表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

覚めない夢

誠君の言葉を聞いた瞬間、体にベールがかかったように

すべての音が聞こえ辛くなった・・・・


なにも言えずただ黙って、車に乗って正面を向いていた。

指先が冷たく、血が全部抜けたくらい寒気がして体の振るえが大きくなった。


病院に車を止め、誠君が運転席から降りても、

そのまま動くことができず黙って助手席に座ったままだった。

足元にハルが落としたポップコーンがひとつ目に入った。


助手席のドアを開け、

「華さん、大丈夫?」と声をかけられたが、やっぱり聞き取り辛かった。

フッと顔をあげ、誠君を見ると薄っすらと目に涙が溜まっているのが見えた。

そのまま手を引かれ病院の中に入ると、山崎さんとお母さんが

椅子に座っていた。お母さんは泣き崩れ、山崎さんは黙って下を向いていた。


お母さんが私を見て、泣きながら抱きついてきたが、

その感覚すら薄っすらとしたもので、何も言わずに黙っていた。

広い休日のロビーにはお母さんの鳴き声だけが響いた。


「ハル・・・・どこですか?」


自分の声すらどれくらいの大きさなのか、さっぱりわからず

(きっとこれは夢なんだなぁ・・・縁起の悪い夢だな)

そう思いながら山崎さんに抱きかかえられるお母さんをボンヤリと見ていた。


誠君に手を引かれ、近くの椅子に座らされたが、

やっぱり座った感覚も毛布を一枚敷いたように鈍い感じがした。


この前あんなに大泣きをした私が涙も流さないのを

見て誠君は黙って肩を抱いた。


しばらくその場に座っていたが、白衣を着た人と山崎さんが

なにやら話し、場所を移動して行った。


「華さん・・・立てる?」そう誠君に言われ、肩を抱かれたまま歩いて行った。


病室の一室から2人の看護士さんが出てきた。

お母さんはそのドアの前で泣いていた。


「華さん・・・無理に入らなくていいから。ここにいる?」

誠君の曇った声になにも答えずドアを開けた。



ハルがそこに横になっていて普通に眠ったような顔をしていた。

静かに顔を触ると、ひんやりとした冷たさが指に染みた。


「ハル?早く行かないと・・・暗くなっちゃうよ・・・」


その言葉に自分の声がハッキリ聞こえた。


「ハル・・・ねぇ、起きてよ」


そう呼んでもハルは黙って眠っているだけだった。

ハルの顔がグラッと歪んだように感じ、

(あ・・・起きたのかなぁ・・)


そう思った瞬間、もう記憶が無かった。





目を明けると知らない部屋にいた。

誰かが手を握っている感じがしてその手を動かすと隣に誠君がいた。

「ハルは?」起き上がってそう言うと、

誠君は何も答えず黙ってゆっくりと私のことを抱きしめたまま動かなかった。


何があったのか、どうして誠君が何も言わずに私のことを

抱きしめているのかも頭がボンヤリしてわからなかった。


「ねぇ・・・・ハルは?」

「もう家にいるよ・・・」


その言葉に体を動かし、ベットから出ようとしたが

誠君は黙って動けないように抱きしめたままだった。


「誠君。放してくれないと・・・ハルに会えない。それにこんなの

 見たらハルにまた怒られるよ?」


静かに体を放し「大丈夫?」と聞かれた。


「うん。大丈夫」と普通の声で答えベットを出た。

廊下に出るとそのまま向かえのハルの部屋に入っていったが、

そこにハルはいなく、振り返って「どこ?」と聞いた。


「下・・・上には運べないんだ」そう言われて下に行った。


リビングに行くと知らない人達が数人いた。

山崎さんがこっちを見て悲しい顔をしていた。


奥に布団が敷いてあるのを見て、側に歩いていくとそこにハルが寝ていた。

隣に座り、黙って顔を触った。やっぱりヒンヤリとしていた。

両手で顔を触り、黙って顔を見つめていた・・・



手を触るとやっぱり冷たく、時計が外されていたので、

手首の傷が大きく見えた。自分の腕にしていた皮ひもの

ブレスを外し、ハルの手首に巻きつけ傷を隠した。


それを見て、後ろで誠君が鼻をすすった音が聞こえた。


「ハル・・・もう起きよう?」


その声に周りのみんなが泣き出したのに気がつき

見渡すとみんな下を向いて泣いていた。


外はもう暗く、大げさな花がいくつも枕元にあったが、

本当にハルが死んだとはどうしても思えなかった。

ハルの手に「はぁ・・」と息をかけ暖かくならないか暖めていた。

手に唇をつけても冷たいままだった・・・・


それでも涙が出ず、ただ黙っていつまでも手に息をかけていた。

何度息をかけても暖かくならない手を顔につけ

その体温で手を温めようとずっと顔につけていた。


顔が冷たくなっても、何度も何度も右の頬、左の頬と場所を変え暖めた。

その姿を後ろで見ていた誠君が、


「華さん・・・もう二階にいこ・・・」と言って手を引っ張った。


その言葉を無視して、それでもずっとそこでそうしていた。

けど、強く力を入れ、誠君が引っ張り立ちあげられた。


「華さん。しっかりして。もうわかっただろ?」

肩を掴まれそう揺すられたが、また感覚が鈍くなった。


「側にいないとハルが起きた時、心配するじゃない」

「いい加減にしなよ!華さん!」


誠君の大きい声にもやはり声が

曇っているように聞こえて、耳がおかしくなったように感じた。


(だからこれはやっぱり夢なんだよ・・・きっとそうだ・・)


そう思いながら誠君に連れていかれた。


「オヤジ・・二階にいるから」


誠君の部屋に入ろうとしたが、ハルの部屋のノブを掴んだ。

それを見て誠君は黙ってハルの部屋に入ってくれた。


壁のドレスの写真を黙って見ていた。

相変わらず片目を瞑り笑っているハルがそこにはいた。

その横で嬉しそうな顔でハルにキスをする自分を見て

「この写真・・・やっぱりいいね」と誠君を見た。


誠君は何も言わずに黙って、また抱きしめた。

ハルの部屋で誠君に抱きしめられるのはちょっと違和感があった。


けど、そのまま黙って誠君の胸に顔を埋めていた・・・・


「私、もう帰らなきゃ・・・・」

「えっ?どうして」

「だってハルが来るもの・・・」



体を放し黙って顔を覗きこみ、

「華さん・・・ハル、いたよね?さっき下にいたよね」そう言って心配

そうな顔をされたが、ただボ〜とその顔を見ていた。


「寝てるだけだから。きっと疲れたんだよ・・・

 昨日・・・ハル、、何度してもした気がしないって。

 だから疲れてるんだよ。もう少し寝かせてあげる・・・」


自分で何を言っているのか分からなくなっていた。

ただ・・・・ハルは寝ているだけ。

それ以上考えることを頭が拒否していた。


そのままハルの家を出て、自分の車に乗ろうとすると

黙って誠君が助手席に座った。


「どうしたの?」


「今の華さん一人にできないよ・・・」

そう言われて何も答えずに車を出した。


「明日の葬式・・・出られる?」


そう誠君に言われても何も答えずに黙って運転をした。

家に着き、誠君も部屋に入り黙っていた。

窓際の椅子に座り、ただボンヤリと外を見た。


「さっき誠君が来たとき、いつもならハルってすぐわかるのに、

 わからなかった。ハルに怒られちゃうね」


ただ窓から外を見てそう言った。

なにも言わずに誠君は黙ってベットの端に座りこっちを見ていた。


「もう帰っても大丈夫だよ?明日になったらハル来るから。

 だから大丈夫。待ってるって伝えてね」そう言って外を見ていた。

それでも誠君は黙ってこっちを見ていた。


何時間も黙って外を見ていた。

そんな私を誠君も見ていた。


空が明るくなった頃、誠君が口を開き、

「華さん・・・行かないの?」そう聞かれた。


「ハルが来るまで待ってる・・・」

そう言ってまた黙って外を見ていた。


下に人の気配がして、誰かが起きたのだと思った。

それを聞きつけて誠君が下に降りて行き、しばらくしてから

玄関のドアが開いた。



その日はなにも動かず、ただ黙って椅子に座り外を見ていた。

いつハルが来てもわかるように耳を澄ませていた。

何度かお母さんが部屋を覗きにきて、テーブルに何か食べるモノを

置いていったが、触る事無く黙って座っていた。


少しだけ喉が渇き、リュックに入れたポットからお茶を一口飲んだ。

氷を入れたはずのポットのお茶はもう温くなっていた。


その日の夕方、バイクの音が聞こえたがハルの音じゃないので

そのままそこに座っていた。

少し遠くでエンジンが切れる音がして、誠君が来た。


部屋に入り、昨日と同じ形で座っている私に

「華さん・・・寝てないの?」と小さい声で聞いた。


ちょっとだけ振り向き、また前を向いた。


後ろに来て肩を抱き、ベットに連れて行かれ横にされた。


「少し寝たほうがいい・・・・」


そう言った誠君の手を握り黙って顔を見た。

隣に横になり、布団をかけてくれ、誠君の肩に顔を寄せ少しだけ目を瞑った。


まだ涙は出なかった・・・・


少しずつあれが本当のことだったのかもな・・・

そんなことを考えたが、やっぱり信じられなくて、その考えを振り払った。


「明日も来ないの?」


「ハルが来るまで待つの・・・」

そう言って目を閉じた。


翌日、また朝方に誠君が家を出て行った。

枕に残った臭いがハルとは違った。


写真たてに入ったいつものドレスの写真を見ながら、

ただハルは遅れてくる・・・そう思いながらいつまでも写真の

笑ったハルを見ていた。


「本当にイイ顔して笑ってるな・・・」

あの日のことを考えながら、写真を見ていた。


女の子を見てデレーとした顔をしていたな・・・とか

ドレス姿を見て「本物みたい!」と褒めてくれたな・・・とか

そんなことを考えながらいつまでも写真を見ていた。


そこにお父さんが入ってきて、写真を見る私に

「もうすぐ出棺だぞ。行かないのか?」と聞いてきた。



「なに言ってるの?もうすぐハルが来るんだから・・・」

そう言って黙って写真を見ていた。


後ろで蘭が泣きながらお父さんの手を引っ張り、部屋の外に出した。


(みんな何言ってんだろ・・・)


そう無理に思い込んで、黙って写真を見た。


その日の夕方、誠君が来ても私は何も言わずにまた黙って外を見ていた。

そんな私を見て、

「華さん・・・ 」と声をかけたが振り向かない私にそれ以上声を

かけずに黙っていた。


「誠君・・・・ 毎日疲れちゃうでしょ・・・ いいよ。帰って」

それだけ言って黙っていた。


「疲れてないよ。俺のことはいいから。華さんなにか食べた?

 ちゃんと寝なきゃダメだよ?」

そう言われたが、何も答えず黙っていた。


結局、それから数日、私はその状態で過ごした。


あの日以来・・・・ハルの家には行かず、あの後ハルがどうなったのか

一切知らずに毎日を過ごした。


仕事も誠君が上手く言ってくれたらしい。

もうどうでもよかった。それでも眠ったようなハルしか見ていない私には

ハルが死んだとは思えず、それでも来てくれるとも思えず、

なにもできないまま、明るくなれば窓際に行き、暗くなればベットに行く・・・・


そんな感じで一週間が過ぎた・・・・

その間、一日だって忘れずに誠君は来てくれた。


だんだん誠君がハルに見えてきた・・・・・




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ