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流れ落ちる星の中で



「じゃ!行ってくるね。戻りは日曜だから、あとこれホテルの番号。

 部屋は別だから!」


聞かれてもいないのに妙に強調して家を出た。


なんとなく後ろめたくマトモにみんなの顔が見れなかった・・・


お母さんは「気をつけてね〜」と呑気に言い、妹は

「いいな〜」とブツブツと文句を言っていた。

父は・・・・「お前はいいけどハル君になにかあったら困るから気をつけろ」と

ハルのことばかり心配していた。


うちは女姉妹なので、父はハルのことを息子のように可愛がっていた。

もともと・・・男の子が欲しかったみたいだし・・・


父の前でもハルはとてもいい子だったので、

今回のことも絶対信用されていた。

どっちかというと、私が変なことをするんじゃないかと疑っていて

(逆だろ!心配の方向が!)と思いながらも、何も言わずに家を出た。


6時前にハルの家に行くと、山崎さんは顔を緩めながらニヤニヤし

同じ顔をして誠君が横に並んでいた。


お母さんだけは普通に車の心配をしてくれた。


誠君が荷物を運ぶのを手伝いながら、

「やっぱりハルじゃなくて俺のほうがきっと楽しめると思うよ?」と笑った。

それを後ろからバックを積みながらハルが

「そんなことないね〜」と文句を言っていた。


「じゃ、安全運転で行きますから。あっちに着いたら電話します。

 行ってきま〜す」


すっかり暗くなった頃に車を発進した。

これからずっとハルと二人でいられる時間が嬉しくて

二人であれこれと話ながら車を走らせた。


目的地までは5〜6時間かかる道のりなのに、

疲れることを知らずにハルは地図を見て、自分はその通りに道を進んで行った。


途中のパーキングでご飯を食べることすら、

もう10時を過ぎているのに、そんな時間に堂々と二人で

一緒にいられることが嬉しかった。


11時を少しまわった頃、

「たぶんこの辺なんだけどなぁ・・・」そう言ってハルが道路にある

看板を見ながら地図と見比べていた。


「あ!もう流れ星が見える!華、見て!」


そう言われて車を停め窓を開けて上を見た。

ちょっと見ただけなのに、2〜3回星が流れるのを確認できた。


「あ・・・願い事できなかった・・・・」

初めてジックリ見た流れ星に心が踊った。

そして、そこに見た星空はプラネタリウムに近いくらいの星空だった。


「俺もできなかったよ・・・ あ〜ぁ・・」


ガッカリするハルと一緒にいつまでも空を見上げていた。


もう11時を過ぎているというのに、車の数がどんどん増え

軽い渋滞になるほどだった。


「前の車に着いていけばいいね?」そう言って、その渋滞の波に車を進めた。


ハルはいつまでも助手席から空を見上げていた。

「すげー」を連発して・・・


本格的に一番流れ星が集中するのは夜中の2時すぎだと

ニュースで言っていたのを思い出した。


「ねぇ?確か一番流れ星が集中するのって夜中だって言ってたよ?

 今でこんなに凄いなら、どのくらいの流れ星が見えるんだろうね?」


「そうだなぁ・・・俺、今のでも十分感動してるよ・・・

 すげー まじですげぇ・・・」

首を痛めそうなくらい上を向いてハルは何度も「すげー」を言っていた。



ちょっと大きな通りに出て、歩いていた親子連れに

「この辺に詳しく無いのですが・・・どこか今日の流れ星が

 見やすい所ありますか?」と聞いた。


「この先に大きな公園があるから、その先の山の方がいいと思うよ。

 外灯が無いほうが綺麗に見えるから・・・」


お礼を言い、言われた所まで車を走らせた。

外灯も無く、それでいてちょっと小高い所に車を止め座れるような場所を探した。


もう見上げればどんどん星が流れていた。

よそ見をすることが、勿体ないくらいの星空に言葉も無く二人でただ上を見ていた。



シートに座り、またハルの前に座り足の間に入った。

曲げた膝を手すりのようにして上を見上げた。


「すごいね・・・・」

「うん・・・すげー」


そう言って口を開けながら上を見ていた。

どんどん周りにも人が集まりみんなの声が聞こえたが

「綺麗―」とか「すごーい」とかそんな言葉ばかりが聞こえた。


30分くらいして、お互い首が痛くなり、首を押さえて笑った。


「ちょっと待ってて。いい物もってきたんだ」

そう言ってハルはトランクを開け、毛布を持ってきた。

シートの上に一枚敷き、その間に入り「こっち来て」と言われ側に行った。


横になり「隣に寝て!そのほうが首も痛くないし、寒くないよ?」

ちょっとその言葉に周りの目を気にして、


「え・・いいよ。なんだか恥ずかしいし・・・」と言い辺りを見渡した。


寝袋や同じように横になりながら見ている人が沢山いて

それが二人だけじゃないことに気がついた。


(みんながそうしてるなら・・・・)


そう思い、ハルの隣に横になった。

毛布を掛けられ暖かさが広がった。体の右側に感じるハルの体温を

感じさっきより緊張しながら上を見た。


ちょうど時計が2時前後をさしていた。

もう空の星はひとつもジッとしていること無く、どんどんと落ちて行った。

歓声に近いような声が揚がっている・・・


「ハル・・・すごいね・・・・ こんなの見れてよかった・・・」


「うん・・・ なんだか夢見てるみたいだなぁ・・・ 」


そう呟くように言ったハルの肩に頭をつけて流れる星を見つめていた。

もうきっとこんな星空は生きている間には見られないだろう・・・

それをハルと見られてよかった・・


「俺さ・・・」


ポツリと隣で言うハルを「ん?」と顔をあげ見た。


「中学の頃、本気で死にたいって思ったことあってさ・・・」


その<死ぬ>と言う言葉にドキッとしながら、そのままハルの顔を見た。

ハルは視線をそのまま上に向けて次の言葉を話した。


「オヤジ、今の仕事につくまで転勤ばかりで中学の1年から2年まで

 何回も転校してさ。転校先でイジメっていうの?・・あれにあってさ。

 小学校の頃はそんな事全然、俺には関係の無いことだと思ってたけど

 それが実際、自分に降りかかるとどうにもならなくてさ・・・

 一度、そんなこと体験するとどこに行っても、もう上手く話すことが 

 できなくてさ・・ なんかそんなオーラでちゃうのかなぁ・・・

 3年になる時、こっちに越して来てちょうどこの前会ったヤツいたろ?

 お祭りで・・・ 急に無くなるのな・・・イジメって。

 あいつ等とはなんとなく打ち解けてやっと普通の生活ができた・・・

 けど、その前の2年間は最悪でさ・・・・」


どんどん話だすハルの言葉をただ黙って聞いていた・・・

そんな辛かったことなんて思い出さなくてもいいのに・・・



「あの時、死ななくてよかったなぁ・・・・

 そしたら華にも会えなかったし、こんなにすごいのも見れなかった・・・

 生きていたらいいことあるもんだな?あんだけ嫌な目に合ったから

 倍返しでデキた彼女に会えたのかな〜」


なにも言えずにただ黙っていた。

私が呑気に楽しく暮らしていた時間にハルがそんなことを考えた

時間があったことに、どう表現していいかわからないが悲しくなった。


「誰見ても信じられなかったな〜 優しくされても裏があるような気がして。

 いつも「俺に優しくしてもなんの得も無いから」って人と関わるの避けてた」


「私も?」


「いや。もう華と会った時はそんなこと無いけどさ。

 それに会う前から少しだけ憧れてたんだろうな・・・オヤジがいつも

 華の話してたから。初めて会った時も緊張したし。

 初めてバイクの後ろに乗ってくれた時なんか俺、記憶飛んでるもの〜」


あんなに最初、余裕な感じで話をしていたので、そんな風には思えなかった。

こっちが真っ白すぎて見えていなかったのかもしれないけど・・・


「こんなに流れ星だらけだから、どんなお願い事も効いてくれそうだね。

 なにお願いする?」


「ちょっと話が暗かった?」


「ううん・・・ でももう過ぎたことだから・・

 これからは良いことしか無いよ・・きっと」



「そうならいいな・・・ 願い事は現状維持ってお願いするよ・・

 華は?なにお願いする?」


「私は・・・ハルがどこに行ってもずーと一緒にいられますようにって

 お願いする」


そう言ってまた黙って二人で流れ星を見ていた。


「それは星じゃなくて俺に言えばいいんじゃない?」

「そうだね・・・ じゃあ約束ね。歳をとってハルがもし先に死んじゃったら

 絶対一緒にいく。一人じゃ寂しいもの・・・」


「そっか。じゃあそうするよ。嫌だって言っても連れていくよ?」


その時はそんなこと、考えもしない遠い未来のことだと思い

漠然とただ一緒にいられることに幸せな気持ちでそう言った。

ハルと離れることなんて少しも考えていなかった。



きっとこのまま二人は一緒に歳をとり、

いつまでも一緒にいられる・・・そう信じて疑わなかった。


空が少し明るくなる頃、星が見辛くなり帰る人達が出てきた。

中には寝袋のまま眠っている人もいた。

朝日が射してきて、空が完全に明るくなり二人で車に乗った。

ホテルを予約したけど、チェックインが2時だった。


「どうしようか?まだ時間あるね?」

ほんの少し眠気がさしたままハルに言うと、ハルもぼんやりした

顔をして「う〜ん・・」と考えていた。


大きな木の下に車を停め、そのままシートを倒して目を閉じた。

さっきの毛布を横にして手を繋いだまま眠りに落ちた・・・

ちょっと体が痛くなりそうだったけれど、

ヒーターの暖かさとハルの手を感触に、すぐ眠りに落ちた。



ピクッとハルの手が動いたのを感じ目を覚ました。

時計を見るともう正午を過ぎていて、体が異常なくらい痛かった。

横でハルは首を斜めにして、気持ち悪い格好で眠っていた。

その格好を見て、笑いながら車を発進した。


揺れる振動に目を覚まし、

「あれ・・・あ・・ 起きたんだ?腹減ったな〜 なんか食べようか?」

と言い、シートを戻し首をゴキゴキ鳴らしながらアクビをした。


「ご飯食べてからホテルに入ろうか。そこでゆっくり寝よう?

 あ!山崎さんに電話してなかった!すぐ電話して!」


隣でハルが昨日の星空を嬉しそうに説明しているのを聞きながら、車を運転した。


食事を終え、ホテルに着き、

フロントでハルが高校生だとバレるんじゃないかとドキドキしたが、

普段着で、それも大人びた髪型をしたハルのことを

受付の人は全然気にせず年齢を私と同じと偽りカードに記入した。


どことなく二人とも緊張をしていた。


部屋に入り荷物を置き、部屋を見渡すと雑誌に載っていた通りの

部屋に「ふ〜ん・・・」とウロウロと歩きまわり

目が合うたびにドキドキして視線を外した。


「あのさ。もう眠くないよね?」ちょっと声を裏返してハルが言い

「あ・・そうそう!さっき寝たからね。どうしようか?どこか行く?」


私も声のトーンが変に高かった。


どこかに行くと行っても、また今日も少し見えるであろう

流星群の名残を見ようと山奥にたつ静かなホテルを予約したので

周囲にはたいした見るものも無かった。


外はもう寒く、散歩という雰囲気でも無い。

窓から外を見ると晴れているのに、風が冷たそうだった。


「あのさ・・・そう緊張しないでよ。こっちまで緊張するじゃん・・」

「あ・・・うん。なんだかこんな所に二人ってこと今まで無いから

 ちょっと、、、ね・・」

そう言ってどうしても取れない変な緊張を持ったまま話をした。


「ホテルの中見てこようか?」目線を合わせず言うハルに

「う、、うん。そうだね。見てこよう」と慌ててキーを持ち部屋を出た。


ロビーのラウンジでお茶を飲みながらこの寒いのに外で

走り回る子供を見ていた。


「なんだかすごい大人になった気分・・・旅行って感じ」

「だって旅行だもの・・・」また沈黙が続いた。


「俺が緊張するならわかるけど、華まですること無いじゃん。

 その、、、ほら、、、初めてでもあるまいし」


「ちょっと・・・私そんなに遊んでないよ!失礼ね!」


「だって・・そうじゃん。初めてじゃないでしょ?」


「そりゃ、、そうだけど、、、でも、、、」


後のほうが聞き取れないくらい小さい声に

「え?なに?」と聞かれたが、それ以上答えず黙って紅茶を飲んだ。


初めてでは無いけれど、あまり良い印象は無かった。

私の記憶の中のセックスは「痛い事」としかインプットされていなく、

あまりの痛みに「二度としたくない!」とまで思っていた。


あんな痛いことを、どうしてみんな喜んでするのか未だにわからなかった。


一度だって気持ちいいと感じたことが無いのに

年上だということと、ハルは私が男慣れしてると思っている今、言えないままだった。


小さいゲームコーナーで遊び、夕食の前に各自大浴場に行った。

露天風呂に入り、夜のことを考えて憂鬱になった。


(どうしようかなぁ・・・・何も無いまま終わらないかなぁ・・・)

そんなことを考えながらお湯の中で足を小さくバタバタと動かしていた。


ホテルのサービスで好きな柄の浴衣を選び、それを着て部屋に

戻るとハルも浴衣を着ていた。


「どう?似合う?」


「バカボンみたい・・・」


「なにそれー!ひでぇ〜」


「だって・・・そんな上で帯締めるんだもん!」


自分で言った例えがあまりにピッタリで二人で目に涙が溜まるくらい

大笑いをした。


食事を終え、空が暗くなるとまだ昨日ほどじゃないがいくつもの流れ星が見えた。


昨日ほどのテンションは無くともお互い部屋の窓でそれを見ていた。


そして心の中で、


(痛くありませんように・・・・)と願い、隣でハルは(失敗しませんように・・)

と願っていた。





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