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落ち着けない

友人の結婚式の当日。

朝からボ〜としながらも、美容室に行き髪をセットし化粧をされ

大きく背中の開いたシックな洋服に身を包んだ。


(気合入ってるぜ!)思わず自分でそう思うくらいに完璧にキメた。


まだ19歳だと、それほど多くの結婚式を体験することは無かった。

それに今は入籍だけで式をあげる人が多いのもあり、

このチャンスを逃がすものか!と友人達と気合を入れ式場に向った。


だいたい結婚式で友人が式をあげるとしても、

心の底から「おめでとう〜」なんて思う人はきっと少ない。

だれしもが「チッ・・先を越されたぜ・・・」と思い、

高いお金を払うのだから、イイ男の1人や2人いないとやってられない。

そこで彼氏でも捕まえられればチャラでもいいか・・・


人の幸せよりも自分の幸せ!この頃の私達の合言葉でもあった。


まだ肌を露出しても余裕な年齢だからこそ、わざと目立つように

背中が大きく開いた服を着て、友人達と式場に向った。

ただ・・・ハイヒールだけはやっぱり苦手だった。


まだ式場に足を踏み入れたばかりなのに、もうカカトが痛くなり

歩いては座り、歩いては座り・・・・足の悪い老人のような

動きで自分の席についた。


新婦の香奈に、

「絶対、新郎の友人も半分いれた席にしてよ!」と

他の悪友の亜矢と里実と3人がかりで攻撃し、大騒ぎの末ゲットした席なのに・・・・・


これじゃ外の受付で一日終わってもいいや・・・

そんな気持ちになるくらい期待とは裏腹な新郎の友人達だった。


「朝からの苦労・・・どうしてくれる・・」


いつもの目よりも倍に大きく

見えるように完璧に化粧をした里実が手をわなわなさせて

自分の名前が書いた紙をちぎっていた。


「今日ジャージでもよかったね・・・」


そう言いながら鼻から煙を出し亜矢がその意見に賛同した。


「私、、足痛いからトイレでスリッパ盗んでこようかな・・・」力無く言う私に


「そうしなよ。もういいじゃん!」と二人は言った。


派手なドライアイスの中から笑顔で香奈が登場しても、

綺麗なシャンパンタワーを見ても気分は一向に上がる気配を見せず、


「ちきしょう・・・あいつ一番まともな男押さえやがったな・・」


そう3人でブツブツと文句を言いながら席に座っていた。


余興が始まる少し前、上座に行きみんながお酌をする時間帯になった。

すかさず3人で笑顔で香奈の側に行き、


「おめでとー」「すっごい綺麗―」「お前後から殺すからー」と

ビールを注ぎに行った。


その秘めた笑顔を察して、中腰になり顔を近づけ

「ごめんって!だってあそこまで質が悪いなんて思わなかったんだよー」

眉間にシワを寄せて香奈が謝った。


せっかくの結婚式だし、まぁ・・・仕方無いか・・・

そう思い、「いいよ!いいよ!旅行の土産なんて期待しないから」と

少しだけ根に持った言い方をして各自、席に戻ろうとその場を離れた。


里実と亜矢は他の席に行き、

「キャー!久しぶり〜」と古い友人達とはしゃいでいたが、

その頃には私の足の靴ズレが本格的に痛くなり、歩く度に鈍い痛みが走った。


「イテテテテ・・・もうダメかも・・・・」

そう思いながら足を引きずり自分の席まで痛いほうの足を

あまり床につけずに歩いていた。



「バンソウコウいりますか?」



その声に振り向くと、そこにはいつもとは違う髪型をピシッと決めた

ハル君が笑いを堪え立っていた。


一瞬、誰かと思うくらい大人びたその姿に黙って顔を見た。


「靴ズレでしょ?あっちまで行ける?」


そう言いながら出口を指差し笑った。



「い、、行けるけど。全然痛くないし!」そう言って我慢をして

無理に早足で出口に向った。


一歩ごとに心の中で「きゃー!」と叫びながら痛みを我慢して

なんとかロビーのイスに倒れこんだ。

急いでヒールを脱ぎカカトを見ると真っ赤になって内出血をしていた。


「あ〜ぁ・・・そんなにキメた格好してその足って・・・」


その声に顔をあげると、バンソウコウを差し出しながら笑っていた。


「仕方無いじゃない・・・普段履かないんだから・・・」

そうふくれた顔をして受け取ろうと手を出した。


「格好わるぅ〜 せっかくいつもよりお洒落したのに残念だね」


「別にそんなに痛くないもの。ただ赤いだけだし」

明らかに嘘なのに言い返した。


「じゃあ・・いらないね。バンソウコウ」


そう言って取り返す仕草を

するハル君に慌ててカカトにバンソウコウを貼った。


「もう貼っちゃったもんね〜」


「プッ!子供かよ・・・」


初めて間近で見るその笑顔に妙にドキドキしている自分がいた。

バンソウコウを貼った足でヒールを履くと、さっきよりは少し痛みが和らいだ。


ハル「そんな足じゃ二次会とか行けないんじゃない?」


「どーせ行かないもの」


期待ができないあのメンツと、ジワジワと痛いこの足では行っても仕方が無い。



「今日は車?」


そんな私の言葉を聞いてハル君が聞いた。


「ううん。タクシーで来たから・・・・バンソウコウありがとね」

そう言って立ち上がったが、やはりまだ痛みが響いた。


「送ってあげようか?」


その言葉にドキッとした。

そして瞬間的に「送ってもらいたい!」そう思う自分がいた。

高校生相手に慌ててると思われるのは恥ずかしいと感じ、普通な声で


「じゃぁ・・・そうしようかな」とできるだけ(仕方無いから・・)

そう聞こえるような声で答えた。


「おっけー。じゃあ8時半に、ここで。そろそろ戻らないと怒られちゃうから後からね〜」


そう言って小走りに式場の中に消えていった。


その後姿を見ながら、本当はドキドキして仕方無い自分の心臓を押さえた。


(うっそ・・・・ 相手高校生なのに・・・・大丈夫?私?)


自分に問いかけ、ゆっくりと足の痛みを感じながら式場に戻った。


(いや・・・違うな、ただ足が痛いから送ってもらうだけだ。うん)


頭の中でそんなことを考えながら、自分の席に着いた。

目の前の同じ歳くらいの新郎の友人がお酌をしてくれたが

そんなのには目もくれず、ボ〜としていた。


いつの間にか戻ってきた私の姿を見つけ里実が駆け寄ってきた。


「ちょっと!どこ行ってたの?二次会の参加出席とってたよ」


「え?あ・・・あの・・・私はいいかな?遠慮しとく」


「だよね〜 行っても意味無いもんね〜 私もやめようかな〜

 じゃ、どこか行く?せっかくここまでキメたのにもったいないじゃん」

そう言って目を光らせた。


(うっ・・・・そんな話になるなんて)

どう断ろうか必死で言い訳を考えていた。


「なになに。どこか行くの?じゃあ私もそうしよーっと!」


亜矢も話に入り込み段々と断りずらい状態になってきた。


「あの・・あのね。私、ちょっとバイト先の知り合いに会って・・・

 その・・足痛いから送ってもらうことにしたの。

 だから・・・その・・・これ終わったら帰ろうかなって・・・」


足が痛いのは事実だし、このまま行っても痛みで楽しめない。

そのことは本当だった。


けど・・・内心はハル君と一緒に帰りたい気持ちが一番だった。


「えぇー!なにぃー いつの間に。ここの会場にいる人?どれ?だれ?どこにいるの」


二人が険しい目で一気に言うのに負けて、会場の中を見渡した。


「えーと・・・・」少し暗い式場の中を探すと正面にハル君の姿が見えた。

目線が合い、それに気がついたハル君が自分の足を指差した後「OK?」という仕草をした。


その仕草に同じように「OK」というポーズで返した。


その瞬間、里実と亜矢に力いっぱい背中を叩かれた。

「うっ・・・」一瞬息が詰まるほどの力に


「グーで殴らなくていいじゃん!」と振り返って怒った。


「ちょっとー!なにあれ。イイ男じゃん。いないと思ったらナンパしてたの?抜け目無いねぇ・・・・」



「違う!そんなんじゃないってば!だって高校生なんだって。

 うちの仕事先にいつも来ている人の息子なんだって!」


咄嗟に言い訳をした。




「はぁ。高校生?なーんだ・・・・おこちゃまじゃん。

 じゃあどうする?亜矢、二次会行く?」


スッカリこっちの話を無視して二人で話しを進め出した。

その冷め具合に


(やっぱり高校生はナシだよなぁ・・・・)


そんなことを思いながら二人の会話を聞いていた。

60歳くらいになって相手が58歳でも問題は無い。

けど、17歳と19歳で、しかも相手が高校生だとなると、

なんとなく世間の目が痛く感じた。


そして・・・・まだそんな間柄でも無く、ただ送ってもらうだけなのに

そこまで頭の中で考えている自分が寒くなった。


結局、里実と亜矢は二次会に参加することになり、

別れる時に二人に散々

「悪いこと教えちゃダメよ?お姉さまぁ〜」と冷やかされ二人は元気に去って行った。


「はぁぁ〜・・・」ため息をついてさっきのイスに座った。

時計を見るともう9時を少しすぎていた。

人がどんどん帰り、ロビーにはもう数人の人しか残っていなかった。


(もう帰ろうかなぁ・・・・ タクシーで帰ってもいいし)


そんなことを考えながら、その場に座っていた。


「ごめんね。ちょっと遅くなっちゃった」


その声に顔をあげると、そこにはさっきのピシッときめた感じとは違う

わざと髪をグシャグシャにし、Tシャツ姿のハル君がいた。


さっきとのギャップに少しガッカリした顔をしてしまった。


「あ・・・さっきの格好のほうがよかった?その顔は」


「あ・・ううん。そんなことない!ただちょっと変わるな〜って思っただけ」


「じゃ、行こうか。先輩にメット借りたからさ」

そう言ってちょっと汚いメットを見せた。



「あ・・・送るって・・・バイク・・・だよね。そうだよねー」


「だって俺、まだ17歳だもん。車は乗れないよ。はいこれ」

そう言ってメットを手渡した。


そのまま後ろを着いて行くと、

式場の駐車場にはいつものピカピカのバイクが停まっていた。


「その格好じゃ・・ちょっと目立つかなぁ・・・ま、仕方無いね」

また少し笑いながらそう言われた。


確かに今の格好はバイクに乗る格好ではないと思った。

これじゃキャバクラ嬢と学生の如何わしい同伴出勤のような感じがするくらいの差があった。


メットを被ろうとしたが、なんだか上手く被れず、一人で苦戦をしていた。


「もう・・・被ったこと無いのぉ」

そう言いながらやや力を入れてグッと押され目の所をカパッと開け


「よし。これで大丈夫!」


そう言って顔を近づけた。


(わ!!近いって!顔!!)


そう思いながら、慌てて目の所を閉じた。


バイクに跨り、慣れた感じでエンジンをかけ

「じゃ、乗って」と言われ、慌てて横座りをした。



危なく後ろに倒れそうになるのを見て、


「なんかさ・・・もっと落ち着こうよ・・・」


ハル君も目の所を閉じているので、顔は見えなかったが絶対笑っていると感じた。


(もっと落ち着けよぉ・・・・)自分でそう言い聞かせ

とりあえずシャツの裾を掴んだ。


「ちょっと・・・シャツ伸びるんだけど。ちゃんと捕まらないと落ちるよ」

そう言われたが、そのまま体に手を回すことがどうしてもできなかった。


ジーンズの腰の部分をほんの少し強く握った。

それでもドキドキしすぎて、どうしようかと思った。


クルッと振り向き、両手でジーンズを掴む手を握り自分の腰にまわした。

その手の暖かさにもドキドキした。


「じゃ、行くよ」


そう言ってゆっくりとバイクが動き出した。


最初こそ、ゆっくりだったが、道路に出た後は開いた背中が

寒いと感じるくらい、風が冷たかった。

本当にきちんと捕まっていないと吹き飛びそうな衝撃に

自然とまわした手にシッカリと力が入った。


ハル君と触れている部分だけは、その寒さをまったく感じず暖かかった。


信号で止まり「あ・・家知らなかったんだけど。どこ?」

そう聞かれ簡単に説明をした。

走って10分もしないうちに家に着き内心ちょっとガッカリした。


メットを脱ぐ時にちょっとファンデーションがついてしまい、


「あ。ごめんなさい。今、急いで拭いてくるから」そう言うと


「いーよ!いーよ!どうせ借り物だしさ、それより怖くなかった?

 大丈夫?」少し心配した顔で聞かれた。


「ううん。全然!とっても気持ちよかった。バイクの後ろなんて

 初めて乗ったから。もう家に着いちゃって残念。ありがと」


そうお礼を言ってメットを返した。


「あ・・・あの、よかったらもう少し乗る?まだ時間あるから。

 バイトの日は11時までに帰ればいいんだ。あの、、無理にとは言わないけど・・・」


その言葉に慌てて答えた。


「あ・・じゃあ、10分。いや、、5分で着替えるから。

 ちょっと待ってて。あの、、すぐ来るから」


「そんなに急がなくていいよ。待ってるから」



急いで家に入る途中に

「あの、、名前。ちゃんと教えてなかったよね?」

そう振り返ると、


「え?知ってるよ。進藤華さんでしょ?」


「あ・・・うん。ならいいの。じゃ、ちょっと待ってて!」


家に慌てて入り、部屋で服を着替えながら、


(やばい・・・絶対やばい・・・・)そう感じながら焦っていた。

名前を呼ばれただけなのに、ドキドキしている自分がいた。




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