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再び戻された/消失してしまった借り

 色々ありました。再度の入院とかスマブ○の発売とか……ともかく、久し振りの投稿です。


「日本への里帰りを今急ぐ必要はない。先に新しい領地の視察というのを済ませておくべきだ」

 と俺は強弁した。だがその主張は太秦に却下された。


「そういう訳にはいかないよお、オーギ君。英雄の君にだって相応の休息は必要だ。いや、英雄だからこそ、国王たる俺は君の働きに相応する報いを与えなければならない。政治的な秩序を保つ為にもね。君が初日から想定外に働いてくれたお陰様で、しばらくは情勢にも余裕が出てきそうだし、それに先刻手伝ってもらって揃えたばかりの……予備戦力・・・・達だって居る。むしろ身を休めるなら今が最適のタイミングだよ。第一、君やシキちゃんは良くても、カンセー君にはそろそろ疲れが出始めてるんじゃないのかい? 何せここは日本の大学生にとって馴染みの薄い戦争の渦中だ。俺としても、君達に用立ててきて欲しい日本の品物は幾つかあるしさあ」

「……そうは言うがな」

「オーギ君。この国を救う前に、まずは自分自身を救うことを忘れないでくれ」

 太秦が言った。表情こそいつものにやけ顔だったが、その眼は笑っていなかった。


「俺をこちらの世界に連れてきた、お前がそれを言うのか」

「言うとも。君は封印術以上に、個人的な望みや想いを閉じ込めて我慢するのが些か得意すぎるみたいだからねえ。いや、だからこそ封印術の使い手なのかな。魔術の才能は本人の精神性に左右されるって言われてるし。でも辞めた方が良いよお。不満を圧し殺すのは身体に悪い。心にもね。君、カーネリアンちゃん達との永い闘いを終えてから、殆どこっちに直行だったんだろう? 今回は一晩と言わず三日くらい、日本で羽を伸ばしてきて欲しい。正直、君の仕事中毒ぶりは見てる方も不安にさせられるんだ。俺にも他人のことは言えないけど、いつか土壇場で壊れてしまいそうな気がしてね。俺はもう不死身になったから壊れないとしても、施術者の君はそうじゃないだろう?」

 今のところはな。

「そうだね。世界を渡れなくなってしまうという一点を顧みても、君はまだ不死身になる訳にはいかない。少なくとも今のところは」


 だからこの王国の為だけでなく他ならぬ君自身の為にも、お休みは余裕のある内に取ってくれ給えよ、休暇と言うよりこれは療養期間さあ、と言い捨てて、太秦は公務に戻っていった。俺とカンセーとシキと、それからカーネリアンが部屋に残された。


「まあ、それも道理じゃな。あの男の言い様は実以って気に入らんが、元より己を救えぬ者に他者を救うことなど出来ん」

 カーネリアンの見識に、シキとカンセーも追従した。

「だね。心情的に色々納得しづらいところはあるだろうけれどさ、これから三日間は、お父さんが打ち立てていく英雄譚の幕間ってことで。ゆっくりしようよ」

「俺からも一応頼んでおこうか。俺自身の気疲れっていうのも確かにあるんだが、それ以上にお前のその不安定さが心配だ」

 ……本当に良いんだろうか。新しい領地の視察に限らず、先に済ませておくべきことは山積みになっているように思える。あの山頂から何処かに飛び去っていった敵将の行方がまだ判っていない件もあるし、連中が乗っていた死竜一体だけでも、そこらの防衛拠点にとっては充分な脅威になりえる筈だ。


「しょうがないにゃあ」

 尚も悩み続ける俺を見て、シキがそう言った。確かにそう言った。聞きそこねた振りも出来ない程はっきりとそう言っていたので、部屋の空気が停滞した。

 突然の奇態に眼を丸くしている俺に向けて、シキは続けた。


「可愛い娘の頼みだにゃ。お父さんには休んで欲しいにゃ、にゃん」

「……いきなりどうした!?」

 お前、お前、お前! お前そんなノリじゃなかった筈だろ。ちょっと見ない間に何があったんだ。今更そんな真似しなくても充分キャラ濃いよ、お前。むしろ俺とカンセーがもっと派手になった方がいいまであるわ。あと、ちょっと照れ入ってんじゃねえ。逆に可愛いだろうが。


「え! こういうのが実は好みなんじゃなかったの? カガリは可愛いからこうやれば大抵の願いごとは叶えてあげたくなってしまう、って言ってくれてたのに」

「それはあれだ。小さかった頃のお前を甘やかす為の口実だろ」

 未来のことは判らんが、父親になった俺がそれを本気で言ったってことは流石にないと思う。ないよな? 頼むからただの風評被害であってくれ。


「それじゃ、まさかあれは子供騙しの嘘だったと言うの……」

「そのまさかだろ。お前は未来の父親を絶対視し過ぎだ」

「むう。いけると思ったんだけどなあ」

 いけねえよ。今のお前は二重の意味でいけてない。見ろ、カーネリアンが優しい年長者の眼になっちゃっただろ。カンセーは視線を合わせてもくれないし、めちゃくちゃ居心地が悪いぞ。どうしてくれるんだよ、これ。




   ■ ■ ■




「休暇を取るのがことほど左様に気に入らんと贅沢を宣うのならば、ぬしよ、その三日の間、ぬしと妾で編み出したあの新技を享けよ。一度で足りねば、二度、三度じゃ」

 渋る俺を見かねたのか、カーネリアンが提案した。

 ……いや、何だそれ。新技って言うのは多分、薬伽の前で作ったあの『反響』のことだろうけど、休みの間にそれを使うことに一体何の意味があるんだ?


「あの新技を用いた際に、ぬしの身に今もかかっておる感情面の封印が僅かに緩むのを感じたのじゃ。あたかも岩に挟まった小石が湧水によって緩むようにな。あれを繰り返さば、ぬしの頑迷にして強固なる封印を解くことも叶うやもしれん。繰り返して尚不足ならば、それこそ喧騒から離れ、ゆるりと心を休めるも良かろう。言うなれば情操教育のやり直しじゃな。戦は知らず心を罅割れさせるものよ」

「情操教育って言うな」

「加えて、あの青びょうたんが如き男の影響も気になるしの」

「薬伽のことか?」

「ぬしの精神に、あのうらなり男の置き土産が残っておらんとも、限らんという話じゃ」


 そう言ってカーネリアンは、円い真紅の瞳で俺の顔を覗き込んだ。心の奥に尚潜んでいる存在を、焼き払わんとするかのような瞳だった。




   ■ ■ ■




「一部とは言え、既に売り払った品を自分で使うというのは、筋が通らんでしょう。私は行きませんよ。異界とやらで手に入るものや、相場の違いに興味がない訳ではありませんがね、私も商売人ですから」


 砦の一室で革幣の枚数を勘定しながら、アニクシは言った。それはつまり、自ら売却した触媒を自ら消費するつもりはないという、商売人としての矜持を理由とした謝絶だった。

 余談になるが、ダルファニールに信用通貨の時代はまだ来ていない。にも関わらず貨幣が一片の革で出来ているのは、その革が鉱山を掘って手に入る貴金属よりも遥かに得難いものだからだ。黒く硬質なその小片は、森に慣れぬ者が狩ろうとすれば多数の犠牲者は必至となる、魔獣の革だ。

 大規模な国家事業として討伐され、財務局によって一度買い上げられたそれは、まず将兵の防具などに加工され、その際に余剰として出た端切れが革幣となる。その際にどの程度の革幣を余らせるかというさじ加減によって、市場に出回る流通量を管理しているらしい。

 魔獣が狩り尽くされてあわや絶滅、なんて心配は当分必要ないだろうと言われている。単純にそれくらい強いからだ。魔獣を倒すなら普通は莫大な人件費が必要になる。通貨の独自入手を目論む密猟者は毎年現れるが、それは大抵の場合、無惨な痕跡として発見されたという意味にすぎない。だからだろう、この国には『革幣は欲を増やし、欲張りを減らす』という諺がある。


「そうか。アルティリオとルーチェさんにも仕事があるからって断られたし、行かないというなら良いんだがな」

 日本行きの定員は四人。だが、この定員には実のところあまり意味がない。日本に行きたい人員を俺の封印術によって何かに閉じ込めておくことで、転移用触媒の消費を抑えられることが先刻新たに判ったからだ。

 この抜け穴に気づいたのは、実際に封印された状態のまま世界を渡ってきたカーネリアンだった。俺自身の転移にかかる消費をなくすことはどうやっても出来ないが、頭数を少し増やす程度なら訳はないし、武器などの無機物ならばほぼ無制限に持ち込める。カーネリアン達結晶生命体は生存活動に炭素を全く用いない、つまり無機生命体なので、特に触媒の消費が少なくて済むらしい。一時的にでも封印されることを受けいれられる信頼関係は必要になるが、仲間内でやるなら特に問題にはならないだろう。


「まあ、他を当たって下さいよ。こちらにお戻りになるまでの間は、私も折角宛てがわれたこの部屋で溜まった雑務にかまけていると思いますので」

 アニクシは短い尻尾を揺らして苦笑いを浮かべた。長い尻尾には、感情が表れやすい。尻尾の短い種族は商人に向くと、この世界では言われている。


「じゃあ、日本行きの面子はこれで決まりか」

 まず、俺、カンセー、シキの他に、カーネリアン達ヴェルジュライト族の三名は確定。加えてムジカが日本行きを熱烈に希望している。前回の京都観光が余程楽しかったらしい。

 他の面々は仕事が残っていたり、まだ砦に戻ってきていなかったり、こちらの世界そのものに封印されていて同行出来なかったりで、残念ながら都合がつかなかった。


「お待ち下さい。その話、私も乗らせていただく訳には参りませんか」

 想定外の名乗りを上げたのは、カンセーに連れられて部屋に入ってきた人形の少女だった。


「悪いが俺からも頼む。俺がこの子を修理した手前、監督責任を背負うべきだというのもあるが。そもそも、俺もオーギに無理を言ってこっちの世界に連れてきてもらったんだ。だったらせめてこの子に肩入れしてやらないと嘘だろう?」


 随分と仲良くなったんだな。まあ、そういうことなら別に良いか。カンセーが油断せずに監視していてくれるなら。

 危ないかもしれんから、眼を離さないでいてくれよ。




   ■ ■ ■




 そういう訳で、また自宅に戻された。


 何日かぶりの四畳半で、俺、カンセー、シキ、ムジカ、人形の少女、カーネリアン、オニキス、オブシディアンの八名が顔を見合わせた。

 幾ら何でも手狭だ。早めに何処か外に出たい。


「早速だが何処か行きたいところはあるか? 太秦王に頼まれてる買いものに行くのは決定事項だが、他は自由に提案してくれて良いぞ」


 冷蔵庫から取り出した麦茶をちゃぶ台に並べた紙コップに注ぎながら訊いてみた。今回の来客には王族が二人程居るが、何も出さないよりはマシだろう。


「あります! 自分は前回話に聞かせていただいた貸しビデオ屋とやらに行ってみたいと思っております」

「レンタルビデオショップか。確か全国チェーンのが近くに……」

 そこまで言って恐ろしい事実に気がついた。一気に冷汗が噴き出た。


 記憶違いであってくれ、何も見つからないでくれと願いながら、押入れの一角に仕舞い込んだ段ボールを取り出した。


 なかから最初に異世界へ召喚された直前にレンタルしたビデオが数本出てきた。


 崩折れそうになりながら機械で打刻されている日づけを見ると、借りてから一年六ヶ月と十数日が経過していることが判った。貸出し期限は一週間の契約だ。

 当然それ以降は一日毎に延滞料金がかかる。


「……カンセー」

「俺も気づいてなかったわ……どうする? 返すのを引き延ばしても良いことはないだろうし、とにかく店舗に持っていくか?」


 いや、出来れば今日は見なかったことにしたい……一年半も延滞してるんだし、もう一日経って落ち着いた頃に店に電話すれば良いよな? 幾らぐらい払えば許してもらえるだろうか?


「ふっふっふ。その件なら抜かりないよ、お父さん」


 シキの説明では、未来の俺に頼まれて一年半前の時点で新品を弁償。そこの支店長には、借り主が現品を持ったまま海外に行ってしまったので、代理ながらこれで勘弁して欲しい、必要なら違約金も立て替えて支払う、と言って頭を下げたそうだ。シキの丁寧さもあってか、支店長のおじさんはこれを快諾。業務上の迷惑はかけてしまったものの、少なくとも表面的には遺恨なく許してもらえたらしい。


「カンセーおじさんのところに催促の電話が来ることもなかったでしょ? だったらお父さんがお店に行っても見咎められるようなことはないと思うよ。ムジカちゃんを連れて行っても大丈夫」


 助かったぜ、流石は時間旅行者。だが、それでも何となく気まずい。

 貸出し用のカードも使えなくなってそうだ。


「気になると言うならば尚更、様子見に参ってみれば良いではないか。己の頭一つ下げれば気まずい想いもせずに済むような話であろう。まずは悩んでおる間に、無理でも足を運ぶことじゃ。妾達にはこれと言って他に用事もないしの」


 カーネリアンが大人の意見を出してきた。

 じゃあ一緒に店までついて来てくれるか?


「子供か。いや、ぬしらは然程ながく生きてはおらんのじゃったな。まあ吝かではないが。この姿で悪目立ちせぬよう、何ぞ羽織れる布でも支度せよ」

 懐が深いなあ。一国の女王というのも、この器の大きさなら頷ける話だ。




   ■ ■ ■




 レンタルビデオ屋の住所を思い出しながらそこに向かってみると、確かにあった筈の支店が消失していた。跡地には既に別のテナントが入っている。ホビー系の雑貨店らしい。

 考えてみたら一年半も経ってるんだもんな。そういうこともある訳か。

 短く相談した末、俺達は予定を変更してその雑貨店に入ってみることにした。

 だってなくなってしまったものは仕方ないからな。



 舞台が現代に移った途端にすらすら書けるようになりました。飲みもの一つ出すにも、世界観や背景を考慮することなく、とりあえず麦茶で良いか、で話を進められるからでしょうか? それとも単純に自分にとって楽しい場面だから? いずれにせよ、そういうときはやっぱり楽しいです。たといどれだけ進捗が遅くても。

 また続きを書きたいと思います。

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