表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/24

学生だと思い知る

翌日、仕事が終わってからハルの家に行った。

山崎さんには仕事場で会った時に、

「今日からちゃんと勉強するって言ってました。

 ちゃんと見張ってるから大丈夫ですから!」と報告しておいた。



「お・・・やっぱり単純だな〜 そっか。よろしくね

 やっぱり華ちゃんに言ってよかったよ〜」


そう言ってニコニコしていた。

家に着いて部屋に入ると、ハルは呑気にゲームをしていた。


「ちょっと・・・・勉強するんじゃなかったの?」

そう言いながらスイッチを消し、机まで引っ張って行った。


ブツブツと文句を言いながらも、横で見ていると

得意と言うだけあり、数学はちょっと本を見ただけでスラスラと解いていった。


「ハルさ・・・下がったってどれくらい下がったの?」

その難しい問題をなんなくこなすハルを見て聞いた。


「え?ん〜 学年でいつも5番以内だったのが・・・

 15番くらい?別に勉強しなかった訳でも無いんだけどな〜

 たまたまテストの前にちょっと遊んでたりしたから、

 頭が回らなくてね。でも、それほど騒ぐことでも無いよ」


(わ・・・5番以内って。頭いいんだ・・・・)


学生のハルの姿など、ほとんど考えたことが無かったので

それを聞いて改めて(やっぱり学生なんだな)と思った。


「ハルって頭いいんだ?あまりそんな風には見えなかったけど・・・」


「ちょっと、、それ酷くない?まぁ、学校でやってる勉強なんて

 将来そんなに役にたつとも思ってないけどね。

 俺、バイク関係の仕事に行きたいしさ。 

 別に英語なんか出来なくても問題無いじゃん・・・」


まだ学生のハルですら、自分の将来をちゃんと固めているのに

もたもたとあまり収入の良くないバイトで専門学校の入学金を

溜めている自分が小さいな〜と思った。


「でも、偉いね。ちゃんと将来なにしたいって決めているなら。

 私なんかチマチマと専門学校の入学金溜めるのが精一杯だもん。

 それにそこに行ったからって、その後も続けるかなんて

 まだわからないし・・・」そう言って英語の教科書を見た。


「華・・・専門学校行くの?いつ?そんな話聞いてないけど」

動かしていたペンを止めこっちを見た。


「え・・・そうだなぁ・・ 結構入学金高いんだよね。

 本当は来年の4月って思ってたけど、ちょっと無理だから 

 その次の4月になるかも?」


「そうなんだ・・・じゃあ、俺も近くの大学にすればいいかな。

 どーせこの辺にはいい大学無いしさ。じゃあお互い独り暮らしだし

 もっと気軽に会えるじゃん。そっか、じゃあ再来年にしようよ。

 その頃ならもう一緒に住んでもいいって言うかもよ?」


「そうだね。でもまだ全然先の話じゃない?

 それより今は次の試験に力入れてよ!こっちも困るんだから!

 次の流星群なんてもう死んで見れないんだよ?

 せっかく外泊していいって言われてるのに無駄にしていいのー」


本当はそう言ってくれたハルの言葉が嬉しかったのに、

照れ隠しのように話を誤魔化した。

内心、少しだけ将来の自分の仕事のことなんか

どーでもいいと感じていた。このままハルと一緒に居れて

結婚なんかできたら・・・そんなことを思った。



「はいはい。わかりました・・・」ブチブチと言いながらハルはまた

ペンを持ち真剣な顔をしてノートに目を向けた。

1時間ほどしてから、誠君が覗きにきた。


「あれ?今日はイチャつかないで真面目に勉強してんだ?

 ハル、ちょっと英語の辞書貸して。学校に忘れてきたみたいでさ」


そう言ってハルの本棚の中から辞書を出してパラパラとめくった。

 

「ん〜 違うなぁ。やっぱよくわかんねーや」そう言って辞書を閉じ困った顔をした。


「誠君なに探してるの?英語?」


「あ・・・うん。ちょっとね。単語じゃないんだけど・・・」


「私見てあげようか?なに」


「華、母さんが帰国子女だから子供の頃から家で英語教えて

 もらってたんだってさ。ためしに聞いてみたら?」

ノートから目を動かさずに誠君に言った。


「そうなんだ。じゃあちょっといい?」自分の部屋を指差して

そう言う誠君に「ちょっと行ってくるね」とハルに伝え着いていった。


誠君の部屋はハルと同じ大きさの8畳の部屋だけど、

置いてるインテリアが違うので、とても狭く見えた。

机に行きノートを見て、例文の意味を説明した。


「すげぇ〜 華さんもっと違う方向の仕事にすりゃいいのに・・・

 もったいないじゃん」ちょっと驚く誠君に優越感に浸りながら、


「別にあれはバイトだから。お金溜まったら専門学校に行くの。

 でも英語は別に好きじゃないから、どーでもいいの」そう言って笑った。


「後は?なにかわからないことある?」


「う〜ん・・・どうしてハルなんかと付き合ってるのかってことかな〜」


「え。どうして?なにか問題ある?」


ちょっと嫌味のように言う誠君に苦笑いをしながら聞いた。


「ハルよりキスうまいよ?俺」椅子に座りながらこっちを見て

(どう?)とおおげさに唇を出した。

その言葉にこの前の夜、実は見られていたんだと確信した。



「あら。ハルも上手よ?じゃ、また解らない所あったら言ってね」


(は〜い)と軽く手を振って誠君も机に顔を向けた。

そのままハルの部屋に戻り、また隣の椅子に座った。


「兄貴の解った?」こっちを見ないで言うハルに「うん」と返事をして

また教科書を見た。


「なんか変なこと言われなかった?」


「ん〜 俺のほうがハルよりキスが上手いってさ」

そう言って例題を解いていた。


「はぁぁ?アイツなに言ってんのよ」顔をあげこっちを見て怒った顔をした。


そのままこっちを向いたハルに顔を近づけキスをした。

怒った顔をすぐに元に戻し、椅子を少しこっちにズラした。


「だから「ハルも上手よ?」って言っておいた」パッと唇を離し

また教科書に目をやりながらチラッとハルを見た。


「ん・・ならいいや」機嫌を直してニッコリとまた勉強を始めたハルが

やっぱり可愛くて、思わず頭を撫でた。

そのままハルは機嫌よく勉強をした。


7時を過ぎた頃、下から山崎さんの声がして二人で降りて行った。

誠君もその後にダイニングにつき、食事をした。


「で、どう?ハルの進み具合は?」

真面目に勉強を始めたハルに機嫌をよくして山崎さんが私を見て言った。


「ハルって、頭いいんですね?もしかしたら前より上がるかも」

軽くプレッシャーをかけてそう言った。


「無理言うなよ・・・ 今だって渋々やってんだから・・・」


口を動かしながら、それでもちょっと自信ありげに言う

ハルを見て、山崎さんは満足そうに笑っていた。


「ねぇ・・・華さん。俺も教えてもらっていい?」


誠君が話しに入り聞いてきたので、


「うん。いいよ。英語くらいしか教えてあげられないけど・・・

 それでもいい?」


「全然OK!んじゃ、そん時は借りるから?な、ハル」


「じゃあ俺の部屋に持ってこいよ・・・兄貴の部屋にわざわざ

 行かせるのもなんじゃない。それならいいよ」


愛想の無い言い方に「ちいせぇ〜」と誠君が呟いて笑った。



食事の後も、ハルは真面目に勉強をしていた。

夕食の後には英語に時間を絞り、集中してやり始めたが、

苦手ということもあり、すぐに弱音を吐いた。


「俺、日本から出ないからもう英語なんか嫌だぁ・・・」


「もぅ・・・ 好きなものばかりやっても点数上がらないよ?

 ちゃんとやろうって・・・」


「実際、英語使うことある?今の日常で」

「へ理屈言わない!ほら、これ訳して」


ブツブツと文句を言いながら辞書を引き、考えていた。

さっきの数学とは偉い違う遅いペースに、眠気がでてきた。


「今日はもう終わりにする?ちょっと休もうよ〜

 ね!華も飽きただろ?」一問終えただけなのに、大きく伸びをして飽きた顔をした。


「だーめ!」そう言って騒いでいると、ノックの音がして誠君が顔を出した。


「ハルがうるさいから、ノート持ってきた。ちょっといい?」


「うん。いいよー」そう言って誠君のノートを見て問題を解いて教えた。

「は〜 なるほど・・・ そういや習ったな」

誠君はそんなに英語が苦手な感じには見えなかった。

たぶん疲れて飽きてきたから、ちょっとした冷やかしだなと思った。


そのままベットに座り、

「で。ハルは?苦手な英語克服できそう?」とニヤニヤしていた。


「ん〜?なんかダメっぽい・・・」諦めた顔をして本を見ているハルに誠君は、

「でも、せっかく二人で外泊のチャンスだろ?真面目にやったほうが

 いいと思うぞ〜 ね、華さん?」そう言って部屋を出て行った。


なんとなく誠君の言うことが意味深すぎて、その後の言葉がちょっと困った。

山崎さんといい、誠君といい、、、考えすぎだよなぁ・・・



「じゃあさ、やり方変えようか?例題を全部暗記する方法にしよ。

 それが一番簡単だから。流れで憶えていれば問題を見るだけで、単語が簡単に出るからさ」


そう言って本にラインを引いて渡した。


「う〜ん・・・・」いまいち乗り気になれないハルを見て(やれやれ・・・)と思った。

そんなハルが(あ〜 高校生だ・・・・)と実感した。

学生って大変だな・・・今の自分がなんて気楽なんだろうと思った。


「ねぇ。なにか英語で俺に言ってみて。それ訳するってどう?

 ちょっと休憩のつもりで」なんとか教科書から抜け出したいのかそんなことを提案した。


「そうだなぁ・・・ 」ちょっと休憩のつもりで考えノートに書いた。



<Come rain.come shine.I will always be in love with you.>


そう書いて渡した。


「すげぇ・・・よくそんなにサラサラと書けるなぁ・・・」

そう言って辞書を引きながら見比べた。

しばらくしてちょっと訳し方が違ったが、だいたいポイントはあっていた。


「よし。じゃあこれ貼っておこう!これを励みに頑張るよ」

訳した内容に気を良くして、また少しだけヤル気になった。



10時くらいまで勉強をしてその日は終わりにした。


「じゃ、明日はなにかプリント作ってあげるよ」

そう言って教科書を閉じた。



「なんかさー ごめんな。つき合わせちゃって」


「ううん。成績下がったのは私のせいもあるしね。

 来年になったら、大学受験もあるから、

 その時は私も学校で習うこと一緒に勉強するよ。

 ならハルも気を使わないでしょ?」


なんとなく自分もなにかしらしないと、いけない気分になっていた。


「やっぱ華は大人だよな・・・ あんまり怒らないし。

 嫌なことにも付き合ってくれるし・・・」


「そんなことないよ。ハルと一緒にいるのが楽しいから

 こうしてるんじゃない。それに怒ることしてないし」


「なんか・・こんな時にギャップ感じちゃうよなぁ・・・

 俺なんかでいいのかなとか、どんなに頑張っても上に立てないって

 感じがしてさ。あ〜ぁ・・・もう少し早く生まれたかったなぁ・・」


自分が感じていた歳のギャップをハルも感じていたのを知った。

けどハルがもう少し早く生まれていようが、いまいが

きっと私はハルのことを好きになったと思う。

そう考えれば、あまり意味の無い悩みだったように思えてきた。



「ハル、TVでも見ようか?」

そう言って考えているハルを引っ張りTVの前に連れて行った。


ハルがベットに座り、その足の間に体を入れて黙って見ていた。

いつからか、そのかたちが一番安心していた。

これがベットに座っていない時でも、ハルが座った足の間に座り

ハルの右手の親指の爪を触るのが癖になっていた。


そして軽く後ろから手をまわされた時に、その手を

枕のようにして寄りかかるのも好きだった。

そんな私をハルはいつも「犬みたいだな・・・」と笑った。

そんな小さなことに毎日が嬉しかった。


テストまでの間は、バイトの日はハルが一人で勉強をして、

バイトが休みの日は隣について一緒に勉強をした。

そんな二人を見て山崎さんもお母さんもニコニコしていた。


テストがやっと終わり、

「どう?できた」と聞くと「当たり前じゃん」と好感触な返事が返ってきた。


結果は前よりも少し上の学年で3位というすごい成績だった。

そんな結果に二人で喜び、山崎さんに大意張りで

「これで文句ないだろ?行ってもいいよね?」とハルが聞くと


「そうだな。思う存分楽しんでこい」と笑った。


うちの親にはちょっと言い辛い所があったが、見るのが夜中と

いうこともあり、一泊を許してくれた。

けれど部屋は当然、別と嘘をついた。


テストも終わり、泊まるホテルを探し自分達で予約をして

ちゃくちゃくと準備は進んだ。

私の仕事も、有給を取って金曜の夜から行けるように準備をした。


ニタニタする山崎さんにも部屋は別だと嘘をついた。

そうでも言わないと、戻ってきてから何を言われるかと思うと

それが一番いいね・・・・と相談してそう言った。


「え〜 そうなんだ?もったいない」と言う山崎さんの言葉に

ハルと二人きりの時に聞いた。


「ねぇ?普通さ、親ってそんなとこにうるさいもんじゃない?」

「あ〜 でもあの人達からして、早いからね・・・」

「なにが?」意味がわからず、そう聞くと


「ん〜 あの人達、高校の同級生なんだよ。で、初体験が1年の

 時だって自慢してたから。別にいいんじゃないの?

 兄貴のことだってオヤジは平気で聞くし・・・」


なんとなく親のそんな話は聞きたくないな・・・そう思い

自分の親のことを考えた。


「なんか緊張するよね・・・そう思うと・・・」

そう言われて、その日のことをちょっと考えた。


「う・・ん。そうだね。けど、別にその日だって特に気にしなくても

 いいじゃない? こーゆーのは雰囲気だから。

 それに夜通し見てるから、疲れて寝ちゃうかもしれないじゃない」


「あ・・うん。でも、そう考えると丸々二日も一緒なんて

 いままで無かったね。それは楽しみ」


お互い変に気を使ってその話の肝心なポイントをズラして話をした。

(別に泊まるからといって絶対なにかすると決まった訳では無い・・)


そう思いながら、それでいて内心ドキドキしていた。


「でさ・・ ちょっと聞いていい?」ハルが不安そうな顔で言った。


「え・・なに?」

「あ、、やっぱいいや。なんでもない・・」

「あ・・・そう。ならいいけど・・・」ギクシャクした空気が返って緊張した。



お互い「楽しみだね」と言っても、違うことに緊張をしながら

その日を向えた・・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ