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あの日から何日経ったのだろう・・・・



いつになっても現われないハルを延々と待ち、時間だけが

何事も無かったように過ぎていった・・・・


こうして窓辺に座り続けて、ハルは本当に来てくれるのかな・・・

段々と同じ風景ばかりを見続けている自分の中で

そんなことを思うようになっていた。


けどそれ以上は考えることをしなかった。

それ以上は・・・ハルの死を認めることになるから。





(嫌なことがあるとここに来るんだ・・・)





そんなハルの言葉が急に頭の中に浮びあの夜景の場所を思い出した。

急いで車のキーを持ち玄関に向った。




(きっとハルはそこにいる・・・ )



そんな私をなにか変なことをするかと思ったのか、お母さんが引きとめた。


「華!どこ行くの!」


久しぶりにまともに見たお母さんの目は真っ赤だった。



「ちょっと・・・出てくる・・だけ・・」



「いいから!まだ家にいなさい!」


「なんでもないから。すぐ帰ってくるから」


腕を痛いくらい捕まれ、お母さんは私の腕を離さなかった。

心配してくれているのは分かっていたが、

ハルに会うことを止められているかのような行動に

私はヒステリーになりながら振りほどこうと必死になった。


そこに誠君が来て、玄関にいる私を見て驚いた顔をした。


「誠君!この子どこか行くって・・・まだこんな感じなのに・・・」


腕を掴む力を緩めず、でも声は涙声になりながら誠君に助けを求めるように

お母さんは言った。


「だから、すぐ帰ってくるから!離して!ハルが・・ハルが待ってるから!」



それを見て誠君が

「俺が一緒に行きますから。大丈夫です」

そう言って母の手を解き、私の手を引いて外に出た。


「どこ行こうとしてたの?」


「夜景のとこ・・・」そう答えて顔を見た。


「俺、運転するから・・・」


そう言ってキーを受け取り運転をした。

黙って外を見て、なにも話さないまま夜景の場所についた。


ハルを探すようにあちこちを見たが、誰もいなかった。

そんな姿を見て誠君は黙って後ろをついてきた。


落書きの木を見て、白かった痕が少し黒ずんでいるのを、

近くにあった石でもう一度強くなぞった。



「はる・はな」



そう書いた字をゆっくりと手で触った・・・・

急に体の力が抜けてその場にしゃがみこんだ。


「ハル・・・・・」膝が折れたようにガクンと下についた・・


これを書いた時は、すぐ隣で笑っていたのに・・・

「下手な字〜」といって馬鹿にしていたのに・・・



けれど涙はどうしても出てこなかった。


そんな私のことを少し離れた後ろから誠君は黙って見ていた。


「華さんのとこ行こうとしてたんだよ・・・

 相手、居眠り運転だったんだ。ハル・・・避けきれなかったんだろうな。

 朝、「今日は華とひまわり見てくる!」って元気に出たんだ」


誠君は静かに消えるような声で言った。


いつまでも、、いつまでも、、その落書きを触っていた。

ただハルはどこかに行ってるだけなんだ。

もうすぐ帰ってくるんだ。


「華さん・・・。ハルは死んだんだよ?」


子供に言うように優しい口調で私に話しかける誠君の声を

聞きながら落書きを見つめていた。


「ハル・・・死んでも連れて行ってくれるって約束したの。

 ハルがいないなら生きていても仕方無いから・・・」


何度も声を詰まらせながら、誰に言う訳でもないのに呟いた。


「そんなことハルが思うわけ無いだろ?ハルのぶんまで生きてないと

 ダメだろ?ハルのこと忘れるまで俺がちゃんと側にいてあげるから。

 だからそんなこと言わないで」


そう誠君が言ってくれたけど、誠君は誠君で、ハルはハルだ・・・

忘れることなんてできないし、代わりにもならない・・・

いまにも泣きそうな自分を必死で押さえた。

泣くとハルの死を認めることになる。

唇を堅く噛み、手にグッと力をいれ握った。


「華さん。もう行こう」


小雨が降ってきたのを感じ、誠君が手を引いた。

誠君は自分の家に私を連れて行った。


山崎さんもお母さんも誰もいなく、

シーンとした部屋にいままで感じなかった線香の臭いが充満していた。

最後にハルが寝かされていた部屋に誠君が手を引いて行った。


真新しい仏壇があり、たくさんのお菓子やジュースが山のように

積んであった。きっと骨が入っているだろう箱が目に入った。

けど、私の記憶には眠るハルしか無いので、こんな小さい箱には

到底収まりきらない・・・・きっとこれは飾っているだけだ・・・

まだ心の底で現実を拒否していた。


仏壇にはハルの写真が飾ってあった。

その写真は最初に撮ったほうのドレスの写真のハルの部分を

切り抜いたものだった。


「ハルが一番、幸せなときの写真がいいだろ・・ってそれにしたんだ」




(本当に死んじゃったのかなぁ・・・・)





そんなことを思いながらいつまでも、その緊張してちょっと変な顔を

したハルの写真を見ていた。


「どーせなら・・・映りの良いほうの写真にすればいいのに・・・」

ポツリとそう言った。


「ん・・あれのほうがいいと思ったけど、華さんの顔切れないだろって。

 まさか一緒にする訳にいかないし・・・・」


「一緒でいいよ。もうすぐ一緒になるから・・・」


「華さん。いい加減にすれよ!絶対そんなことすんなよ!

 そんなことしても意味無いよ。ハルはもう死んだんだぞ。

 華さんは生きてるんだから。頼むからそんなこと言わないでくれよ」


そう言って黙って写真を見ている私を後ろから抱きしめた。


薄っすらとハルが死んだことを認める自分と、ただ居ないだけだと

思う自分がいた。きっとハルが火葬場に連れていかれるのを

見たのなら、もっとそれは現実になるのだろうけれど・・・



なにも見ていない私にはその肝心な部分が抜けているので

いまひとつ現実を受け止めることができず、でも・・・・

(もう逢えないのかなぁ・・・)と漠然とした気持ちはどこかにあった。


「ハルの部屋・・・行っていい?」抱きしめられたまま誠君に聞いた。


「もう行かないほうがいいんじゃない?辛くなるだけだよ・・・」


「ううん。行きたいの。お願い・・・」

スルッと誠君の腕が放れ、そのまま二階に上がって行った。



ドアを開けるとハルの臭いがした。

ベットの上に脱ぎ捨てられたままのパジャマを見て、

今にもハルが戻ってくるような気持ちになり綺麗にたたんだ。


枕元に二人で笑っている写真があった。


(これ、なんの時のだっけなぁ・・・)そう思いながら見ていた。



「華さん。ちょっといいかな・・・」

そう言って写真を見ている私の手を引き、また誠君が車に乗った。


「どこ行くの?」そう聞いても誠君はなにも答えなかった。

そのまま誠君は真っ直ぐ私を家に送り、

「ちょっと待ってて。すぐ戻るから・・・」そう言って玄関を出て行った。


その姿を黙って見ながら、何も言わずにまた階段を上がり

自分の部屋に行った。まだ足元にはあの日のリュックが転がっていた。

中のモノを出し、無表情でお弁当を捨てポットを洗った。


「誠君に感謝しなさいよ。彼だって辛いんだから・・・」


そう後ろで言うお母さんの声にも何も答えず黙ってキッチンに立っていた。



(ハルの好きなものばかり作ったのになぁ・・・・)



そんなことを考えながらお弁当箱を洗った。




もっとハルの部屋に居たかったのに・・・




自分でなにがどうなっているのかが、わからなくなっていた。

ハルに会いたいのに逢えない・・・・こんなこといままで一度も無かったのに。


部屋に戻りベットに体を投げ出しボンヤリと天井を見上げた。

何を考えても行き着く所はハルのことばかりだった。



ドアが開く音に目をあけた。

知らない間に眠っていた・・・ふと目をあげるとそこにハルがいた。

慌てて体を起こし「ハル・・・」と呟き側に行った。

黙って顔を見るハルの手を握るとちゃんと暖かかった。


そのまま抱きつき、ハルの暖かさを体で感じ

「よかった・・・ 変な夢見てた・・・ ハルがいなくなった夢。

 すごく長い間見てて、、、本当なのかと思った・・・」


そう言いながらいつまでもハルの胸で泣いていた。


「華さん・・・夢じゃないよ。これが現実なんだ」


その声に顔をあげ黙ってハルを見た。

それはハルじゃなく、ハルと同じ髪型にした誠君だった。


静かに体を離し、「ごめんね・・・」と言い窓際の椅子にまた

座り外を見ていた。


「これで、もう死ぬなんて言わない?俺のことハルだって

 そう思ってもいいから・・・」

そう言って後ろに立ち肩に手を乗せた。


一瞬でも誠君をハルと間違えたことを心の中でハルに謝った。


「家に黙っていると気が滅入るからさ。ちょっと外出ようよ?

 元気になるまで俺、一緒にいるから。

 時間が経てば自然と元気になるから・・・」


そう言って私を立たせ、車に乗せた。


さっきの涙はやっと逢えたことへの涙だ。

ハルが死んだと認めた訳じゃない。自分の中で変に言い訳をした。


隣をチラッと見ると横顔は私でも間違うくらいだと思った。


(本当は嘘をついてハルなんじゃないのかな?)


ソッと顔に手をやった。ちょっとこっちを見たが誠君は

そのまま黙って前を向いた。


(ハル・・・・)


そう心の中で呟き黙って顔を触っていた。

この前とは違う暖かい顔だった。

海の駐車場に車を停め、誠君が黙ってこっちを見ていた。

そのまま黙って顔を触りながら目を見ていた。


(目は似ているなぁ・・・ どこが違うんだろう・・・・)


それでも目の前にハルがいる気分になれた。

やっぱりハルかも・・・

静かに顔を近づけ唇を重ねた。


(ハル・・・・)


そのキスはハルより上手だった。

ちょっとそれが可笑しくてクスッと笑った。


「なに?」不思議そうな顔をして誠君が聞いた。


「ううん。ハルより上手だなって・・・ もっと下手じゃないと

 ハルにはなれないよ・・・」



そんな私を見ながら、誠君は寂しい顔をしながら聞いた。


「居なくなってもう相手に触れられないのと、すぐ目の前にいて

 どうしても触れられないのとは、どっちが辛いと思う?」



「どっちも辛いね・・・・ けど、私はハルに触れられないのが

 一番辛い・・・・ ハルじゃないとダメなの・・・ハルがいいの」

そう言って誠君の顔から手を放した。



「俺、ずっとハルが羨ましかった。華さんにこんなに好きになって

 もらってるハルのことが・・・・ あの3月の事故の時に

 本当にそう思った。俺が死にそうになってこんなに泣いてくれる人

 なんかいないと思った。いつもハルに優しい華さん見て、

 変われるものなら変わりたいってずっと思っていた」


誠君の顔を見たが、どう答えていいかわからず黙っていた。


「俺じゃダメなのかな・・・顔だって似てるだろ?背だって、

 声だって、華さんのこと好きだってことも。あと何が足りない?」




(でも誠君はハルじゃない・・・・・)




「ハルはいつも、、、真っ直ぐだったの。私が好きになる分、

 同じくらい好きになってくれた。私達の好きってレベルは

 いつも同じだったの・・・・ でも、誠君は違う。

 私、誠君のこと好きになる自信無いもの・・・」


そう言って黙って前を向いた。


「どんなに努力してもダメ?今から少しずつでもいいから・・・」

そう言って静かに手を握った。


その手の暖かさに、あまり何も感じなかった。

これは誠君・・・そう思うだけでやっぱりハルではなかった。


「俺が先に会ってたら違ったのかな?」


「わからない・・・でもいつの間にか頭の中にはハルがいたの。

 それに、誠君みたいに器用じゃないでしょ?

 そんなとこにもきっと惹かれたんだと思う。それがハルだから・・・」



「もう・・・ハルは死んだんだ。いくら思ってもハルは戻らないんだよ?

 そんな奴のこといつまで思うの?」少し怒った口調で言った。


「どうだろ・・・ 私の周りにはハルがいっぱいいるの。

 たぶん忘れるなんてできない。忘れたくないし。

 もう誰も好きにならなくていい・・・・ 思い出だけでもいい」


そう言っても内心は絶対ハルが来てくれると信じて疑わなかった。

あんなに強く約束したから・・・・


「嫌って言っても連れてくよ」ハルはちゃんとそう言った。

私のことを全部好きって言ってくれた・・・

私がハルのことずっと好きでいれば絶対来てくれると思った。



「忘れるまで俺がいる。絶対側を離れない。いない奴になんか

 負ける訳ないだろ?ハルだって自分の知らない人より

 俺のほうが安心すると思うし。オヤジやお袋だって華さんが

 また家に来てくれたら喜ぶと思うから。だから、、、ハルのこと

 早く忘れてよ・・・・」


きっと誠君に「ハルが迎えに来てくれるの・・・」そう言っても

信じてくれないだろう・・・

でも絶対にハルは来てくれる。そう思いながら海を見ていた。


初めて明るい所でデートをした海を見て、

その日のことを思い出していた。


あの日、緊張をしながら砂浜を歩いたこと・・・

お互い家のことやいろんなことを始めて話したこと・・・

そして花火をした顔を見て心から(可愛いなぁ・・・)と

思い、ハルのことを好きになったこと・・・・


やっぱり心の中にハルがいっぱいいた・・・


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