疑惑のSランク
盗賊とグリフォンの襲撃から1日、僕たちは街の門にいた。ジークの街と王都の間にある街でラーシュという街らしい。ここで邪魔な盗賊たちとついでにグリフォンの素材を買い取ってもらうのだ。
「ショウタさん、盗賊の方は私が衛兵に引き渡して換金してきましょう。その間にギルドへ行ってグリフォンの換金してきてください。」
まあ分かれて行動した方が早いしお言葉に甘えよう。
「分かりました。ではまた。」
そう告げギルドへと街の人に道を聞きながら向かう。僕がグリフォンの死体を抱えているもんだから、道を尋ねた人を驚かせてしまったが無事にギルドに着くことができた。
ちょっとジークの街のギルドよりは小さめかな。中に入ってもやはりあちらよりも冒険者も少なめだ。
受付へと向かい、座っている女の人へと声をかける。
「すいませーん、素材の買い取りをお願いしたいんですけど!」
「はいは〜い。なんの買い取りですか〜。」
ちょっとだるそうな雰囲気のお姉さんだ。受付の台へとグリフォンを置いてみる。
「これです!欲しい部位もないので丸ごと買い取って欲しいんですけど。」
「おわあ!びっくりしたあ!…眠気が一気に飛んじゃったわ。これ、一体どうしたの?おつかいかなにか?」
ん、おつかい?
「いや倒したので持ってきただけですけど。何かまずかったですか?」
「…あのね〜、あなたみたいに若い子がいきなりグリフォンなんか持ってきたら疑うのが普通よ。名前は?」
「ショウタです。」
「ショウタ…うん、やっぱりそんな名前の若手Aランク冒険者は知らないわね。これ、盗んできたとかじゃないでしょうね?」
「いや、ですから街に来る途中で襲われたので倒してきたんですよ。」
「…埒が明かないわね。いいわ、ギルドカードを見せてちょうだい。」
促されたのでおとなしくカードを渡すことにした。そんなに若い高ランクの冒険者は珍しいのか?
「はい、どうぞ。」
お姉さんがカードを受け取り眺める。
「どれどれ。……Sランク?」
「はい、そうです。」
「嘘でしょ?いやでも、隣街のジークでSランクの冒険者が現れてヒュドラーを倒したとかそんな報告があった気が…」
「あ、それ僕ですね。」
「ええ!じゃああなたが『理不尽なロリコン』なの!?」
「あ、やっぱ僕じゃないですね。」
本名は広まってないのに二つ名はもう広まっているのか。泣きたい。
「どっちなのよ!いや、Sランクなんて新人の『理不尽なロリコン』を含めてもこの国には3人しかいないはず!他のSランクはベテランだし、やっぱりあなたが『理不尽なロリコン』に違いないわ!」
「あの、もう認めるんでその名前連呼しないでもらえます?」
というか横にミーシャを連れてきているのでこれ以上言い訳しても勝てる気がしない。
「はっ!これは失礼いたしました。ようこそラーシュの街のギルドへ。Sランクの方をお迎えできるとは光栄です。」
急に態度がガラッと変わったな。あれだよね?Sランクだからだよね?変態だから距離置かれたとかではないよね?
その後は無事に買い取りをしてもらえた。200万ゴルドだったのでヒュドラーの首1本よりも安い。Sランクのヒュドラーが高すぎるのか、それともAランクのグリフォンが安すぎるのか。まあ、大きさもヒュドラー程じゃないし、こんなもんなのかな。
街の門へと戻るとバラットさんも換金を済ませたようだった。。
「おお、ショウタさん。こちらは1人10万ゴルドで合計220万ゴルドでしたぞ!」
げ、盗賊の方がグリフォンよりも高いじゃないか。まあ、1人の命が10万と考えると安すぎる気もするけどね。
「そうですか。なかなかの額になりましたね。」
「まあ、あれだけの数ですからなあ。さあお受け取りください。」
そう言って全額渡そうとしてくるバラットさん。うーん、全部もらうのも何か悪い気がするな。金欠で困ってるならともかくそうではないし半額だけ受け取ろう。お金も大事だけど、人との縁も大事だしね。
「バラットさんのロープをお借りして連れてきましたし、半額は受け取ってください。」
「…ありがたいですがそれはもらいすぎでは?」
「じゃあ、王都に着いたらいい宿屋とおいしいものでも紹介してください。その代金ってことで。」
「ハハハ!強いうえに度量もあるとは若いのに恐ろしい人ですなあ!何か裏があるのではと疑ってしまった自分が恥ずかしいですわ!分かりました、責任を持ってご紹介しましょう!」
まあ商人なんて疑り深いくらいでちょうどいいと思うけどね。
それからその日は街に1泊した。バラットさんに宿をとるのを任せたら気を利かせたつもりなのか僕とミーシャの部屋が一部屋しかなかったので、不可抗力で同じベッドで眠ることになった。あくまで不可抗力だ。
まあ、ミーシャは旅で疲れていたし、僕も一緒に眠るミーシャの体温が心地よくすぐに眠気が襲ってきたので僕たちは何もせずに眠った。…決してヘタレだったわけではない。
翌日からはまた馬車の旅が始まり、途中で3度程街へと立ち寄りながらいよいよ王都目前までやってきた。
「いや〜、順調に来れてよかったですな。あともうすぐで王都につきますぞ。闘技大会は明後日からのはずです、明日は1日観光でもしながら体を休めると良いでしょう。」
僕たちは馬車から降り、歩きながら会話をしていた。どうやら王都は中に入る際身分や積荷のチェックがあるので馬車から出ておかなければならないらしい。
「ええ、ここまでありがとうございます。」
「王都についたら約束通り、いい宿と料理のうまい店をお教えしましょう。」
「それは楽しみですね。」
雑談をしていると、巨大な門とその周囲に広がる壁が見えてきた。門の前には人の列ができている。おお、あれが王都かな?でっかいなー、あんな長さの壁見たことないぞ。
人の列に並び入場を待つ。闘技大会があるので普段より混んでいるらしく、10分ほど待たされた。
「よし、次の者身分を示すものを出せ!」
体を金属鎧で包んだごつい男に声をかけられる。バラットさんは商人のライセンス、ミーシャはジークの街の住民であることを示すカードを見せた。定住する人たちは住民カードを持っているらしい。僕は家を持っていない冒険者なのでギルドカードを差し出す。
「ふむ、通ってよ…待て。そこのギルドカードを出したお前。ちょっとこい。」
なんだろう、また嫌な予感がする。
「はい、なんでしょうか?」
「そのカードはどうした?」
「ジークの街で登録した際に作ってもらいました。」
「ランクについての釈明は?」
「最初からこうだったとしか。」
「…おい、誰か。隊長を呼んできてくれ!」
うわー確定だ。まためんどくさいことになるよこれ。
少しすると大柄で肩に大剣を担いだ男がやってくる。
「なんだめんどくせえ。いちいち呼ぶんじゃあねえよ。」
「申し訳ありません、隊長。しかし、Sランクと書かれたギルドカードを持つものが現れたので。」
「『紅蓮』でも『剣聖』でもないのか?」
「はっ!どちらでもありません!」
「じゃあもう死刑でいいんじゃない?」
おいこら。軽く人の運命を決めるな。ていうか、ジークの街のギルマス上の方に僕のことを報告するとか言ってなかったか?あの性悪オオカミ、まさか忘れてるんじゃないだろうな?
「あのーさすがに死刑は勘弁なんですが。」
「お!お前がSランクのやつか?そりゃ死刑は嫌だよなあ。…じゃあちょっと試させてもらうぜ?」
言葉を言い終えるが早いか、大剣を肩に担いだ状態から右手1本で振り下ろしてくる。どんな筋力してるんだろうこの人。人のことは言えないけどさ。
反撃するのはまずいかと思い、同じく正面に迫った大剣を右手一つでがっしりと受け止める。…次の動作がないな?ていうか攻撃の意志がもうない?
「…動かないんですか?」
「ああ、もう十分だ。悪かったな、ショウタ。合格だ。」
ん?この人は僕のギルドカードを見てないよな?なんで僕の名前を言えるんだ?それに、合格?
「話が見えてこないんですけど。」
「おお、そりゃそうだ!俺は衛兵隊長、ドゴス。お前の試験を頼まれてたんだよ。」
「試験?」
「ああ、先日ジークのギルドから新たなSランクが誕生したって報告が王都に来てな。」
一応あのギルマスも仕事はしていたらしい。疑ってごめんよ。
「ならなぜこんなことを?」
「その報告が、新人冒険者ってんだから誰も信じなくてな。そこにジークのギルマスから追加で情報が送られてきたんだ。『例の新人が闘技大会に出るためそちらに向かうらしい。報告を疑うなら不意打ちでも騙し討ちでもするなりして実力を確かめるといい』ってな。」
「…それで?」
「アドバイス通り、一芝居うって不意打ちをしてみたってわけさ。」
やっぱあいつのせいだった。疑ってしかるべきだったじゃないか。ギルマスに謝っていたさっきの僕を殴りたい。
ていうか実力の確認なら普通に一騎打ちでいいよね?なぜ不意打ちとか騙し討ち前提なんだ。絶対許さんぞギルマス。
「…色々納得いきませんけど、じゃあ認めてもらえたんですよね?」
「おお、文句ナシだ。俺の剣を素手で受け止めるなんざSランクでもなきゃできるはずはねえからな。こりゃあ今年の大会が楽しみだぜ。」
「まあ街に入れるならよかったです。ドゴスさんも大会に出るんですか?」
「いや、残念ながら俺は出れねえ。大会中は街中の警護があるからな。ただ今年は、王国騎士団長やSランクの『紅蓮』が出場するって噂だ。そこにお前が加わるとなりゃあ、今回の大会はいつも以上に盛り上がるだろうよ!」
へー僕以外のSランクも出てくるのか。これは油断はできなそうだ。
思わずいい情報が手に入ったところで、話を切り上げて街へと入れてもらった。バラットさんにおすすめの宿屋とおいしい料理を教えてもらい、バラットさんと別れた。このまま商談に向かうらしい。2週間も一緒に旅をしていたので少々名残惜しい。
その後ミーシャと話し合い今日はもう宿屋に行きゆっくりすることにした。その分明日は朝から街を回る約束をした。
宿屋へ着き、今度は当然僕自身が部屋をとることになった。たっぷり数十秒ほど悩み、部屋を2つ取った。
…やっぱり僕はヘタレなのかもしれない。
あるあるがない。そんな時もありますよね。
代わりにお礼を。ブクマや感想ちょくちょくいただけてうれしいです。正直ブクマも感想も1件ももらえず完結までいくと思っていたので。
ギャグ漫画あるある
XXIII ・・・ギャグとか書いたりする人ほど意外とネガティブ
無理やりぶち込んでいくスタイル