさっきのドラゴンなどよりもはるかに強いのだろう。まあ、この世界に来たばかりの僕でも倒せるような相手なんだし当たり前か。
「それはすごいですね。ちなみにさっきのドラゴンはどのくらいの強さなんですか?」
「お、お前、ドラゴンなんかSランクに決まってんじゃねえか。」
白狼の牙がBランクでドラゴンがSランクってことは、この世界ではS→A→B→Cというようにランクが上がっていくのかな。珍しいが異世界だし、僕の常識は当てにしない方がいいな。
「なるほど、勉強になります。」
「ドラゴンのランクすら知らないって本当にどんな田舎なのよ・・・。」
魔法使いっぽいお姉さんにも呆れられてしまった。それほどありふれたモンスターなのかドラゴンは。元の世界で言ったらスライムみたいなものなのかもな。うーん、早めに常識は身につけたいな。
そんなふうに会話をしながら、僕たちは街へと歩いて行った。途中で、ギルドで登録する際にステータスやスキルも分かるということも教えてもらった。
そういえば神様がスキルをくれたって言ってたっけ。戦闘に役立つものだといいなあ。あ、でも生産スキルとかも楽しそうだよな。
まだ見ぬスキルに思いを馳せながら、僕は街にたどり着くのであった。
アルム「そういえば気になっていたんだがショウタの髪型は独特だな。」
イルド「爆発したみたいだよな。」
ウィーゼ「鳥の巣みたいです。」
ショウタ「は?え、何の話?」
ギャグ漫画あるある
①火をくらうとアフロ
②致命傷でも死なない(死んでもすぐ生き返る)
③バトル漫画のキャラより強い