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19/24

最後の贈り物

季節は冬になり、もう雪が降り積もり窓から見る景色は

真っ白になっていた。


もう窓辺で待っていてもバイクの音は聞こえない・・・

そう思いながらカレンダーを見た。


12月23日。


ハルが死んだ8月7日から4ヶ月以上経っていた。



ハルが迎えにきてくれることだけを毎日考えていた。

それがどんな風かは分からないけれど、必ずきて来てくれる・・・


約束したもの・・・・





あれから誠君に山崎さんの家に数回連れて行かれた。

けれど、あくまでハルの家に来た。そう思いながら行っていた。


やはり私にとってあの家は誠君の家では無く、ハルの家だった。

行く度に、時間があれば私はハルの部屋に入った。

ハルの部屋はあの日のままになっていて、

逆にそれが(いつか帰ってくるのかも)と変に期待をすることもあった。



誠君はあんな風に言ったが、付き合うという感じでは無かった。

数回、なにかの時に顔を近づけキスをしようとする誠君に

顔を背け、その行為を拒んだ。

その仕草を見て誠君は無理にそうすることをしなかった。


(やっぱりハルじゃないと嫌だ・・・・)


その思いが強く、たかがキスと思ってもどうしても嫌だった。



「まだ忘れることできない?」そう何度も聞かれても

「忘れるつもりは無い」とだけ言った。


忘れてしまうとハルが来てくれない・・・そう思った。




24日の夕方、一人で水族館に行った。

去年と同じく少しだけ雪がチラつきあの日のように気温が低く感じた。


車を降り「ハァ〜」と息を吐くと大きな煙のように白く広がり消えた。


周りは去年のようにカップルばかりだったが、全然気にならなかった。

ハルが好きな絵画の前で黙ってそれを見ていた。


後ろに何組ものカップルが通りすぎてもただ黙ってそれを見て

去年ののハルの言葉を思い出していた。



そこにはハルの思い出がいっぱいあった。

なんとなくハルと一緒に来ているような気分になり

一人ということをあまり感じないで、どんどん中を進んで行った。


外でビンゴ大会のイベントが始まり、館中にはまったく人がいなくなった。


ガランとした通路の両面に魚達の水槽が延々と続き

独り占めして歩くには勿体ないほど贅沢に感じた。


きっと今、ハルがいたら(キスするチャンスだ!)と言って

喜んで体を引き寄せるだろうな・・・





ここに来てもどうにもならないのに・・・・・




けど、(来年も、再来年も、ずっとここにこよう?)そう言ったハルの

言葉に黙って家にいることができなかった。



昼間に誠君から誘いの電話が来たのに、私は理由をつけてせっかくの

誘いを断った。

イヴの夜は絶対ここに来ようと決めていたから・・・・


海底トンネルの前に来て入り口で黙って、その長いトンネルを見ていた。

去年は怖くて通れなかったそのトンネルをゆっくりと

歩きながら見た。上を通る鮫も横にいきなり来るエイにも

怖いと感じることが無く、止まりながらそこを歩いた。


ハルとキスをした場所に止まり黙ってそこから水槽の中を見ていた。

頬に数滴涙がつたい目が熱くなった。


きっと人が見たら変な女だと思うだろうな・・

クリスマスに一人で水族館に来て、一人で魚見て泣いて・・・

そう思っても自然に涙が流れて仕方無かった。


滲んだ目で見たガラスに私の後ろに立つハルが見えた。


瞬間的に胸が踊り、慌てて振り返ると・・そこには誠君が立っていた。



「やっぱりここだと思ったんだ」そう言ってニッコリと笑った。

「ん・・・・」そう言ってまた前を向いた。


一瞬、やっと迎えに来てくれたんだと思ったのに・・・・


「去年ここであんなに激しいキスシーン見て、、、あの後

 へこんだんだよな〜 せっかくのクリスマスなのにさ」


誠君は隣に立ち水槽の中を見た。


「誠くんさ・・・私のこと好きだったの?」


「言ったじゃない〜 前からずっとそんなこと」


照れもせず言う所がハルじゃなく誠君だなぁ・・・と思った。



「ハルの奴もしつこいよな。いい加減に頭の中から消えて 

 くれてもいいのになぁ」


ガラスをコンコンと叩きながら寄ってこない魚に文句を言っていた。


「消えないよ。どれだけ待っても私の中からハルは消えない。

 だから早く違う人見つけたほうがいいよ?時間の無駄になっちゃうよ」


「俺もしつこいからさ。俺の中からも華さん消えないもん。

 たぶん俺のほうが勝つと思うな」


自信ありげに言う誠君に思わずクスッと笑った。


「やっと普通に笑ってくれたような気がするよ。

 ね?前は笑えなかったでしょ?少しずつでいいから

 そうやって笑ってよ。きっと前みたいにいつもニコニコ

 できるようになれるから」


そんな誠君の優しさが痛かった。

そんなに思ってくれても、自分は誠君を好きという気持ちで

見られないと思うと申し訳無くなった。


「なんだか申し訳ないな。なにもお返しできないや・・」



「じゃぁ・・・ここでキスしてくれる?それでチャラにしてあげる」


「無理言わないで。私にとって誠君はハルのお兄さんなんだから、

 お兄さんとそんなことできないよ」


そのまま水槽をいつまでも見ていた。


「じゃあ・・・今だけ俺をハルだと思って、去年と同じようにキスしてよ。

 薄目で見て。そっくりだから」


そう言って自分のほうを向かせた。


「ね?いまここに居るのは山崎春彦!問題無いだろ?」


せっかくのクリスマスなのに、それも断ったのに、、、

そして自分をハルだと思っていいと言う誠君に涙が出た。


「どうしてそんなに、、優しくするの?」

「見てられないんだよ・・・あの日以来・・華さんが・・・・」


そのままゆっくりと誠君に顔を近づけキスをした。

ハルとは思わず、申し訳無い気持ちを少しでも返せたらと思い、

誠君と知ってキスをした。


ハルより上手なそのキスは自然な感じに大人のキスだと感じた。

その間、何組ものカップルが横を通りすぎても、黙っていた。

どれくらいの時間、そうしていたのかわからないほど長いキスを

して誠君がゆっくり離れた。



「やっぱりハルだって・・・・そう思ってしてた?」

「ううん。今のは誠君だって思ってた」そう言って歩き出した。


少し後ろを誠君が歩きながら、螺旋状にあがる階段を昇り

出口に向って歩いた。


「華さん・・・・ 俺、どうすればいいんだろな・・・」


その言葉に足を止め誠君を見た。

困った顔をしながら、どう答えていいかわからなかった。



その横を親子連れが歩いて行った。

両親に手を引かれた3歳くらいの子とまだ生まれて数ヶ月の

小さい赤ちゃんをお父さんが抱いていた。

それをボンヤリ見ながら(幸せそうだなぁ・・・)と見ていた。


ふと頭の中にあることを思い出した。


「誠君!ハルがいなくなって・・・4ヶ月くらいだよね?」


「う・・・うん。たぶんそのくらい・・・」


「私、太った?」

「はぁ?なに言い出すの?全然変わらないよ。むしろ痩せたじゃん」


黙ってお腹を触りながら「嘘だぁ・・・」と呟いた。

「なにが?」不思議そうな顔で私の顔を見ていた。


「もしかしたら・・・赤ちゃんできたかも!」

嬉しそうな顔で言う私に誠君は逆に険しい顔をした。


「嘘だろ?その、、、妊娠するようなこと、、したの」


「えっ・・・うん。だって、無いもの。ハルが居なくなってから

 一度も来てないもの。きっとそうだよ。わー!どうしよう!」

喜んで誠君に抱きついた。


「ちょ、、、明日病院いこ?はっきりした訳じゃないじゃん」

「うん。行ってみる!」


不安よりお腹の中にハルの子供がいるかも知れないことのほうが

大きく私は嬉しくて笑顔になっていた。


あの最後に会った日以来、生理がきていなかった。

いままで全然そんなことも考えていなかったし、それ所じゃ無かった。


嬉しがる私を尻目に誠君は心配した顔をした。


「もし、できてたら産む気?だって・・・大変じゃない」


「産まない訳無いじゃな〜い!」


「華さん。ちょっと落ち着いてよ・・・」


不安そうな誠君とは逆に大喜びで寒いはずの雪の中を笑顔で歩いた。


「華さん。俺、できてても産まないほうがいいと思うな・・・」


暗い顔をして誠君が言った。


「どうして?」


「良い訳無いだろ?父親もいないし、それに華さんだって大変だよ。

 まだ20歳なんだよ?これから楽しいこと

 沢山あるじゃない。死んだ奴の子供なんて・・・」


「大変でもいい。ハルが最後に残してくれたものなら・・・」


真面目な顔で誠君を見た。


「とりあえず・・・・明日病院にいこ?俺、一緒に行くから」


そう言って誠君からの「よかったね」という言葉は一言も

聞けないまま、イブの夜は過ぎた・・・




翌日、私は祈る思いで病院に行った。

自分でも4ヶ月も生理が止まるなんてことは一度も無かったから

絶対妊娠していると信じていた。


あの最後にハルと交わした言葉も

「これで子供できちゃたりして・・・」そうハルは最後に言った。

絶対最後のメッセージなんだと信じて疑わなかった。


(だから迎えに来ないんだ。きっとそうだ!)


そう勝手に考え、いままで独りで泣いたことを自分で慰めた。


隣で運転する誠君は一度も笑わず、終始怖い顔をして病院まで行った。

けれど誠君のそんな怖い顔も全然気にならず、浮かれていた。


病院のロビーで誠君は緊張した顔で座っていた。


「こんな所に二人でいたら、絶対誠君とだと勘違いしちゃうね?」


そう言うと、なんとも言えない顔をしてこっちを見た。


「俺の子供だっていうなら・・・そりゃ笑顔のひとつも出るけどね」

そう言ってまた怖い顔のまま前を見た。


名前を呼ばれ、簡単な内診をしそのまま診察室に通された。

先生がなにやらカルテを見ながら、

「ふ〜ん・・・」と考え、いつ「おめでたです」と言うか

ドキドキして口が開くのを待った。


「最近、生活に大きな変化はありましたか?」

そう眼鏡をかけた50代くらいの先生は言った。


「え?それは・・・どんな意味で?あの、、妊娠してますよね?

 もう5ヶ月とかそのくらいなんですよね?」少し早口で急きたてた。


「妊娠はしてませんね。なにか精神的ショックとか食事をとらないとか

 そんなことありませんでしたか?

 きっとホルモンのバランスが崩れたんでしょうね・・・

 排卵がちゃんとなっていないですね。お薬出しておきますから・・・」



その言葉に体がどこまでも落ち込む感じがした。

最後の望みも絶たれた気分になり、吐き気すらした。

そのまま頭を下げたのか言葉を発したのかもわからず

診察室を出て、ロビーに戻った。


慌てて側に来た誠君の顔すら見ず、黙って椅子に座り、

放心状態のようにボーとして黙っていた。

その顔を見て、誠君は逆にちょっと安心した顔をした。


「できてなかったんでしょ?」

「ん・・・」と小さく頷いて涙がポロポロとこぼれた。


「そっか・・・」それだけ言い、隣で頭を撫で肩を抱いた。

どんどん零れる涙に周りの目をちょっと気にしながら

誠君がハンカチを貸してくれた。

拭いても拭いても溢れる涙にどうしようもなかった・・・・



夜景の場所に行き、車の中から黙ってまだ明るい町並みを見ていた。


大きなフンワリした雪がどんどん落ちてきて、

それほど気温は下がっていなかった。


車から降り、落書きを触りながら

「ハル・・・迎えにも来てくれないし・・最後に子供すらくれないんだね・・」

そう言いながら黙っていつまでもちょっと黒くなった落書きを触った。



スッと後ろに誠君が来て、肩を押されて座らされた。

そしてハルがいつもしていたように自分も後ろに座り

足の間に私を入れ、黙っていた。



「いつもこうして座っていたんでしょ?」



そう言って軽く後ろから抱きしめた。


その手に顔をつけ黙って落ちる雪を見ていた。

手を出して手のひらに雪をのせ、すぐ消える雪を見ていた。


「ハルと、、、そんな関係だったんだ?てっきりキスだけだと

 思ってた・・・」


後ろからポツリと言う誠君の声になにも答えず黙っていた。


「デキてなくて・・・俺は正直嬉しいよ。そりゃハルの子だって

 言うのは嬉しいけど、華さんが産むっていうのは嫌だな。

 けど、昨日、もしデキていたら俺が父親になろうかなって

 そう思ってたんだ。だからちょっとさっき父親の気分だった」


そのまま少し誠君に寄りかかり大きく息を吐いた・・・・

ゆっくり髪を触り、少し後ろを向いた私と誠君は

ふんわりとした雪がどんどん降り積もる中、キスをした。


お互いの頭がどんどん白くなるのも気にせず

長いキスを・・・・



心の中でそこまで思ってくれた誠君に「ありがとう」と

呟きながら・・・・


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