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みんなへの別れ

季節が移り変わり、暖かい日から暑いと感じる日が多くなってきた。

その時間の流れに私の気持ちはどんどんと膨らんでいった。


カレンダーの一日、一日に夜、眠る前にバツ印をつけ

8月7日に大きく赤い丸をつけ、前日に星形の印をつけた。



「ねぇ・・お姉ちゃんこの丸印なに?」


「ハルの一周忌」


「そっか・・・もうすぐ一年になるんだね。ハル君が死んでから・・・」


そう呟きながらフレームの中のドレスの写真を見ていた。


「誠君はこの写真嫌がらないの?」


「ん・・・なにも言わない」


「もう、誠君の写真にしてあげなよ。可哀相だよ・・・」


「いいの。そのほうが誠君にもいいことだから・・・」


また訳のわからないことだと思いながらも、そう蘭に言い黙ってゲームを続けた。


カレンダーは丸印が見える8月になり、

私は終わらないゲームを連日、まるで小学生のようにやり続けた。



あの5月の出来事から、私はできるだけ誠君と遠出を

することを避け、近場かお互いの家か・・・・

そんな風にこれ以上思い出を作ることを減らした。


それでも二人で家にいる時、自然と足の間に座る私を誠君は喜び、

「二人でいると甘えてくれるから、家のほうがいいな」と笑ってくれた。


後ろに感じる温かさとソックリな声に時々、私はハルを感じた。

悪いと思いながらも、自分でもこうしていることが嬉しいと思っていた。


後ろから呼びかけられる「華」と言う声を聞くと、

まるで振り返るとハルが笑ってくれるような錯覚を何度も起こした。



「俺にも手紙とか欲しいな〜 愛の言葉連発の!」


誠君は少し悔しそうな顔をしてハルに宛てて書いた手紙の束を横目で見ていた。


「いいじゃない。いつも側にいるでしょ?」


「まぁ・・・そうだけどさ。まったくハルもいつになったら

 消えるのかな〜 ここから」


頭の上にアゴを乗せガクガクと動かし「痛いー」とふざけあっていた。


「一周忌はでられる?」そう聞かれ、ちょっと間があいた後に

「うん・・・」と答えた。


「俺、ちゃんとその場に華がいて、ハルがもういなくなって

 一年経ったって、その目できちんと確認してほしんだ。

 そうすれば、もっと気持ちが楽になる・・・そう思ってる」


複雑な気持ちのまま、誠君の言葉を聞いていた。

ハルはその日のいつ迎えに来てくれるんだろう・・・・

私はその場に出席しないといけないのだろうか・・・

そんなことを考えながら、黙ってTVを見たフリをした。



翌日、仕事が終わると誠君が家に来て、

「祭り行かない?」と誘われた。


「もうそんな時期なんだね。うん、いいよ」


2年ぶりに夜店を見に行った。


去年ハルは、

「もういいや。あの時は華をなんとか誘いたくて言ったけど、

 別に祭りなんてどうでもよかったんだ〜」と二人で家にいてゲームをしていた。



私も2年前のあのお祭りの日、ただハルといたくて誘いをOKした。

まだ顔を見れば少し照れてしまうくらいの仲だった二人を思い出した。



誠君と並んで夜店を見ながら歩いた。

相変わらず人の波が激しく、それでも私はハルの時のように

誠君の手を掴むことをしなかった。


少し人が少なくなった空間で、誠君が一人の人と立ち止まって

話を始めた。その人に軽く会釈をして違うほうを見ていた。


イチゴ飴の出店に足を運び、2つ買い懐かしい気持ちで

安っぽい袋に入れてくれた飴を受け取った。

誠君の隣に戻ると、その人の連れの人が黙ってこっちを見ていた。

視線が気になりその人の顔を見ると、、佐野さんだった。


「あ。お久しぶりです」そう笑顔で言ったが、彼女は相変わらず

無愛想な顔をした。


隣にいる誠君をじっと見て、またこっちに目線をやった。

今の誠君はあの時のハルよりはまた少し髪が伸びていた。

誠君が友達と話しこむのを見て、


「あっちの裏にベンチがあるの。そこにいていい?」と聞いた。

「あぁ、いいよ。もう少し話していいかな?久しぶりなんだ」

そう答える誠君に「うん。ごゆっくり・・・」と言って

佐野さんに「あっちに行かない?」と誘った。


佐野さんの彼氏も「あ。じゃあそうして」と言い、

二人で裏の、ハルと座ったベンチに座った。


「ハル君のお兄さんと付き合ってるんですか?」

ちょっと怒った顔をして佐野さんが聞いた。


「うーん・・・よくわからないかな。はい、これ食べない?」

袋から飴を出して渡した。


ムスッとしながら飴を受け取り、横で「美味しいよ?」と言う私を

見ながら袋を開けて口に入れた。


「ハルの中学の時ってどんな感じだったの?」

飴を口に入れ、片方の頬をふくらませながら聞いた。


「そんなこと聞いてどうするんですか?」


「ん?どうだったのかな〜って。ちょっと思っただけ」

そう笑いながら口の中で飴をクルクル回した。


「ハル君に似てるから付き合ってるんですか?」


「顔は似てるけど、全然違うじゃない。私はハルが好きなんだもん。

 誰も変わりにはならないもん」


「まだハル君のこと好きなんですね・・・」

そう言い彼女は黙ってこっちを見ていた。


「そうだよ?ず〜っと好き。一生ハルしか好きにならないの。変かな?」


そう笑うと、彼女はやっと少しだけ笑ってくれた。


「スキーの時、ハル君が言ってた意味がちょっとわかりました」


そう言って一昨年の冬に同級生だけで行ったスキーの時の話を教えてくれた。




「私、ずっと好きだったんです。私のことハル君が好きじゃないって

 わかってたけど、どうしても好きだったんです。

 けど、お互いぎこちないままで別れちゃって、、

 久しぶりに逢ったらもう華さんが隣にいて・・・

 それにハル君、全然違う顔してた。

 スキーの時にもう一度私のこと見てくれないかって言ったけれど、

 「アイツは俺がいないと死んじゃうんだよ」って。

 すごく自慢げに言ってました。俺の一番大事な人って・・・

 「俺はどこに行ってもアイツ連れて行くんだ・・」って・・・」


ハルの言葉が嬉しかった。照れ屋なハルがそんなことを他人に

言ってくれていたと思うと、憎らしかった佐野さんと今日ここで

話ができたことも(ま。いっか)と心から思えた。


「そうなの。ハルがいないとダメなんだ。私ね、もうすぐハルの

 所にいけるような気がするの」


そんなことを口走る私を佐野さんはちょっと変な人を見る目で黙っていた。


「別に、自殺とかしないよ?大丈夫。そんな顔しないでよー」


そう言って笑うと、慌てて少しだけ笑った。


「華、ごめんな。もういいよ」後ろから誠君が声をかけてきた。

「あ。うん。じゃ、行こうか」


ピョン!とベンチから立ち上がり佐野さんの顔を見た。


「ハルのこと好きになってくれてありがとう。それじゃ元気でね。

 彼氏と仲良くしてね。さよなら」そう言って手を振った。


「じゃ、さよなら・・・」佐野さんと彼氏は笑顔で手を振っていた。


「アノ子、昔ハルと付き合ってたって知ってた?」

「うん。知ってるよ」



「そっか。なに話してたの?元カノと〜」

「ん?別に」と笑った。


その日、懐かしい夜店にあの日のことを思い出しながら

また隣にハルがいる気分で歩いた。

あの日・・・初めて名前を呼び捨てにしてもらったな・・・

そんな小さな思い出にも顔が少し弛んだ。



そして家に帰り、またカレンダーにバツ印をひとつつけ、

残りの4日間を見て(もうすぐだ・・・)そう思いながら

急いでゲームの続きを始めた。




なかなか終わらないゲームに内心焦りながら翌日の休みを

延々とTVの前で過ごした。

誠君の前では<ハルとハナ>を見せるのは悪いと思い、

誠君が来ると急いでゲームをやめた。

それもあり、せっかく進んだのにセーブできないまま

途中で切断することもあり、進まないゲームを延々とやっていた。


まだやり残したことがあるのに、なぜかこれを終わらせないと

いけない気持ちになっていた。

丸一日かけ、その日の夜中にやっとゲームが終わった。


やっぱり最後はハッピーエンドだった。

一度は消えた主人公ハルはまたハナの前に現われ、

二人で楽しそうに寄り添い画面が暗くなった。


物凄い達成感を味わい、すべてのセーブデーターを消した。

ハルに書いた手紙もベランダに出て一枚ずつ灰皿に入れ燃やした。


去年のスケジュール帳も、後々家の人が見て、悲しい気持ちに

ならないように破って燃やした。

その日、夜中まで自分の痕跡を一生懸命に消すことに没頭した。

けれどハルとの写真だけはそのままにしておいた。


最後のあの湖の写真をデジカメから

プリントアウトして、アルバムに貼り付けた。

そこに写るハルの顔はどれも良い表情をし、翌日のことなど

まったく感じていない顔に見えた。


ただ・・・私が最後に撮った写真だけは

どことなく寂しそうな顔をしているように感じた。

その写真の隣に、二人で一番いい顔で写っている写真を貼った。


写真の整理をして、気持ちがどんどん落ち着いて行った。

部屋に飾った写真も全部剥がし、ひとつのアルバムにまとめた。


部屋の真ん中には一枚だけ、あのドレスのキスの写真だけを

残し、それをいつまでも眺めていた。


一つの箱にハルとの記念の品を全部入れて、部屋の奥にしまった。

体にはハルから貰った指輪と、首には大きかったリングをチェーンに

通したネックレスと、そして誕生日に貰ったピアスをつけ、

ハルが一番好きだった洋服を準備して、すべての用意ができた。


どんな形で迎えにきてくれるのかは想像もつかなかったが、

まるでサプライズパーティーを待つような気分になっていた。

そして、星型の日付の前日の空白をバツで埋めた。


明日の夜・・・・ハルの夢が見られる。

そう思うだけで胸がドキドキしていた。

遠足の前日よりも緊張しながら、なんとか眠りについた。


翌日、里実と亜矢に連絡して少し早い夕飯を食べに行った。


「ここは私が払うから!」


「えっ・・・・どうしたの?」返って亜矢に怪しまれた。


「いいよー もうみんな社会人なんだしさ。やっと華も元気に

 なってくれたんだから、ここは私達がおごるって!」


里実に背中を叩かれた。


「ううん。いいの、すっごく心配かけちゃったしさ。

 じゃあ、今度おごってくれる?いつでもいいからさ」


無理矢理にレシートを奪いお金を払った。


「もう〜 じゃあ次ね。いつにする?」


そんな亜矢の顔を見て静かにゆっくりと抱きついた。


「ちょ、、どうしたの?そんな趣味ないから〜」


笑いながら抱きつく私に大袈裟な言い方をした後、

背中をポンと叩き、「華、辛かったね・・・」と言ってくれた。


涙が出そうだったが頑張って笑顔のまま里実にも抱きついた。


「二人が友達で本当によかった・・・」


「なに?もういなくなる訳でもないのにー 気持ちわるーい」


「そうそう!華らしくも無い〜」


二人の笑顔を胸に焼き付けるように顔を見た。


「華・・・どうしたの?」

「ううん!久しぶりに二人の顔見たら安心した」


「いつでも顔が見たいなら電話しなよ!すぐに飛んでいってあげるから!」

「うん・・・・」


「どうしてそんな淋しそうな顔するのよぉー!華は笑ってないと!」

「うん・・・・」


頑張っていたのに、二人の優しい言葉を聞いて涙が出た。


「華・・・」

「どうしたの?」



「なんでもない!じゃ・・・元気でね」



(ありがとう・・・亜矢・・・里実・・・)


二人の視線を感じていたけれど、もうそれ以上は振り返ることができなかった。

顔を見ないで二人が立っていた方向に手を振り急いで車を出した。




寂しい気持ちが出てきたが、それでもやっぱり私にはハルが必要だった。

家に戻り、窓辺に座り亜矢と里実との楽しかった日のことを思い出していた。

よく高校で脱走をして怒られたよなとか、授業サボって遊んだなとか

ほとんどが悪いことばかりだったが、そんなことを考えながらちょっと笑っていた。



まだ時間は7時を過ぎたばかりだった。

下に降りて行き、珍しくお父さんのお酌をしてあげた。

「なんだよ・・・気持ち悪い・・」と言いながらも結構嬉しそうな顔をして

笑っていた。そんな私を見て、お母さんも蘭も一緒になって


「お小遣い欲しいの?」と馬鹿にして笑った。


「お父さん。あんまりお酒のんじゃダメだよ。体に気をつけてね」

お酌をしながら言う言葉ではないが、そう言ってお父さんの顔を見て、微笑んだ。


「ん?そうだなぁ〜 華も蘭も結婚するまでは死ねないからなぁ」

そう言いながらTVを見ていた。


「お母さんもね。あんまり食べ過ぎると、格好悪いよ?」


「なによ。あんただって今にそうなるんだから!」

そう言いながら目の前の果物を立て続けに食べていた。



そこに誠君から電話が入り、明日の時間を教えてくれた。

「もしよかったら、今からちょっと会えないかな?」

「うん。わかった。じゃ、用意してから行くね」


用意をし部屋を出る時、もうこの部屋に戻ることが無いような気分になった。


(ハルが感じていた不思議な感覚はこんな感じなのかなぁ・・・)


そう思うほど、部屋の中にモヤがかかったように見え自分の部屋を見渡した。

やっぱりさっきとは違う、なんともいえないような気持ちになった。



階段を下りる前に蘭の部屋に顔を出した。


「私、明日のことがあるから、今日ハルの家に泊まろうと

 思うんだ。蘭、後のことはよろしくね」そう言って蘭の顔を見た。



「へ?よろしくってどんな意味」不思議そうな顔をしながら

聞かれたが、どう答えていいか分らず、「うーん。ま、そんなとこ」と

笑いながら蘭の顔を見ていた。


「なに?ジロジロ人の顔見て」怪しんだ顔をする蘭に、

「蘭が妹でよかったな・・・ってさ。そう思っただけ。じゃ、行くね」

不思議そうな顔をする蘭に笑いながら部屋のドアを閉めた。


(お父さんとお母さんのこと・・・・大事にしてね)


ドアの前で蘭に呟いた・・・

玄関を出て中にいる家族にへと頭を深くさげた。


(ごめんね。やっぱりハルの側にいたいの・・)


長年育った家を見つめ歩き出した。


その日は車を出さずに歩いてハルの家まで行った。

歩いてハルの家までの道をゆっくりと見たくなり、

大きなカーブも二人で止まった信号も、小さな思い出を浮べながら歩いた。



途中で誠君から電話がきた。


「華?どうした。まだ来ないの」


「今日は歩いていきたいなって・・・だから歩いて向ってるの。

 あと5分くらいだから心配しないで」

そう言って電話を切り、また一つずつ何かを見てはハルを思い出した。


家のすぐ近くに来ると誠君が向こうから歩いてきた。


「どうしたんだよ?珍しいな」

「うん。たまにいいかなってさ。今日、明日の準備もあるでしょ。

 泊まってもいいかな」


「えっ・・・俺の部屋?」ちょっとだけ目を輝かせた。


「違うってばー 今日はハルの部屋に泊めてもらおうかと思って。

 ダメかな?やっぱり・・・」


「ん〜 まっ、いっか。今日だけだぞ」とちょっと悔しそうな顔をした。


「いろいろありがとうね・・・」


「うん。気にすんなよ。それで華が納得してくれるならいいよ」


その日、初めて泊まることに山崎さんは喜んでいつまでも

リビングで話を続けた。

時間が11時を過ぎた頃、「じゃ、明日は10時からだから」と

各自、部屋に入って行った。


ハルのドアから顔を出し、誠君に「じゃ、おやすみ」と言うと、

「夜中こっそり行っちゃうかもよ?」と悪戯っぽい顔をして笑った。

「今日は起こさないで。ゆっくり眠りたいから・・・」



「こんな目の前で行くなっていうのは酷じゃない?」情けない顔を

する誠君に「じゃ、おやすみ」と言ってドアを閉めた。


電気がついていないハルの部屋で大きく息を吸うと、

一年も経つのに、まだ十分にハルの臭いがした。


「ハル・・・あとからね・・・」


そう言ってハルのベットに体を入れた。

久しぶりのハルのベットは懐かしい臭いでいっぱいだった・・・・






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