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20/24

夢の中で・・・

雪が溶け始める頃、誠君は私のことを「華」と呼ぶようになった。

それでも、私は「誠君」といつまでも君をつけたまま呼び続けた。


誠君の前ではハルがいなくなった日よりは話すようにはなったが

それでも私の中でハルが消えることは無かった。





そんなある日。私は待ち望んだハルの夢を見た・・・・・





真っ白ななにも無い場所でハルは笑っていた。

夢か現実かわからないまま、私はハルに抱きついた。

そこにはしっかりハルの感触があった。

声を出すと消えてしまうのではないかと怖くて声が出せず

ただハルの顔を見ていた。


「元気だった?」ハルの声を聞いて涙が溢れ

「元気な訳無いじゃない!」と胸を叩いた。



「俺のこと忘れられない?」

「忘れる訳無い!絶対そんなことできない!」


涙で声が震えながら言った。


「そっか。ありがと。てっきり忘れちゃったかと思ったよ」


そう言って頭を撫でた。その感触もしっかりあった。


「迎えに来てくれたんだよね?一緒に行けるよね?

 ハルの側がいい!もう離れたくない!」


そう言ってハルの体をしっかり掴んだ。


「でも、俺のとこ来たら、みんな泣いちゃうよ?

 華のこと好きな人がみんな・・・・」


「誰が泣いてもいい。ハルと居れるなら、それだけでいい。

 もう一人にしないで。お願いだから・・・・」


「弱っちゃうなぁ・・・・華に泣かれると」


抱きしめながら言うハルの声を聞きながら泣いていた。


「約束したじゃない!絶対連れていくって!

 嫌って言っても連れていくって!だから連れて行って。

 そうしてくれないなら自分から死ぬ!ハルがいないことのほうが

 何倍も怖いの。毎朝、起きてまたハルがいない一日を

 考えるだけで辛いの。お願いだから・・・・」


「そっか・・・・じゃあ、もう少しだけ兄貴の側にいてあげて。

 ちゃんと兄貴と向き合ってあげてよ。俺、ずっと兄貴が

 華のこと好きだって知ってたんだ。生きていたら絶対ダメって

 言うけど、もう俺こんなんだからさ。少しは兄貴孝行してやりたいし。ダメ?」


そんなことを言うハルを泣きながら黙って見た。


「俺も華に側にいて欲しいよ・・・

 あの日、いけなくてごめんな。いっぱい泣かしちゃったな」


「私もハルの側にいたい・・・・ずっと待ってた。

 毎日ハルのこと考えていた。ハルじゃないとダメなの。

 ハルがいいの。お願いだから・・・・」


「じゃあ夏にしよ。あの約束の日。必ず迎えに行く。

 それまで兄貴のことちゃんと見てあげて。

 少しは兄貴にも良いおもいさせてやりたいじゃん。

 約束の日の前日、もう一回来る。な?ならいいだろ?」




そう言って抱きついていた感覚が消えた・・・・

目を明けると枕が物凄く濡れていて、目が熱かった。

けれど手の感触も触った頭の感触もあった。


夢だけど夢じゃない・・・



そのまま何も手につかず、黙っていつまでも布団の中で

ハルのことを考えていた。





いつハルの元に行くことになってもいいと、私は専門学校に

行くことを辞めた。

そんな話、きっと人に言えば馬鹿げた話と笑われるが、

私はこれは絶対本当のことだと思った。


8月7日。きっと私はハルの側に行ける・・・・

そうハッキリした目標ができて、その日からなんとなく私は変わった。


話をあまりしない毎日だったのに、前と変わらずにみんなと言葉を交わした。

それを見て、みんなは「元気になったんだな」と安心した。


誠君に対してもハルが言ったように、ちゃんと向き合い、

誠君がどこかに行こうと言っても、その言葉に従った。


ハルと付き合っていた時のように、誠君のことを大事にしてあげようと思った。

けど、あくまでそれはハルが言ったから・・・・

その気持ちは変わらなかった。

ハルの夢を見たことは誰にも言わなかった。


きっと信じてもらえないから・・・・



4月になり、ハルの誕生日が過ぎた。


(ハルも19歳なんだな。私が初めて会った時の歳になった・・・

 そして、、、きっと生きていたら大学生になって二人で

 学校に通っていたんだろうな・・・)



桜が咲いた暖かい日にそう思った。



仕事も復帰して前と変わらない毎日を過ごした。

もう馬鹿みたいに窓辺に座ってハルを待つことはしなかった。

約束の日のことだけを考えて・・・毎日それだけを考えた。


そんなある日。

誠君がせっかく桜が満開だから花見に行こうと誘ってきた。

それをOKして休みの日に家で待っていた。

遠くからマフラーの音がして家の前に止まった。


「もう俺のバイクに乗ってくれる?」


そう言われたが、やっぱりそれだけはできなかった。

俯いて何も言わず黙っている私に、


「そっか。じゃあ仕方無いね。華の車で行こうか?」


優しく言い、バイクを降りた。


「ごめんね・・・」そう呟き車に乗った。


「いいよ。そのうち乗ってもいいなって思ったら、その時は乗って。

 いつまでも待つから・・・」


その言葉が体に染みた。

けど、やっぱり乗ることができなかった・・・・

乗ってしまうとハルとの約束が壊れてしまうような気持ちになった。



誠君は前にも増して優しく、大事にしてくれた。

それにたいしてどう答えればいいのか困るほど優しくしてくれた。

桜の木の下を歩き、気持ちのいい風が体を通り抜けた。


そんな時でも私が思うのは

(ハルと見た桜も綺麗だったな・・・)そんなことだった。


「誠君もしもね・・・ 誰か好きな人ができたら、

 私のことなんか考えないで、すぐにその人捕まえてね?

 誠君には幸せになってほしいから・・・」



私の顔を見て、ちょっと寂しそうな顔をしながら、

「華とは幸せになれないのかな?」と聞いた。


「私は・・・ハルじゃないと幸せにはなれないの。

 他の誰かじゃダメなんだ・・・ごめんね」


「もうハルはいないんだ、、、いつまでそんなこと言ってるんだよ。

 ハルだっていつまでも、華が自分のことしか考えていないって知ったら

 きっと辛いんじゃないかな。きっと幸せになって欲しいって思ってるよ」



「そんなこと無い・・・」



「そんなことあるよ!いつまで夢みたいなこと言ってんだよ!」



「夢なんかじゃない!私が死んだら、、、

 ハルに忘れて欲しくない!ずっと好きでいて欲しいもの!

 他の人なんか好きになって欲しくない!そんなの絶対嫌っ! 

 ハルには、、、ハルには、、、私だけなんだもの・・」


泣きながら言う私に誠君は慌ててハンカチを手渡した。



「ハルには、、、私だけなの・・・。私にもハルだけなの・・・」


「ごめん、、、言い過ぎた・・・」



しばらく近くのベンチに座り、やっと泣きやんだ私に誠君は苦笑いをした。


「参ったな・・もぅ〜」


「ごめんね・・・」


「いや。華らしいよ・・・」


諦めた顔をして立ち上がり、

「さ、行こ!」と手を差し出した。




「もうすぐ華の誕生日だね。去年はどうしたの?」

そう聞かれて、去年のことを思い出した。


ハルがバイクで足の事故を起こしてすぐだったので、

バイクに乗らせることが怖くて、車でドライブをした。

ちょっと高いイタリアンレストランに行き、ハルが

「俺が出すよ!」「いいよ!私が出すから!」と

小声で喧嘩したことを思い出し、ちょっと笑った。


「なに?楽しい思い出?」そう聞かれて、

「どうかな?」と笑い返した。


帰りに山崎さんの家に行き、今日行ってきた花見のことを

誠君が嬉しそうに話した。山崎さんもお母さんも嬉しそうに

その話を聞き、食卓は前のように少しだけ賑やかになった。

ふと誠君が奥の部屋を見て、足早に仏壇の写真を伏せた。


「どうしたの?」

「あの写真を仏壇に飾るのやめてくれないか・・・・」


その言葉にお母さんが小さい声で「ごめんね」と言った。

なんのことかわからず仏壇の側に行き、今伏せた写真を見ると

そこにはキスをしたドレスの写真があった。


心の中で

(夏になれば、これで十分なのにな・・・)


そう思いながら、その時は誠君がしたように写真を伏せた。

そして仏壇の違うハルの写真にニコッと笑い掛けた。

(あと4ヶ月・・・)そう思いながら嬉しい気持ちになった。




私は残りの日を考え、やり残したことを一つずつ消化していった。

ゲームが途中なのを思い出し、誠君に会わない日は

そのゲームを終わらせることに夢中になった。


まるで子供のようにゲームをする姿を見て、蘭は安心したような

ちょっと馬鹿にしたような顔をして、部屋に来た時に

私の後ろでそれを見ていた。


「蘭。欲しい服あったら、アンタにあげるね。どれでもいいよ」

そう言いながらTVの画面を見つめた。


「え?何言ってんの。珍しい〜」そう言って裏があるかと思い

あれこれと「何か頼みたいの?」と詮索した。


「何もないよ。ただハルのことがあった時、蘭にも迷惑かけたなって、

 そう思ってさ・・・・」そう言ってゲームを続けていた。


「お姉ちゃん・・・誠君と付き合ってるんだよね?」


「う〜ん・・・・付き合ってるっていうか・・・ 

 なんて言うか・・・ でもやっぱりハルとは違うかなぁ・・・

 私が好きなのはハルだから・・・」

そう言って全滅しそうな自分のパーティーを回復した。


「好きじゃないの?誠君のこと」

「嫌いじゃないけど・・・あまり好きになっちゃダメなの。

 誠君が辛くなるから・・・」


きっと蘭には理解できないだろうな・・・と思いながらも

それしか言うことが出来なかった。



蘭が部屋に戻った後、私は少しずつ着ないであろう、

秋物と冬物の蘭が好きそうな服を衣装ケースに入れ

後から取り出しやすいように整理をした。





4月が終わり、、、5月になり、、、少し陽射しが強くなったと

感じたその日、私は21歳になった。

中身はまったく変わらないのに、歳だけは黙っていてもとるもの

なんだなぁ・・・そう思いながら鏡を覗き化粧をしていた。


その日、誠君が連れて行きたい所があると言うので、

誠君の車で出かけることにした。



「どこ行くの?」

「いや、どこって決めてないんだ。華とはまだそれほど沢山の所に

 行ったこと無いし。どこでもいい。華の誕生日に一緒にいたかったんだ」

そう言って嬉しそうに笑った。



「そうだね。誠君とはあまり出かけたこと無かったものね・・・」

その顔を見てちょっと笑いながら答えた。


「これからずっと一緒にいるから、もうどこも行くとこ無い!

 って文句言うほど沢山いろんな所行こう。時間は沢山あるから」



(後3ヶ月しかないのにな・・・・ それまでどれくらいの所に

 行けるかな・・・)誠君の横顔を見ながら思った。


映画に行き、海に行き、買い物をし、偶然あのハルと最後に来た

湖に誠君は車を停めた。


やっぱり兄弟だなぁ・・・遊びに行くセンスが似てるのかな・・・

そんなことを思いながら、湖の近くに行き、小さい魚が泳ぐのを

黙って見ていた。


「今日はいっぱいいろんな所に行けたな〜 楽しかった?」

小さい岩に立ちながら、体を伸ばして聞いた。


「うん。ありがと。楽しかった」


魚に小石を投げ、パッと散るのがおもしろくて何度も小石を投げながら

誠君にそう答えた。

去年も私はそうやって小石を投げ、ハルに

「可哀相だからやめろよ〜」と言われ怒られて止めた。


「あ。誠君、これできる?」


側にあった手ごろな石を持ち湖に向かって投げた。


1・2・3と石が跳ね4回目で沈んだ。


「ね?凄いでしょ?私、センスあると思わない」ニッコリして誠君を見た。

「俺のほうが上手いよ」そう言って誠君もやってみたが、

どうしても3回目で石は沈んでしまい、「下手くそ〜」と笑った。


「おかしいなぁ・・・」小声で文句を言いながら何度も誠君は

挑戦したが、やっぱりそれ以上、石が跳ねることは無かった。


「無理!無理!ハルも3回だったもん。やっぱり兄弟だね〜」


隣で余裕な顔をしてまた石を投げた。

水面を跳ねるように飛び5回目で石は沈み「うわ!記録更新!」と言って喜んだ。


「ハルともこうして遊んだの?」石を投げながら誠君が聞いた。


「うん。去年、最後に逢った時、ここに来たの・・・・

 それが最後だった。ここでこうして遊んだのが・・・・」


拾った石で手に泥がついていたのを払いながら答えた。


誠君が黙ってこっちを見て、「ここに?」と驚いた顔をした。


「そう。ここに。今、誠君が立っている場所にハルがいた・・・

 私もここにいた。そして同じように笑っていた・・・・」


黙って湖を見ながら去年の最後の日のことを思い浮かべながらそう呟いた。


誠君はそれからなにも言わずに黙って同じ方向を見ながら

いつまでも湖を見ていた。


「ハル、どんな気持ちでここにいたんだろうな・・・

 自分が次の日消えちゃうことなんか考えていなかったろうな」

その場にしゃがみこんで誠君は言った。



その姿を見ながら、その日のハルのことを考えていた。

そして帰ったらその日に撮った写真を見てみよう・・・

ハルのデジカメにきっとその写真が残っている・・・

すっかりそんなこと忘れていた・・・


「俺も今日が最後だったらどうしよう?」


黙ったままの私がちょっと暗い顔になったのを見て、

笑いながらそんな冗談を言った。


「それは無いんじゃない?だって誠君、朝からすっごくしたいって

 思ってる?」



「は?なにそれ」


いきなりそんなことを言う私に

不思議そうな、ちょっと可笑しいような顔で聞いた。



「ハルね、帰りにどうしてもホテルに行きたいって言ったの。

 いままでそんなこと言ったこと無いのに。朝からしたくて仕方無いって。

 その日は何度してもした気がしないって。きっとなにか感じてたのかなぁ・・」


「それでホテル行ったの?その、、何度もしたの?」


「うん。そうした。ハルがそうしたいって言うならと思って・・・」


そんなこと誠君に言わなくてよかったな・・・


ちょっと反省してその場を歩き出した。

後ろを着いて来てポツリと誠君が言った。


「俺だって、ずっと華とそうしたいって思ってる。

 けど、華が嫌ならそんなことしないほうが良いって思って

 今まで我慢してるんだよ。そんなこと聞きたくないよ・・・・

 たとえ相手が弟でも・・・」


後ろから聞こえる声が怒っているのか、普通の顔をしているのか

わからなかったが、やっぱりちょっとだけ悪かったと思った。



「帰り行ってみる?ホテルに・・・」

「え・・・マジで?」


誠君が目を大きくした。

その顔はハルにそっくりだった。


「うん・・・私、誠君のこと好きよ?誠君ならいい・・・

 そう思ってくれるならいいよ・・・」


そう言ってその驚いた顔に笑い掛けた。


きっとハルは許してくれる。もうすぐずっと一緒にいられるから。

誠君のこと好きとは言ったけれど、ハルのことを好きだと思う気持ちの

ほうが何倍も大きいことをハルはわかってくれる・・・・

恩返しのつもりで誠君に抱かれるくらい、ハルは気にしないと思った。




部屋に入り上着を脱ぐと、すぐに誠君は後ろに立ち服を優しく脱がせた。

さすが女慣れしている行動だと思った。


下着だけの姿になり、ゆっくりと体を触る誠君の手の動きが

やっぱりハルとは全然違った。


「ハルのことだからオロオロして何も

 してないって思ってたけど・・・しっかりしてんな。アイツ・・・」


薄暗い部屋の中で見る誠君はハルに見えた。

自然と頭の中で今、私に触れているのは誠君では無くハルだと思って抱かれていた。





(ハル・・・・)



優しく頬に手をあて、微笑む顔もハルに見えた。

ハルがいなくなってから初めて抱かれる感触に、忘れていた時間が戻った。


最後に触れたハルの顔は氷のように冷たかった・・・

ソッと誠君の顔に触れ暖かさが指に染み込んだ。


「華・・・・」


ゾクッとするくらいハルと同じ声に思わず涙が溢れてきた。



(逢いたかった・・・・)



首に手を回しギュッと抱きついた。




「華・・・本当にいいの。ハルのこと忘れられる?」


その言葉に頭の中が現実に変わった。


「ハルのことは忘れない・・・・忘れたくない・・・」



「俺、ハルだと思ってされるのはやっぱり嫌なんだ・・・・

 今、そう思ってただろ?」


「そんなこと、、、、」


「顔見たら分かるよ・・・

 俺の前でそんな顔しないもの。ハルを見ている時の顔してた・・・

 もしも耳元で「ハル・・・」って切なそうな声なんか聞かされたら

 まじで泣けてくる・・・」


真面目な顔でそう言う誠君に、やっぱりこんな所に来てもいいと

言った自分が馬鹿だと思った。

義理でそんなことしても誠君は喜んだりしない・・・



「ごめんなさい・・・・」


「いいんだ。触れられないって思ってた華をこんなに触れられた

 ことで、俺、満足してるから」


少し火照った体が急に冷えた・・・

お互いそのままベットに横になり体をくっつけたまま

互いの暖かさだけを感じていた。


「ハルって上手だった?」

笑いながらそう聞く誠君に少し顔を上にして横顔を見た。


「アイツ初めてだったんでしょ?大丈夫だった?」


「ちょっと失敗したけどね?」

二人でクスクスと笑い、ハルの失敗を笑った。


「俺さ、こんなに手を出さないことなんて無いんだぞ。

 いつもは1ヶ月以内には落としてたのに・・・

 なんだか華は調子狂っちゃうんだよなぁ・・・」


「でしょうね。だってすごく慣れてるもの」


「そのうち・・・俺だけの事考えて抱かれてくれるかな・・・」


そう言った誠君の言葉に「うん」と言うことができなかった。

本当はもう誠君と二人で会わないほうが良いと思った。

これ以上思い出を作ると消えてしまう自分はいいが、

その後の誠君のことを考えると、これまで自分が辛かった想いと

同じだけ悲しみを味わうかもしれない誠君が心配になった。


「そうなれたら・・・いいかな」

「ん。きっとそうさせる。これじゃ生殺しだよ・・・」


肩に寄せていた私の頭に自分の頭を勢いよくぶつけた。

「いたっ・・・」頭を押さえて笑ったが、自分が今日した

酷いことに心が病んで仕方無かった。



家に戻り、久しぶりに窓辺に座り、あの夢のことを考えた。


(きっとハルは来てくれる・・・けど、もしあれが

 自分がハルに逢いたくて仕方が無くて見た幻覚なら・・・

 約束の日にハルが来てくれなかったら・・・・

 その時は誠君に気持ちが少しずつ動いていくのだろうか・・)


そんなことを考えながら黙って少ししか見えない星空を見ていた。


去年の手帳を出して、小さくなにがあったかを書いた

スケジュール帳を見た。

そこには「ハルと食事・誕生日」とハートマークがついていた。


ハルに抱かれた日を、まだ去年はハートマークをつけていた

子供のような自分の筆跡を見て

(馬鹿だったなぁ・・・)と少し恥ずかしくなった。



ページをどんどんめくると延々とハートマークがつき、

それは6月くらいまで続いていた。

たぶん途中で馬鹿らしくてやめたのだろうが、

小さな出来事があった日記は8月7日以降は白紙になっていた。




ハル・・・あれは夢じゃないよね・・・

きっと迎えにきてくれるよね・・・



そう呟いた時に

空にひとつだけ流れ星が見えた・・・・

それを見て「うん。そうだよ」とハルが言ってくれたような気がした。


もう誠君に変なことは言わないでおこう。

そう心に決め、またキッチリと気持ちに線を引いた。

自分の本当に好きな人はハルだけだと心に誓った・・・・



その日の夜、私は何枚ものハルへの手紙を書いた。

いままでそんなことしたこと無いのに、何枚も何枚も、

ハルがこんなことをした時、どう思ったとか、

私がこうしたのに、ハルはこうしてくれなかった・・・とか

たぶん普通の人が見たら頭がおかしくなったと思うくらい

私は普通にハルが存在して、今書いた手紙を明日にでも

見てくれるような気持ちで書いてみたり、

ハルが死んでからどうしようと思ったとか、一枚一枚がバラバラな

内容ばかりになっていた。


不安な気持ちがそこにはあった。


<最後に私のこと少しでも考えてくれた?>


そう書いて、その瞬間のハルを思い浮かべた。

きっと怖かっただろうな・・・痛かったのかな・・・・

そう思うだけで涙が溢れ、やり場の無い悲しみが広がった。


もしも神様がいるのなら、、どうしてそこまでハルのことを

嫌うんだろうと憎らしくて仕方無かった。

あんなに良い子だったのに、、私に素敵な思い出ばかりくれたのに、

もっと先に連れていっても良いような悪い人はこの世に沢山いるに・・・・


そう考えれば考えるほど、この理不尽なハルの死をいつまでも悔やんだ。


また明日、目が腫れちゃうな・・・・そう思いながら

写真たての笑顔のハルを見て「またハルのせいだ・・」と呟いた。


そして、今ハルは何をしているんだろう・・・形は見えなくても

いつも側にいてくれたりはしないのだろうかと部屋の中をグルリと見渡した。

けど、なにも感じなかった。


(結構、冷たいのかもな・・・・)


そう思いながらベットに入った。


その日、ハルに宛てた手紙は20枚以上だった。

もしも幽霊でもハルがいたのなら、

「こんなに好きって思われて嬉しいでしょ?」ときっと

朝までその手紙を全部見るまで帰さないのに・・・


そう思いながら目を閉じた。

21歳の誕生日の日。私はなにもいらないから

毎日ハルの夢を見させてください・・・と嫌いな神様にお願いして眠りについた。



けど、嫌っているせいかやっぱりハルは夢に出てきてくれなかった。





8月6日の夜までは・・・・・










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