湖での思い出
7月になり、どんどん暑くなってきた。
GSの時ならば日焼けを気にして大変なのに、室内の仕事になると
全然そんな心配が無いことに、安心しながら仕事をした。
休みが増えたことと、時間が短い日があることで
ハルと一緒にいる時間は前よりとても増えた。
私も専門学校での参考書を開き、ハルと一緒にその時間を
利用しながら勉強をした。かなり難しいことばかりだったが、
それでも少しずつ頭に入れていった。
来週にはハルは夏休みになり夏期講習とか行かないの?と
聞いたが「そんなの行かなくても楽勝」と余裕な返答が返ってきた。
TVでは雨竜町という所の「ひまわり畑」の話題が流れていた。
東京ドームの4個分の敷地に一面咲くひまわりの話が流れ
一緒にニュースを見て「いいね〜」と言っていた。
「じゃあさ、近いうち行かない?」
「そうだね。夏休みになったら行こうか?」
車でだいたい5時間くらいのその距離に、
ハルとの長距離は久しぶりだと感じていた。
「じゃ、バイクでいこ?なんだかそれくらいの長さ走ってみたいし」
そうハルが言い出したが、ちょっと遠いので反対した。
「いいじゃん。俺、あんまりバイクで長距離走ったこと無いんだってー」と
連日「うん」と言うまでハルは言い続けた。
山崎さんに「どう思います?」と助けを求めると
「まぁ・・・昼間だしね。いいんじゃない?」と軽い返事が返ってきて渋々OKをした。
ハルより一足早く誠君が夏休みになり帰省した。
ちょっと日焼けをし、「勉強しないで遊んでいたな〜」と
みんなで冷やかして笑っていた。
誠君が帰ってきたこともあり、翌週の休みにみんなで海に行った。
お母さんは「泳げないから」とシャツのままでいたが、
山崎さんは張り切って、水着になり
散々ハルと誠君に「腹・・・キツイよな」と笑われていた。
せっかくだからと新しい水着を買って行ったのに、
ハルに「派手すぎ!」と言われ、終始体にバスタオルを巻かれた。
そんなハルを見て「お前本当に小さいな」と誠君がからかっていた。
水着こそ派手だけど、全然泳げない私にハルは大笑いをして
その日は一日水泳のレッスンを受けた。
けど、水に顔をつけるのが嫌で結局は泳げないままで終わってしまった。
ハルは誠君が私の側に来て、チラチラと水着姿を見るのを
怒り、「見るなよ!」といつまでも誠君の近くで
「シッ!シッ!」と犬でも追っ払うかのような仕草をしていた。
そんなハルと誠君を見て、山崎さんとお母さんは嬉しそうに二人を見ていた。
ジュースを飲みながら山崎さんとお母さんと並んで
パラソルの下に入り、目の前で下手くそなビーチバレーをする兄弟を見ていた。
「やっぱり似てるね。誠君の背があと5センチくらい小さくて、
髪が短かったらハルになるね」そう言いながら山崎さんに笑いかけた。
「そうだなぁ・・・でも華ちゃんはハルがいいんだろ?」
ビールを飲みながら山崎さんがニコニコして聞いた。
「うん・・・誠君は一人でなんでもできそうだから。
友達も簡単に作れるし、彼女だってすぐできるけど、
なーんだかハルは不器用だし。側にいてあげないと寂しそうな
顔するから。だからハルがいいかな」
「華ちゃん・・・ハルのこと全部知ってるんだって?
その、、、昔のこと・・・」ちょっと言いづらそうな顔をした。
「なんでも知ってますよ?けど、それもふくめてハルだから。
でも大丈夫。もうそんなこと絶対させないから。
約束したの・・・ずーと一緒って。だからこれからもいつでも
家族の邪魔しちゃいますよ?」
そう言って笑うと後ろでお母さんがちょっとだけ涙を拭いたような気がした。
「そっか・・・もう結婚写真もあるしな。いっそのこと一緒に住んじゃえば
いいのに。な、母さん?」そう言ってお母さんを見て笑った。
「ねー」とそれだけ言ってお母さんはトイレに行ってしまった。
鼻が真っ赤になっていた。
「嫁と姑の戦いは無さそうでよかったね」と二人で笑っていた。
ビーチバレーはどっちも下手くそで勝負にならず、
「私も入れて!」とハルの側に走っていくと、
「華はTシャツ着てこいよ!」とハルが文句を言ってまた誠君の目を気にして大騒ぎをしていた。
夕方までみんなで遊び、バーベキューをしたり花火をしたり・・・
家族の一員になったうように楽しい一日を過ごした。
それからの毎日も、
ハルにくっついてGSに顔を出し、バイクを洗ったり、
仕事が早く終わる日にはハルの勉強を見たりと
早回しのように時間は過ぎて行った。
ひまわりを見に行こうと言っていた前日。
ハルとちょっと遠く離れた湖にバイクで遊びに行った。
天気が良く、写真を沢山撮りいつまでも遊んでいた。
夕方になり、
「もう明日のこともあるし、少し早めに帰ろうか」
そう言って帰り支度を始めた。
「華・・・帰りさ、ホテル行かない?」
突然そんなことを言うハルに「えぇ!どうしたの?」と思わず聞いた。
「いや、、なんかちょっと行ってみたいなって・・・」
いつもとは違い、全然照れる様子も無くそう言った。
なんとなくその感じがちょっと気になった。
「ハル、具合悪いの?どっかで休みたいってこと?」
「ううん。そんなことない。ただ行ってみたいな〜って」
「うん・・・・いいよ」そう言ってバイクに乗り、湖の近くのホテルに入った。
初めてのラブホテルにハルは喜んでいた。
(さっきのは気のせいだったのかなぁ・・・)
そんなことを思いながら、喜んで有線などをいじっているハルを見ていた。
「なんかさ、こんな所ってあの星見た日以来だな」
ベットに入ってからハルが体を寄せそう言った。
「そうだね。誰にも気兼ね無いね」そう言って笑った。
「俺はいつでも気兼ねしてないけどね?いざ始めちゃったら、
そんなの気にしてらんねーじゃん」そう言いながら唇を重ねた。
「ハル、キス上手になったね」
「先生がいいもの」
終わってからハルは枕もとにあるスイッチをパチパチといじり
一つのスイッチをONにすると天井にプラネタリウムのようなほんの少しの星が映った。
「お?なんかいい感じ」
そう言って上を向いて、それを見た。
一緒に寄り添いながらその星を見て、あの日のことを思い出していた。
そして心の中で「バイクに乗る時、ハルが無事でありますように」
と流れてもいない星を見て願ってみた。
「やっぱ変だなぁ・・・」
「どうしたの?」
「なんだかヤッた気がしない・・・」
「はぁ?なにそれ」
「朝からそんな感じしてさ。なんだろ?俺・・」そう言って天井を見上げていた。
そのままスルッと布団の中に潜り、ハルの足の間に体を滑りこませた。
「えっ!わゎ・・・ちょ、、ちょっと、、華!」
最初は驚いていたハルだったけれど、
しばらくすると静かに髪を撫でる手の感触が頭にあった。
ゆっくりと布団をめくり、ハルの視線を感じた。
「いやだった?」
「いやな訳ないでしょ・・・」
苦笑いをしたハルの顔を見てまた布団の中に体を戻した。
息があがりゆっくりと腰を動かすハルの動きに合わせ
漏れる吐息に嬉しい気持ちになった。
(ハルが喜ぶなら・・・なんでもできる・・)
ハルがイったのを感じ布団の中から「ふぅ・・・」と顔を出した。
「結構・・・・・大胆だよな・・・華・・・」
「嫌いになっちゃった?」
「いや、もっと好きになった。全部好きだよ・・・」
そのままハルの胸に顔をつけていた。
しばらくして、クルッと体の向きをかえ、また首筋にキスをして足の間に
体を入れてきた。
「えっ!まだするの?」ちょっと驚いた顔で聞くと、
「ダメ?あと一回!」そう言ってハルはニヤッと笑った。
「どうしちゃったの?」
「いや・・・なんだろ?自分でもわかんないんだけど・・・
あ!でもゴムないや・・・」
枕元のコンドームが一つしか無く、二人とも持っていなかった。
「うわぁ・・・残念・・・」そう言って胸にガックリと顔を落とした。
けれど、こんなハルを見たことが無く、なんとなく気になった。
「そのままきて・・・」そう言ってハルの首に手をまわした。
「え・・マズくない?」ちょっと心配そうな顔をしたが、
「ううん。いいの、そのままで・・・」そう言って唇を重ねた。
普通なら絶対自分もそんなことは言わないけれど、
なんとなくその日はそう口から言葉が出た。
もしも妊娠なんてしたら大変なことなのに、その時は
そんなことを考えることも無く、そのままのハルを受け入れた。
あんなに薄いモノなのに、着けているのと着けていないのとでは感覚が全然違った。
ハルもそう感じたのか、いままででお互い一番激しかったような気がした。
「華・・・ありがと・・・」
イク時にそう言ったハルの顔を見ながら自分も頭が白くなっていった・・・
その時のハルの顔がいつまでも頭に残った・・・・
お互い別れる時に、「もう満足した?」そう聞くと、
「うん。ばっちり!なんだったんだろな?もうデキない訳じゃないのに」
そう言って二人でクスクスと笑った。
「じゃ、明日9時に迎えに来るから、用意しといて」
「うん。わかった。じゃ、明日ね」
ハルはバイクに跨ったままメットを脱ぎ、ゆっくりとキスをした。
「これで子供とかデキちゃったりして」
そう言ってメットを被りバイクをUターンして手を振り帰った。
いつものようにカーブで2回ブレーキを踏み、ハルのバイクがカーブに消えて行った。
やっぱり変な気がして仕方無かった・・・
家に着いたとメールが来ても、その変な気持ちは消えず
(ハルの変だな・・・ていうのが移ったのかな?)
そう思いながら、その日は眠りについた。
次の日、家でハルが来るのを待っていた。
たぶん長距離になるからと、暑いのに長袖を持ったり、
日焼け対策をしたりと朝から忙しく用意をしていた。
「少し早くでようか?」そう言われたので、その日は休みなのに
朝の7時頃から起きて用意をした。
お弁当やお茶を用意し、カメラやシートや・・・・
イロイロな物をリュックに入れてハルとの時間に備えた。
「9時には行くよ」そう言われて8時30分にはいつもの
窓辺に座り、ハルが来るのを待っていた。
「今日は暑くなりそうだなぁ・・・」そう思いながら晴れた空を見ていた。
まだ空気はそれほど暑くは感じず、
きっと綺麗に広がるひまわり畑を想像して楽しみにしていた。
時計が9時を指し、もうハルが来ると思いながらボンヤリと外を見ていた。
ハルはいつも時間に正確だった。
耳を澄ませハルのバイクの音を聞き取ろうとしたが、
一向にその気配が無かった。
(今日は遅刻かなぁ・・・)そう思いながら椅子に座り外を見た。
「華・・・・」
ハルの声が聞こえ、窓の下を見た。
けれどどこにもハルの姿は無かった。
(あれ?いま聞こえたのに・・・・)
キョロキョロと窓から体を出し
辺りを見渡したが、やっぱりハルの姿は無かった。
9時半になっても10時になってもハルは来なく、
携帯にかけてみたが電源が入っていないと言われた。
「ん〜・・・珍しいなぁ・・・」そう思いつつも窓辺に座り黙って待っていた。
ふと・・・・嫌な予感がした。
この前の事故のことが頭に過ぎり心臓がドキドキし始めた。
きっとそんなことを言えばまたハルは「本当に心配性だよな?」と笑う。
けど、時計を見ると10時半を過ぎていて、
こんなに遅れて連絡が来ないことに、だんだん怖くなり
自分から電話をすることすらできなくなった。
そんな時、遠くからバイクの音が聞こえた。
動揺をしていたので、いつものようにマフラーの音を
正確に確認すること無く、家を飛び出した。
玄関の前に止まった姿を見てホッっとした。
けれど、どこか違うような気がして側に行くとそれは誠君だった。
嫌な予感が的中したかのように鼓動が早くなり
立っていることができなくなりそうなくらい体がどんどんと冷たくなってきた。
「華さん、後ろに乗って・・・」誠君がそれだけ言い、
メットも外さす、バイクを降りることなく黙っていた。
「ハルが来るから・・・・・」
「早く!!」
大きな声で言われた瞬間、体の血液が止まったような気がした。
そのまま家に駆け込み自分の車のキーを取り車まで走った。
「華さん!」
誠君の言葉にも耳をかさずに急いで車に乗り込み
エンジンをかけようとしたが、手が振るえてキーが鍵穴に入らず
いつまでもガチガチと鍵穴の周辺にキーを挿していた。
誠君がバイクを止め、「俺が運転する・・」そう言って
急いで運転席から降ろされ、助手席のドアを開けた。
「ハルは?どうしてこないの!ねぇ!」
そう聞いても誠君はなにも言わずに私の体を助手席に押し込め、
急いで自分が運転席に乗り車を動かした。
「ハルになにかあったの?誠君!教えてよ!」
誠君は何も言わず黙って運転をした。
体が震えて止まらなかった。
けど、不思議と涙が出なかった。こんなに不安な気持ちなのに
ただ体だけがガタガタと震え、誠君の顔を黙って見ていた。
そして気づいてしまった・・・
誠君の目が真っ赤で少し潤んでいることに。
信号が赤になり車が停まった時、ソッと右手を誠君が握り口を開いた。
「ハル・・・・ トラックと正面衝突した・・・・」と・・・・