写真だけの結婚式
少しずつ暖かい日が続き、大きな道路の雪が消え
またハルは早い時間になるとバイクに乗ってGSに顔を出すようになった。
誠君も無事に大学に受かり安心した日が続いた。
もう学校に行かなくていい誠君は、なにを思ったのか
ハルと同じ型のバイクを買い、ハルほどでは無いがたまに二人で洗車をしていた。
「誠君もバイク好きだったんだ?知らなかった」
二人で並んで拭いている側に行き、その姿を見ていた。
後ろから見るとそっくりな二人にスタッフはみんな笑っていた。
「兄貴、オヤジに車買ってもらったんだぞ。ズルくね?」
かろうじてバイクは自分で買ったようだが、車の免許を取った
誠君は手ごろな車を買ってもらったようだった。
「ハルも来年買ってもらえばいいじゃない?」
ふくれているハルに言うと、
「いいよ。俺は来年、どーせ華と地方に行くし、車は華があるじゃん。
俺はバイク持っていくから。あ、兄貴は彼女いないから
どっちも無いと大変だもんな〜」
それを言いたいが為に話を出したようなことを言っていた。
ハルの言い方にカチンときた誠君と二人であーだこーだと口喧嘩をしていた。
「兄貴、寮に入るんだろ。いつ行くの?」
「あ〜3月の末くらいかな。でも車で1時間くらいだし、
すぐ帰ってこれるんだけどなぁ・・」
誠君も家を出ちゃうんだ・・・来年になったら山崎さんも寂しいだろうなぁ・・・
そんなことを考えながら二人の喧嘩を聞いていた。
「華さん、夏休みまでにチョクチョク帰ってくるから、
ハルに内緒でデートしようね。なんたって俺、大学生だから」
「そんなこと言って、サークルだなんだって女の子いっぱい作って
悪さするんじゃないのぉ?女癖悪いらしいし」
そう言ってハルと二人で笑った。
「お前、人のことなんて言ってんだよ・・・」
舌うちをしながら誠君がハルを睨み文句を言っていた。
今年はハルも受験生ということもあり、バイトも4月の末で
辞めることになっていた。
私は専門学校だから、なんの問題も無く入れるが、
ハルは受験があるので、失敗すると一年空いてしまうので
そこそこ勉強しなきゃならない!ということで、そう決めたらしい。
「あ。そうだ、来週の日曜にバイト先に来てくんない?」
「どうして?」と聞くと薄ら笑いをしながら「内緒」と言い、
なにも言わずにバイクを磨いていた。
「なに?バイキング食べ放題とかあるの。俺もいい?」
暇なのか誠君もそう言いだし、
「兄貴は来るなよ・・」とまた喧嘩が始まった。
結局「仕方ねーなぁ・・・でも来るともっと俺のことが羨ましくなるぞ?」
と変に余裕な顔をするハルに返って誠君は興味を持ち、
その日は誠君と二人でハルのバイト先に行くことになった。
当日、誠君を迎えに行くと
「じゃ、俺のバイクで行こうよ!」そう言って誠君が鍵を持って部屋から下りてきた。
「あ・・・いいよ。私の車でいこ?」
「え〜 いいじゃん。俺ので行こうよ〜」
「いいってばー!車にしよー」
「バイクにしよってー」
そのやり取りを見て、山崎さんが笑いながら外に来た。
「誠・・・華ちゃんはハルのバイクにしか乗らないんだってさ。
この前ハルが自慢してただろ?諦めて車で行けって〜」
そう言って言い辛いことを言ってくれた。
ハルとそんな約束をした。
誠君には悪いな・・・と思ったけれど自分でもハル以外の人の
後ろには乗りたくなかった。
「あ〜ぁ。せっかくバイクに乗れると思ったのに・・・
じゃ、俺の車にしよ?ならいいでしょ?」
さすがにそこまでは断れないので誠君の車でハルのバイト先に行った。
妙に人が沢山いる・・・けどそれは結婚式では無く
若い女の子達がワイワイとしていた。
「お!あの子可愛い〜」そう言いながら誠君がキョロキョロしていた。
ハルを探して辺りを見渡すと、ちょっと奥のほうで
誠君と似たような顔をしながらデレ〜としてハルが立っていた。
「そんな顔見に来いって言ったの?」横に行き並んでいるのに
しばらくハルは気がつかずに前を見ていた。
「わっ・・・いつから居た?なに、いつもの顔じゃん」
そう言いながら慌てて顔を引き締めた。
「で。何?このいっぱいのデレ〜とする元は」
「だからしてないってばー」
近くに書いてある看板を見ると
<ウェディングドレス試着会>と書いてあった。
「へぇ・・・そんなのするんだ?」
どうやら、試着会を餌に結婚式をする人を集めるイベントらしかった。
中には真剣に式を決めようとしているカップルもいるが、
ほとんどはまだ結婚もしそうも無い若い子達がドレスを着てみたくて
集まったような感じだった。
「で、これがなにか?」
「いや、着てみたいかなって・・・写真も撮ってくれるんだよ?」
(嬉しくないの?)と言う顔でハルが言った。
「え〜・・・・いいよ。別に着なくても」
それほど興味が無かったので、そうは言ったがガッカリするハルの顔を
見て、ちょっと可哀相になった。
「せっかくだから着てみたら?タダだしさ」
誠君もそんなハルの顔を見て笑いながら言った。
「ん。じゃあそうする」と言うとハルは「いいのあるからさ!」と言い
一押しというドレスの所に引っ張って行った。
若い時しか着れないなぁ・・というようなミニスカートだった。
誠君も暇だったのか、女の子を見ていたのか、あちこちと見て回り
「俺はこれがいいと思うな〜」とまた二人で口喧嘩を始めた。
式場の係の人に
「俺の彼女。着てみてもいい?」とハルがちょっと年配の女の人に
言うと、その人は笑いながら「仕方無いわね〜」と言って
フィッテングルームに案内してくれた。
軽く髪もセットしてくれて、アクセサリーまで本格的につけて
化粧までされた。
なんだか大げさな感じになったが、一応は完成した。
「わ・・・なんだか派手〜 こんなんだっけな?」
自分の見たことが無い格好にちょっと戸惑った。
係の人は出来上がった私を見て、
「ん〜 やっぱり若いうちは何着ても可愛いわね」
そう言ってくれたので、ちょっとテンションがあがった。
「ハル君〜。彼女できたわよ〜」
呼ばれてハルと誠君が撮影所に入ってきた。
「わ・・・ 凄いじゃん!本物みたい!」と言うハルと
「孫にも衣装・・・」と言う誠君の対照的な意見だった。
「じゃあ、写真撮るからそっちに行ってね」
係の人に言われたところに歩いて言った。
やっぱりハイヒールは苦手だった・・・
その格好を見て、「またバンソウコウいる?」とハルが笑いながら横を歩いてきた。
「これって一人で撮らないとダメなのかな?」
「え、一人って・・どの子と撮りたいの?」
「馬鹿じゃないの・・・どーせならハルと撮りたいに決まってるじゃない!」
「えっ・・だって俺、制服だよ?」
ハルの制服はウェイターということもあり、白のシャツに黒の蝶ネクタイ
だから、そんなに可笑しい格好でも無かった。
「いいじゃない?それで」強引に手を引っ張りカメラマンの人に
「一緒に撮っていいですか?」と聞くと
さっきから側にハルがいてスタッフと知っていたのか
「あぁ。いいよ」と軽く返事をしてくれた。
緊張するハルに誠君が目の前で変な顔をして笑わせようとしたが、
全然笑わず、カメラマンの人も「もっとどうにかならない?」と笑うほどだった。
「あの夜より緊張してるね?」小声で言うと、
「そんなことねーよ」と言いながらも額に汗をかいていた。
「じゃあ、俺が一緒に撮るわ。ハルどけ!」と誠君が笑いながら
隣に来ると「いや、大丈夫!」と言って少しだけ柔らかい表情になった。
やっとのことで一枚撮ってもらい、
「もう一枚撮る?なんならキスシーンとか」そう冷やかすカメラマンに
「いいです!いいです!」とハルは慌てていた。
周りのドレスを着た子達もそんなハルを見て笑っていた。
「じゃ、もう一枚お願いします!」そう言ってハルの頬にキスをした。
タイミングよくその瞬間をカメラに収めてくれ、
「はい。ばっちり撮れたよ!」とカメラマンが笑顔でOKを出した。
緊張しすぎてヘロヘロしたハルを見て、誠君は大爆笑していた。
「うるせーな。あの場に立ってみろよ!」そう怒りながら
慌ててハルは自分の持ち場に戻って行った。
その後、普通の服に着替え誠君の側に行った。
「あと何年かしたら、本当にあの姿が見れるのかなぁ〜」
「どうだろ?ハルが嫌って言わなきゃね」
撮影も終わり、忙しそうにしているハルに「家で待っている」と伝え
誠君と二人で会場を後にした。
そのままハルの家で帰りを待とうとしたが、誠君がせっかくだから
どこかにドライブに行こうというので、少しだけ付き合うことにした。
「どこがいい?行きたい所ある」
そう聞かれたが、この周辺はほとんどハルと行ったことがある所ばかりで
今ひとつ思いつかなかった。
「じゃ〜 一番最初にハルとデートしたのってどこ?」
そう聞かれて夜景が見えるその場所を教えた。
「へ〜 アイツこんな所知ってたんだ?今度彼女できたら
ここに連れてきて俺が見つけたことにしよっと〜」
そう言って誠君はハルに内緒ね!と笑っていた。
なにげなく見た大きな木に二人で書いた落書きを見つけ
「なにこれ?」と笑っていた。
「ん?この落書き消えてしまわないように、毎年一度はここに
来て、残しておこうねってハルが書いたの」
そう答えながら、まだ彫ったばかりの白い落書きを触った。
「華さんって変わってるよね。ハルのどこがそんなにいいの?
普通のガキじゃん。わっかんね〜」
「ハルのさ・・・手首見たんだ・・・」
そう言うと誠君が黙って顔を見た。
「ハルが生きていてくれて本当に良かったと思った・・・
もう絶対悲しい思いはさせたくないって・・・・
自分にできることなら、なんでもしてあげたいなって思ってる。
たぶん私のほうがハルのこと好きだと思うよ?」
そう言って誠君の顔を見て笑った。
「華さんに会ってハルすごく変わったと思うよ。
前はあんまり家でも話とかしなかったしね。オヤジもお袋も
本当に喜んでる。ちょっと俺は悔しいけどね」
「誠君だってモテるでしょ?その性格じゃ大学ですぐに
いっぱい彼女できちゃうと思うよ」
そう言いながら二人で一番高い所に歩いて行った。
「オヤジも俺に先に紹介してくれたらよかったのに・・・
でもまぁ・・・あんなに幸せそうなキスシーンまで見せられたら
仕方無いか?水族館で舌入れてたでしょ」
「ばっかじゃないの?そんなことする訳ないでしょ!」
そう言って誠君の背中を叩いた。
「ハルのことよろしくね。きっと華さんと離れたら灰になると思うから。
今度は逆の手切っちゃうよ・・・」
そう誠君は笑ったが、その言葉にドキッとして顔を見た。
「あ・・・嘘。ごめん、ちょっと不謹慎だった。ごめん・・」
「ううん。大丈夫。そんなことさせないから。それに、ハルがいなくなったら
私も一緒に死ぬって言ったもん。それでも切るなら一緒に切っちゃうもん」
「俺がいなくなった後、オヤジやお袋もよろしくね。
たまに帰ってくるけど、寂しいだろうから一緒に居てあげてね」
長男らしいこと言うな・・・そう思いながら誠君を見ていた。
髪型をもっと短くすれば本当にハルにそっくりなその顔を見ながら
(こんなに似てるのに、どうしてハルじゃなきゃダメなんだろ?)
そんなことを考えながら、車に乗った。
「安心して行ってね。みんなのことちゃんと見てるから。
たまにはちゃんと顔見せてあげなきゃダメよ?
ハルだってきっと寂しいだろうから・・・」
「俺さ・・・ハルが学校で嫌なめにあってるなんて全然知らなくてさ、
なんだろなぁ・・・転校生ってだけで目立つじゃん。
アイツって俺と違ってあんまりヘラヘラしないしさ。
人見知りすんだよな。だから格好つけてるとか思われたんだろな。
何度か殴らたような傷とかあっても、転んだとか、プロレスだとか
嘘言っていてさ。プロレスとか全然興味無いのに・・・
あの日・・・・ハルのやつ朝、具合悪いとか言ってさ、、
オヤジも仕事で、その当時お袋も仕事しててさ、
俺が学校サボって彼女を家に連れ込んで、
そしたら風呂場でさ・・・・・本当にハルが死んじゃうかと思って
俺、どうしていいかわからなくて。あーゆー時って女のほうが
しっかりしてるな。俺、その子の指示で119とか手首にタオル
巻いたりさ・・・・ その子、今年から看護学校行ったわ。
やっぱ素質あったんだなぁ〜 すぐ別れちゃったけどね」
そう言ってこっちを向いたが、私は外を見るフリをして涙を隠していた。
止まらない涙が誠君にバレて慌てて誠君は
「ごめん。泣かすつもりじゃないかったんだ。ごめんって!」と何度も謝った。
「誠君の女癖の悪さに感謝しないとダメだね・・・」
そう言って涙を拭いた。
「ちょっと〜 そんな言い方しないでよ。そんなに女癖悪くない俺・・・・
ったくハルの野郎・・」文句を言う誠君を見て少し笑った。
「ハルはもう嫌なこといっぱい経験したから、これからはきっと
楽しいことしかないよ。私の分まであげる。ハルになにかする人は
私が殴っちゃう!ボクシングでも習おうかな?」
「習わなくても大丈夫だよ。怒ったら華さん怖そうだもの」
そう言ってエンジンをかけ車をバックした。
(もぅ!)と背中を叩くと「ほらね?すっげぇ痛いもの」と
大げさに痛がり笑った。
「もうこんな時間だね。ハル帰ってきちゃうね」
「あ〜 本当だ。じゃあハルにはホテル行ってきたって言うわ」
「女癖悪いから本当に信じちゃうかもよ」
二人でクスクス笑いながら家に戻った。
玄関の前にハルのバイクがあり、家の中に入るとハルが慌てて走ってきた。
「華!大丈夫だった!」
「なにが?」ハルの慌てた顔を見て驚いて聞いた。
「兄貴になにかされなかった?」誠君をチラッと見ながら言うハルに
可笑しくて二人で笑った。
「お前な・・・帰っていきなりそれかよ・・・・俺どれだけ信用無いのよ?
弟の彼女に手出すほど落ちぶれてないから・・・・」
呆れた顔をして誠君が答えた。
「だって携帯かけても出ないし、華の携帯も出ないしさー」
車に鍵をかけたから安心してバックを置いていったので電話に気がつかなかった。
誠君は部屋に携帯を忘れていってたらしく、ハルは下から二階に電話をかけていたようだった。
「大丈夫。ハルのこと大好きって言ってたの」
そう言って「ね?」と誠君に言った。
「そうそう。全然俺には興味無いんだってさ」
そう言ってリビングに入って行った。
そのままハルと部屋に入り、二人でいた時にした話を教えてあげた。
「誠君がいなくなったら山崎さんとお母さんのことよろしくねって。
ハルがしっかりしなきゃダメだよ?」
「そっか・・・で、どこ行ってきたの?兄貴と」
「ん?別にその辺ちょっとドライブしただけ。やっぱりハルの
バイクのほうが楽しいかなぁ・・・」
夜景の場所を教えてというとハルは「えぇー」と言うと思って
内緒にしておいた。
「じゃあ来週の休みは久しぶりにバイクでどこか行こうか?
ちょっと遠出してみよ」
「うん!」
そして二人で来週の計画を立てながら地図を見た。
横で笑うハルの顔を見ながら、一緒にいれてよかったと
今日の話を聞いてまた強く思った・・・・・